第5話

クリスマスの朝、冷たい外気が窓を打ち付けているが、彼女の部屋の中はあたたかい。窓の外には雪が静かに降り続け、白い世界が広がっている。部屋の中には、クリスマスツリーの明かりが優しく灯り、白いレースのカーテン越しに朝の光が差し込んでいる。小さなテーブルには、クリスマスケーキが置かれ、二人はそのケーキを一緒に食べながら、しばらく言葉少なに過ごしていた。


「美味しいね。」彼はケーキを一口食べると、満足そうに微笑んだ。クリームが少し唇に残っていて、その仕草もどこか愛おしい。彼女は少し照れくさそうに、でもうれしそうに答える。


ケーキは甘く、シャンパンの泡が軽やかにグラスを揺らしている。どちらも、食べることに集中しているわけではない。言葉少なに、時間が流れていった。


「一緒に食べるから余計に美味しく感じる。」彼女はケーキの一切れをフォークで取って、彼に差し出した。二人の間に、無言の安心感が広がる。どちらも、何かを話す必要は感じていない。ただ一緒に過ごすことが、心地よかった。


二人はゆっくりと食べ終わり、グラスを重ね、今度は無言でソファに腰掛ける。外の寒さを忘れ、部屋の中はあたたかい光に包まれている。


彼女はソファに座りながら、彼の隣に寄りかかっていた。二人の間に横たわる小さな温かさ。それは、忙しい日々を忘れさせるような、静かなひとときだった。仕事に追われ、やっと迎えたクリスマスの朝。ここにいることが、どれほど特別なことか、二人とも言葉にはしなくても感じていた。


彼はしばらくの間、ケーキを食べることに集中していたが、急に目がかすむような気がして、思わずまぶたを閉じた。疲れが一気に押し寄せてきたのだ。彼女も、その静かな空気に身を任せ、ソファに身体を預けた。


しばらくして、彼はゆっくりと目を閉じる。疲れがたまっていたのだろう。隣に座る彼女も、少しうとうとし始めていた。


「眠い…」彼はぼんやりとつぶやく。無意識に肩を彼女に寄せる。彼女はほんのり笑って、ゆっくりと彼の髪を撫でた。


「うん…私も。」彼女は、少しの間目を閉じ、まるで寝息を立てるようにゆっくりと呼吸を整えた。外の雪はやさしく降り続け、まるで二人の時間が降り積もるかのように感じられた。


やがて、彼女も目を閉じて、静かな眠りへと誘われていった。二人は静かにソファに寄り添いながら、ただお互いの温もりを感じ合っていた。言葉はなくても、そこには十分すぎるほどの安心感があった。


そして、二人はそのまま眠りに落ちていった。静かな部屋の中で、ただ彼女のぬくもりを感じながら、穏やかな眠りにつく。外では雪が降り続けている。


ケーキの箱が机の上に残され、彼の手にはまだフォークが握られている。それでも、二人の身体はすでに夢の世界へと沈んでいった。外の世界がどれだけ忙しくても、どれだけ寒くても、二人にとってこの瞬間だけは特別なものだった。大切な瞬間を共有しているだけで、心は満たされていく。


部屋の時計は静かに刻む。二人の寝息は変わらず穏やかだ。ふたりの時間が白い部屋に溶け込んでいくように感じられた。


外の雪はさらに強く降り積もり、すべてが一瞬、白亜に染まったように見えた。雪の降る音も、彼女の部屋の中で響く静けさに溶け込んで、二人の夢の中に入り込んでいく。

     

クリスマスの朝が静かに過ぎていき、二人の心は、祈りと慈しみの気持ちで満たされていた。








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クリスマスとしあわせ/クリスマスツリーに星願い/みんなのクリスマス/神聖なる星のクリスマス 紙の妖精さん @paperfairy

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