明晰夢が映し出すモノ
朧月アーク
明晰夢と現実
目を閉じると、すぐに彼女は謎の場所にいた。
周囲には広がる空と、白く輝く雲だけが見える。
まるで無重力の世界に浮かんでいるような感覚に包まれていた。
ここはどこだろう?
ゆっくりと歩きながら、彼女は考える。
空の青さ、雲の白さ、それらはどこか現実の世界と似ている。
しかし、この静けさ、そして不自然なほどに完璧な景色は、何かがおかしいことを示していた。
私は、夢の中にいるんだ。
突然、その思考が脳裏に浮かび、彼女ははっとした。
思考が明晰に働き始め、これが夢だと気づいた瞬間、夢の中の世界が少しずつ変わり始めた。
雲が動き、空の色が濃くなり、地面が現れる。
その変化は、まるで彼女の意識が強くなることで、現実のように見えるものが形を持つかのようだった。
夢の中でも意識がある。
それが『
そして、その自由を楽しむことに決めた。
空を飛んでみよう。
彼女は一度だけ深呼吸をし、軽やかに地面を蹴った。
次の瞬間、彼女は空高く舞い上がり、都市の夜景を背にしながら空を飛んだ。
風を感じ、夜空を駆け抜ける感覚は、現実では到底味わえないものだ。
彼女は笑みを浮かべ、心からその感覚を楽しんだ。
夢の中だからこそできること、現実ではあり得ない自由。
それを体験していることが、どこか不思議で、同時に心地よかった。
だが、次第に彼女は不安に駆られた。
夢の中で何でもできる自由が、逆に自分を縛りつけているような気がしたのだ。
自由を求めるあまり、夢の世界に閉じ込められているのではないかという疑念が、心に広がってきた。
これは本当に私が望んでいたこと?
彼女は思考を巡らせながら、飛んでいた空から降りて地面に足をつけた。
周囲には、見慣れた街並みが広がっている。
しかし、どこか不自然で、すべてが色褪せて見える。
やっぱり、夢だ。
彼女は目を閉じた。
そして、ゆっくりと現実の世界に戻っていく。
明晰夢の世界は、確かに自由だった。
しかし、それは現実ではない。
途方も無い自由を得たとしても、不思議な力で空を飛べたとしても、夢の中で生きることには限界があると、彼女は理解した……してしまった。
周囲の音、肌に感じる空気の冷たさ、そして目を開けると、見慣れた天井が目に入る。
彼女は深く息を吸い込み、現実の冷たさを感じた。
その冷たさが、今の自分を現実に繋ぎ止めているような気がした。
明晰夢の世界でどれだけ自由を感じても、それだけでは満たされないものがある。
明晰夢の世界での自由は、確かに魅力的だった。
しかし、夢でしか得られないものに、あまりに依存してはいけないと感じた。
彼女は確信し、深く息を吐いた。
夢の中の自由を楽しむことはできても、現実の感覚が失われたままでは、心は満たされない。
この世界を大切にしよう。
そう心に誓い、彼女は深く息を吐き、ベッドから起き上がった。
明晰夢が映し出すモノ 朧月アーク @obiroduki-yakumo
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