第3話 地獄の果てまでも
「仕方ないわね、ティル。本気を出すから同化するわよ。」
「はいな! と言う事は神器も使うんだね。」
そう言うと、ティルは光に包まれると輝く炎になって私の中へと溶け込む様に消えていった。
「契約精霊と同化した所で基礎能力が上がるだけだろうが……って何? 神器だと? 神器は契約精霊を生贄に捧げないと具現化できないだろうが! 貴様の精霊はそこに居る奴では無いのか?」
マネカミは神器と聞いて焦った顔をし始めた。神器は世の中の法則を無視した力を発揮できるからだ。能力の相性が悪ければマネカミの有利性は消えてしまうと考えたからだろう。
「残念ながらうちのティルは特別なのよ。さて、精霊術はイメージの産物と言ったわよね? 私が何をイメージしているか当ててみて。」
不敵な笑みを浮かべながらヒジリがゆっくりとマネカミの方へと一歩踏み出す。
「何? 右ストレートを顔面に? バカなのか……」
そこまで言うと、ヒジリの右拳がマネカミの左頬に吸い込まれていた。そしてそのまま後方へとマネカミは吹き飛ばされた。
「要するに、見えてもアンタが反応できない速度で攻撃すれば良いだけよね? 火の精霊術の『身体強化』を使ってね。」
そう言って右拳を開いて拳の具合を確認する。そして右手がドンドンと青白く変色して腕が炎の様に変化していった。
「バカな、ボクだって火の神になるべくここで火の精霊力を喰らい続けて来たんだ。『身体強化』ならボクだって使っている! 貴様の力は一体なんなのだ!?」
マネカミは急いで立ち上がると、信じられない物を見たと言った顔でヒジリの方を見る。そしてヒジリの炎の右腕を見て戦慄を覚えた様だった。
「コレが私の神器『原初の右腕』よ。私が何をイメージしているか解るかしら?」
ヒジリがそう言うとマネカミは顔を真っ青にしてガタガタと震え出した。まるで悪魔でも見ている様な表情だった。
「バカな……その力は……火属性どころでは無い。貴様達は一体何なのだ!?」
マネカミの問いにヒジリは仕方ないように答え始めた。
「私の名前は『
最上位精霊と聞いてマネカミの顔がドンドンと青ざめて行くのが解る。
「最上位精霊だと……? そして最上位精霊が神器化した場合は、その力は名前の通り神にも匹敵する力の筈。」
マネカミがしゃべりながら後ずさりをする。本体の8割を神器化して力を失っているからあの精霊の本当の力にも、神器にも気が付かなかったのだ。手を出す相手を間違えたと後悔の表情で逃げ出す。
しかし逃げられる訳が無かったのだ。
「逃げるのも遅いわよ。」
ヒジリの声がマネカミの目の前から聞こえたかと思うと、あっという間に回り込んだヒジリの燃え盛る右手に顔を掴まれていた。そしてその熱が、同じ火属性で熱や炎に耐性のあるマネカミの表皮を焼いていく音が聞こえだした。
「一つ聞きたいの。この奥には何が有るのかしら? そしてさっきアナタが化けていた彼の事を見た記憶は無い? 返事次第では許してあげるわよ。」
その言葉を聞いてマネカミは懇願する様にしゃべり出した。
「こ、この先は……アッツツツゥゥゥ! 神の如き力を持たざる者は通れない壁が有る! グァァァ……アッツゥゥゥ! 俺は通れないからその先は知らない! それにさっきの男の事も見た事なんて無い!」
ヒジリはそこまで聞くと手を離した。そして残念そうな表情を浮かべて先に進みだす。
「た、助かった……。」
マネカミは一目散に逆方向へと走り出した。それの様子を見てヒジリは振り返ると右手をマネカミの方へと広げた。
「ま、嘘だろ!? や、やめてくれぇぇぇ!」
マネカミがヒジリのイメージを読んだのだろう。しかしヒジリの頭は怒りで一杯だった。
「タツミ君の真似をしたアンタを許すわけ無いでしょう! 塵も残さず爆散しなさい!」
そう言うと手の前に二つの火球が具現化する。手前の火球は小さく青白い炎を纏っているが、奥の方の火球はドンドンと大きくなり直径2メートルを超える程になった。
「バ……それって……核ゆ……。」
マネカミが何か言いかけた瞬間、それは勢いよく爆音と共に発射される。
「ニュークリア・エクスプロージョン!」
撃ち出された火球は一瞬でマネカミを捉え、そのまま奥の方へと壁を突き破りながら遠方へと吹き飛んで行く。そしてしばらくの後、耳をつんざく様な有り得ない規模の爆音と爆風が洞窟内を駆け巡ったのであった。
「ふぅ、ちょっと本気出し過ぎなんじゃない? ニュークリア・エクスプロージョンを出すまでも無かったでしょ?」
いつの間にかフードの中に戻っているティルが呆れた声で言っていた。
「流石にタツミ君の真似だけは許せないわ。塵も残す価値が無いわよ。」
「おー、怖い怖い。恋するストーカーは違うわね。」
「ちょっと! そこは恋する乙女と言う所じゃ無いの!?」
二人はいつもの軽快なやり取りを始める。そして気持ちが落ち着いたのか、洞窟のさらに奥の方へと視線を送る。
「アイツの話の通りだと、この先が目的地かしら?」
ヒジリがそう言うと、ティルも静かに頷いた。
「そうね、ついに目的地に来たわね。タツミに無事に会えるかは解らないけど、ヒジリは何を言っても行くんだよね?」
「もちろんよ。4年追っかけて、やっと付き合えて。これからだって時にあんな別れ方をしたんだもの。諦めきれる訳が無いじゃない。」
そう言ってヒジリは後ろに手を伸ばしてティルを抱き上げると視線を合わせる。
「私はね、諦めが悪い女なの。だから地獄の果てまでも追いかけるわ。だって私はタツミ君のストーカーだしね!」
「分かってるわよ。地獄だろうが、天国だろうが付き合うわよ。だって二人とも私の大事な相棒だからね。」
そう言い合って二人は笑顔で笑いあった。きっと二人ならこの先何が有っても大丈夫と言った信頼が確かに感じられる笑顔だった。
「さぁ、行くわよ。タツミ君を見つけてこの地獄の底から引っ張り出してあげないとね! 待ってなさいよ。アナタの彼女は諦めの悪いストーカーなのだからね!」
そう言うと、再びティルをフードの中に戻して歩き出す。
この陽気で一途で諦めの悪い、自称ストーカーの精霊使いの旅はまだ終わらない。
ストーカー精霊使いの旅路 @texiru
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