話題のドラゴンメイド!

 開かれた冷蔵庫より溢れた光が闇を払う。

 清潔感ある白の中へ伸ばされた手は、目当ての牛乳パックを掴んで闇へと引っ込む。

 しばし、豪快な嚥下音が響き渡る。


「ぷあっ」


 間の抜けた声を発する者は、翡翠色の瞳を仄かに光らせる。


「お風呂上がりの牛乳は最高です!」


 装備はタオルのみという無防備な姿で、エフェメラは晴れやかに笑った。

 微かに上気した柔肌を隠そうともしない。

 しかし、ここは彼女の牙城たる借家、遠慮は無用。


「ええっと、今日のニュースは……」


 牛乳パックを片手に、傷だらけのスマートフォンを起動させる。


「わぁ……すごい人気の記事」


 トップ記事を何も考えずにタップ。

 初仕事を終えたエフェメラは上機嫌だった。

 先輩にはこそ注意されたが、掃除では及第点を貰えたのだ。


「メイド、迷宮配信者ライカの窮地救う……立派なメイドさんもいるんですねぇ」


 風呂上がりの心地良さに浸るエフェメラは、すべてを穏やかに見流す。

 勇敢なメイドに多少の親近感を抱くが、それだけだった。


「お名前は、エフェメラさん…?」


 メイドの名前を唱えるまでは。


「ええっと……」


 機嫌よく揺れていた尻尾が静止し、床へと垂れていく。

 翡翠色の瞳が現実を認識するまで、実に30秒の時を要した。


「エフェメラ!?」


 哀れ、牛乳パック。

 天然プレス機の圧縮を受けて爆裂し、内容物で豊満な胸を白く彩る。


「ど、どどど、どうして私が…!」


 エフェメラは傷だらけのスマートフォンを前に動揺を隠せない。

 科学の光に照らされた影が借家の壁へと伸びる。


「だ、大丈夫……まだ正体には気づかれてない、はず!」


 それは姿

 角で天を衝き、大翼で空を覆い、尻尾で大地を撫でる。


 その巨影は――文化的貴族種たるドラゴンそのもの。


 エフェメラはドラゴンメイドなどではない。

 魔術によって種族を偽ることが可能な高位存在――


「でも、このままだと送還されちゃう…!」


 送還対象に指定されている純血種、真なる王冠ヴェルム・ロア


「そうだ!」


 国家群の電力を単独で賄えるエフェメラは、迷案を閃く。

 これからもサブカルチャーを満喫し、食に舌鼓を打つために。


「清掃員に擬態すればいいんだ!」


 それができれば苦労はない。

 しかし、白濁塗れのエフェメラは頭脳労働が苦手であった。

 彼女自身に、その自覚は全くなかったが。


 ――後に、擬態の清掃員が東京を揺るがす騒動を巻き起こすのだが、それはまた別のお話。

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ダンジョン&ドラゴンメイド バショウ科バショウ属 @swordfish_mk1038

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