第2話 斥候を加える

 方針は決まった。ならどこに逃げるか。


 次に立ちはだかった問題はそれだった。


 勇者の仲間、とやらだった奴は各国の王侯貴族の子息が多い。それらの故国じゃない場所はあるのかといえば少ないというのいわざる得なかった。



「ならこの大陸からいっそ離れるという手もあるんじゃないか?」

「別大陸へ? でも聞いた話だと向かった人で帰ってきた人はいないって評判だった気がするんだけど」


「大丈夫、


 ? 何言ってんだこいつ? と頭の具合を心配した。


「……認識阻害を船全体にかけておけば襲い掛かってくる奴も少ないだろう。別大陸にもつく可能性は高いと言っている。場所自体はもう既に判明しているからな」


 認識阻害便利過ぎない? と思った。




 一応信じていいかはわからないけどこの大陸で逃げる場所も少ないことも事実なので別大陸に行くという方針になった。言い出したのがこいつなので誘導されている感もあるしそもそも別大陸とやらが安全なのかすらわからないが私の平穏な生活がこいつの認識阻害の術に依存するというのも嫌だったので誰も私のことを知らない別大陸に行くのはありだ、と判断した。


 そのためまずは船が出ているだろう港町。それも大きな港町に行こう、ということになった。



 道中は認識阻害で魔物も寄ってこないので今までの旅が何だったんだというくらい戦うことのない日々だった。


 魔族や魔物の脅威にそれほど晒されていない地域の人には特に感謝されない勇者としての旅。平民だからとことあるごとにいびってくる仲間もどき達、押し付けられる力自慢という名の厄介者。


 これらから解放されたというだけで裏切られた価値はあったなとは思う。少なくとも王国貴族様のあいつらとの縁は切れた。両親もすでに死んでいるし、そこまで仲の良い友人がいるわけでもないのでこの大陸から離れることに抵抗はない。


 まあ別大陸に行く船が都合よく見つかるなら、という話にはなってくるけど。





「お、あいつがちょうど良いな。ここら辺の地理や情報にも明るそうだし一時的に仲間にしよう」

「は?」


 港町アグアト。魔族の生存領域に近い場所にある港町だ。今は魔族はかなりの数を掃討してしまっているので近い場所にあるといっても魔族の襲撃があるわけでもなく人の姿もある程度多い活気のある港町として栄えていた。


 そこに入ってすぐに情報収集とやらで旅人ギルドに入って周囲を見回していたかと思うと一人の少女に目を付けたのかこんなことを言ったのだ。


「ひょっとして女の子侍らせたいの?」

「違う。。まあ斥候っぽい格好だからな。俺は認識阻害はかけられるが敵を早くに察知できるわけではない。いた方がいいと思ったから声をかけるだけだ」

「なんか理由弱くない?」

「まあ弱いよな。言っておいてなんだが微妙な理由だ」

「まあ別にあんたがそうしたいなら私は断ることはできないからそれでいいけど」

「ああ、そうする。意味はあるからな」



「え!? だ、誰ですか? ってかいつからいました!?」

「今だよ。ちょっとお前に頼みがあってな。声をかけたんだ」


 何か見覚えのあるやり取りを見た気がした。


「何です? ボク、大事な用事があるんですけど」

「実はな、ここだけの話だぞ」

「? 何です?」


「隣にいるこの人は変装しているけど実は勇者様なんだ」


 ちょっ! 言ったら駄目じゃない! この子も動揺してるじゃない!? 


 ビクっと一瞬震えて……? 今一瞬あれ? いや、気のせいか。


「そ、そうなんですか。この方が勇者様……」

「ああ、それに関連してまあ用事がこの港町にあってな」


「詳しくは酒場で話そう」

「わ、分かりました。あ、でもボク今大事な用事の最中なので知り合いに少し仕事を中断すると伝えてきていいですか?」


「ああ良いぞ。。勝手に仕事中のお前に用事を頼むわけだからな。連絡は必要だろう」

「……良いの?」

「良い。。心配はいらない」


 いや、貴族連中に密告しに行かれるんじゃないかってことだけどこいつちゃんとわかっているんだろうか?

 ……まあそれだったらこの子に声をかけるってことをそもそも止めなきゃいけなかったわけだし今更か。




「それで、勇者様とそのお仲間の方がボクに何の用ですか?」


 酒場に場所を移そうという話になって食事をしながら話をすることにした私たちは港町ならではの新鮮な魚の料理パクついていた。


「長旅に耐える船に乗りたくてな。この大陸から離れようと思っている」

「え? 何でです?」


 唐突な話に当たり前だけどラノと名乗った少女は疑問の表情を浮かべていた。いや、話飛躍しすぎだろ、もっと分かりやすいところから話しなよ。


「それじゃ話の流れ分かんないでしょ」

「そうだな。ここだけの話、魔王ということになった魔族を討伐した後仲間面していた貴族連中に裏切られてな。魔族はある程度掃討した。平民のお前にもう用はないぞ、死ね、と勇者様は切り捨てられたわけだ。ついでに流れの戦士の俺も切り捨てられた。ま、だから貴族連中の息のかかっている地域の多いこの大陸を捨てて別の大陸に行こうって話になったわけだ」

「大体あんたが話決めたような気がするけどまあ、そういうことよ」


「そうなんですか……」

「こいつが魔族にとって特効の聖剣を所持したまま別大陸に行くのは復讐にもなる。魔族にとってこれだけはあっては困るという聖剣をわざわざこの大陸から持ち出してくれるんだ。それだけで。そうだろ?」


「そ、そうかもしれないですね。人族であるボクたちにとっては困りますけど」

「悪いが人族の事は考慮しないことにした。これも貴族が自分で蒔いた種ということで何とかしてもらおう。だからまあこういっちゃ何だが魔族にとっては面倒な勇者がいなくなるから。そして万が一勇者が貴族に見つかって殺されてしまった場合別の誰かに聖剣の所持者が誕生する可能性が高いから人族のために働くのをやめたこの勇者アルフが剣を所持しているという状況はそれだけで魔族にとって有利な状況ということになる。


 魔族側にたった意見多すぎない? ひょっとしてドロスは実は魔族が人族に化けた間諜だったりするんだろうか?


 ……いや間諜だったらもうちょっと人当たりの良い奴を選ぶな。そもそも貴族に切り捨てられるような状況にはならないように立ち振る舞うだろう。


「勇者様を切り捨てるなんて酷い方々ですね……分かりました。船がないか探してきますね!」

「ああ、頼む。これで大体解決したな」


 こちらを見てそう言ってくるが私にとっては


 え? これもう別大陸に迎えるほど性能の良い船が見つかること前提で言ってる? 楽観的すぎない? という呆れの感情しかわかなかった。




「船、見つかりました!」

「見つかったんだ……」


 見つかったらしい。





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裏切られ勇者別大陸へ行く @noskilldenoyoung

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