裏切られ勇者別大陸へ行く

@noskilldenoyoung

第1話 裏切られる

 裏切られたが全然不思議には思わなかった。衝撃も何もない。やってもおかしくない奴らだった、というのがアルフ、本名アルフィーナのそれに対しての感想だった。


 そもそも魔族が強くなかった。勇者が必要だったという説明があったが魔族側に魔王が生まれなかったらしくこちらには勇者がいるのに向こうには魔王がいないという釣り合いの取れていない状況だった。魔族は数が少ない代わりに個々の能力が高かったらしいが勇者だけが発現できる光の剣は魔族の腕利きだろうと容易く切り裂いた。つまり魔族討伐にそこまで悲壮感があったわけでもない。



 前に書いた通り魔王がいなかったので仕方なく適当に強い魔族を魔王だったということにして魔王討伐を成し遂げた! と触れ回ったというのが真相だった。特に広い範囲で魔族に甚大な被害をもたらされた、なんてこともないので民からの受けもそれほどいいわけではなく金喰い虫扱いされたことも多い。貧乏くじを引かされたな、とよく思っていた。


 仲間も魔王討伐で箔をつけたかったのか各国の貴族様や王族ばかりだった。平民の自分はことあるごとにいびられ、不快な思いばかりしていた覚えがある。正直勇者なんてやりたくなかったが断れる立場じゃなかった。権力者が嫌いになった。良かったのは聖剣が召喚できなくなる可能性があるからと純潔を散らされることがなかったことくらいか。男装しているのに欲情した目で見られて気持ち悪かった。



 そんな驚きのない裏切りだったので当然の様に準備はしていたし、さっさと逃げることにした。


「勇者を探せ、そして捕らえるか殺せ!」

「自国の兵動員するとかやりすぎだろ……」


 本気というか大人げなさを甘く見ていた。自分一人殺すのにこれだけの兵を用意するとか。毒にかかったふりくらいはしておいた方がよかったか、と反省した。


「ドロスの奴も毒を盛ったのに何でか生きてやがったからな、ついでにあいつも殺せ!」


 ドロスが何でついでで私と同じように殺されそうになってるんだよ……ああ、そうか。あいつだけ仲間外れにされたのか。


 ドロス。旅の途中で腕は立つからと勇者一行に加入させられた仲間で今も生きているただ一人の男だ。各地で厄介払いか点数稼ぎかどっちかわからないが荒くれ男をことあるごとに加入させられそしてドロス以外は死んだ。前衛という名の露払いを金で釣って突撃させて当たり前のように死んだからだ。だがドロスは生存能力が高いのか何だかんだで戦いを切り抜け、今までやってきた。


 だが勇者がお役御免になったように彼もそうなったらしい。同時に始末されそうになっているのは気の毒だが自分の命が優先なので見捨てるつもりだった。


「まあ、こうなるだろうなとは思っていたよ」

「うわぁ! いつからいたんだよ」


 いつの間にかそこには大男がたっており、それはついさっき頭に浮かべていたドロスその人だった。


「今だよ。認識を狂わせる術を俺とお前にかけているから見つかる可能性は低いとはいえあまり大声は出すな。万が一はある」

「あ、ああ。そうか。えっ? そんな術使えたのか? お前」

「ないと困るからな」


 ないと困るってどんな状況で困るんだよ、と思ったがまあ厄介な奴に目を付けられないためには非常に有効なのでそのために身に着けたのだろう。私にまでかけてくれるなんて良い奴だなと見捨てようとしていたことに後ろめたい気持ちになりながらも今はそんな状況じゃないと切り替えて聞き返す。


「どれくらい持つ?」

「基本解除しなきゃひと月でも持つよ」

「じゃあもう今の状況解決したじゃない」


 それだけ持つとかおかしいだろ、と心の中だけで突っ込んだ。



 言葉通り見つかることはなく悠々と襲われた街を離れ別の街へと移っていた。そこでも騎乗生物でも使ったのか情報がすでに出回っていて勇者である自分とドロスは魔族と実は通じていたとかいう理由をでっち上げられて手配されていたが街の住人も兵も気づくこともなく、その辺の旅人としか見られていなかった。



「これからどうしよう……認識阻害私にかけ続けるためにしばらく同行してくれる?」


 ちょっと虫がいい話だなと思ったが自分としては手配におびえてどんなときでもビクビクしていないといけないような状況にはなりたくはない。だから私までわざわざ認識阻害の術をかけてくれた善性を信じて心なしか可愛くおねだりしているような格好で言ってみた。それに対して特に何も感じた様子はなかったが


「良いぞ。まあ乗り掛かった舟だ。この手配が落ち着くまでは付き合ってもいい」

「ほんと!? ありがと! 助かるよ!」

「いい。で、それで当面の安全の確保ができたと分かっただろう。



 お前は何をしたい?」


 復讐か、それとも何もせずただ逃げるか。


 どうする、とただ静かにドロスは選択を突きつけてきた。



「まあ腹は立つけど復讐なんてできるわけもなし、あいつらの手が及ばないところまで逃げるわ」

「まあそれが無難だな。復讐にも一応なる」

「え?」


 復讐になる?


「聖剣だよ。お前が死なずに逃げればその聖剣はほかの誰かに渡るということがなくなる。つまり魔族が唯一脅威としていたその武器が人族に対して友好的じゃなくなったお前という勇者が保持したままとなる。それだけでもうあいつらにとっては大きな嫌がらせになるのさ」


 なるほど、と思った。そういえばそうだ。私が持っているだけで魔族に対しての大きな有効打が無くなるのか、と。それはある意味復讐になるだろう。


「それにするよ。こっちは何もせず逃げるだけでいいというのがいい」




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