第43話 道中

 あれから数日が経ち、俺とドンさんは今険しい道を歩いている。



 俺たちが今いるのはエルオア高原と呼ばれる台地のような場所だ。城塞都市カーメリアから南の方をずっとくだっていきたどり着いた。



 山や森に比べれば比較的歩きやすいのだが、ところどころ岩肌になっていたり、純粋に地面がデコボコしていたりと快適とは言い難い。



 ただ湖沼こしょうがあちこちに点在しており草木も多く自然豊かであるため、野営には困らないのが助かる。



 そしてこの一帯で独自の生態系が築かれているようだ。その生態系の上位にいる魔物の1つがラージイーグル…俺たちが今回遥々ここまでやってきた目的の獲物だ。



 このラージイーグルは人間よりも一回りくらい大きいサイズで空高く高速で移動する魔物らしい。相手の上空を常にとる絶対的な優位性とその飛行能力によってこのエルオア高原という環境を生き残ってきたようだ。



 どう考えてもドンさんが持ってきた鳥籠に入るとは思えない。そう思ってドンさんに聞いてみたら、どうやら成体ではなく雛を連れ帰るようなのだ。そう考えると2人なんていう少人数で来たのも頷ける。



 雛を攫うなんて少し可哀想な気もするが、俺は森で生まれたばかりの頃あらゆる魔物を食いまくって成長したので今更だ。今度は俺の冒険者としての糧になってもらおう。



 つまり今回の依頼はおやラージイーグルにバレないように雛ラージイーグルを巣から連れ去るというものだ。



 俺が役立つ場面なんてあるかわからないが、依頼の受け方等の勉強と思って臨むことにしよう。



 「よしっ!この辺で一旦休憩しようっ!」



 先導して歩いていたドンさんが後ろに振り返り俺に向けて言った。たしかに綺麗な湖もあり木陰になっていていい感じの場所だな。



 俺たちは適当な岩に座り各々水分補給や装備のチェックをしながら休憩をする。



 「それにしても驚いたぞ…!まさか一切のを上げずにここまでついてくるとはな!それに道中での戦闘時の立ち回り…やはりお前、只者ではないな…?」



 ドンさんが急にそんなことを言い出した。たしかにその通りだが、元がドラゴンだからか人化していても体力は結構保つみたいだし、なによりドンさんが一応俺を気遣って無理のないペースで進んでいるようなのだ。まあ本当の初心者には厳しいだろうが…



 あとここまでの道中で幾度か戦闘の機会があった。それは魔物だったり、カーメリアに着く前に遭遇したヤツらみたいな盗賊だったり。ドンさんが人間とは思えない圧倒的パワーとスピードでほとんどケチョンケチョンにしていたので俺の出番は少なかったが、一応戦闘には参加していたのでそれを見ての発言のようだ。



 「それを言うならドンさんだろ。流石は2等級冒険者といったところか?1人でこんなところを横断できるとか本当に人間か?」



 「ハッハッハッ!こんなのは慣れだ!筋肉と経験さえあれば誰にだって到達できる程度のものさ!世の中にはおれ以上に人間なのか疑わしい者はたくさんいるぞ!噂の最強の聖竜騎士様とかな!」



 そんなことを言いながら突如スクワットをし始めた。今休憩中なんだけど。見てるだけで疲れるからやめてくんない?



 「ふむ…やはり勘違いだったようだな…」



 ドンさんが少し真面目な顔つきになった。



 「勘違い?」



 「あぁ、お前も思わなかったか?ここ最近イルシプに盗賊が増えていること。それに伴って国内の治安が悪化していることを。」



 そうなの?たしかにカーメリアの街中にはガラの悪い連中が多かった印象だし、盗賊にはカーメリアに着く前も出発した後も遭遇したが…まあドンさんがそう言うならそうなのかもな。



 「そうかもな。」



 「全員とは言わないが、おそらく中央大陸の人間だろう。ドラコニア・神聖オルドレイク戦争のときも多くの人がなだれ込んできたというが…そのときほど数は多くないだろうが、気付かぬうちにじわじわ増えているようで少し奇妙なのだ。」



 たしかに俺が出会った盗賊はみんな肌は白くヒョロッとしているヤツらばっかだったな。その戦争のことは知らないがそのときみたいに一気に増えるならまだしも、原因がわからずに徐々に増えていることに疑問を感じているといったところか。



 「そんな風に思っていたときに…いかにも怪しいヤツが現れた。いかにもカーメリアに慣れてなさそうで、綺麗なローブにミリア圏の人間のような見た目の男。そう、お前だ!ノヴァス!」



 「…ん?俺が一連の黒幕と?」



 そんなこと思われていたのか。全然気づかなかった。



 「カリンのやつが少し怪しんでいてな。多くのならず者を送り込んで何か企んでおり、その経過観察に来たのではないかとな。…おれもお前の筋肉を見て只者ではないと見抜き、人気ひとけのないところで腹を割って話そうと思ったのだが…今まで一緒にいてそれは勘違いであったと確信した!すまなかった!」



 ドンさんが俺に向けて頭を下げて謝った。



 いつのまに2人の間でそんな風に思われていたとはな。あれだけ親切だったのには裏があったということか。明らかに怪しい俺と接触し、監視のために不測の事態にも対応できる2等級冒険者の冒険者をつけてまで様子を窺う…俺から話を聞こうとわざわざこんな回りくどい方法をとったのか。



 疑われていたということに思うところがないわけではないが、実際に俺は変わった見た目であることは自覚しているし、カリンさんに話しかけられて助かったのも事実だ。



 明らかに怪しい格好で挙動不審だった俺も悪いかもな…



 「顔を上げてくれドンさん。別に俺は気にしていない…というかそのおかげで助かったくらいだ。むしろ不安にさせたようでカリンさんにも申し訳ないな…その件についてまったくわからないけど、俺も自分なりに少し調べてみるよ。とりあえず…これからも今まで通りよろしく頼むよ。」



 俺はそう言った。帰ったらドンさんに同席してもらってカリンさんにも説明しなくてはな…それにしても俺を疑っていたなんて微塵も気づかなかった…女の人怖い…



 「ありがとう…やはりお前は凄いな!安心してくれ!依頼を手伝おうという気持ちは本当だったからな!今回の依頼必ず成功させよう!こちらこそよろしく頼む!」



 ドンさんがニカっと笑った。うんうん、神妙な顔とか似合ってないからそっちの方がいい。



 「あぁ、そうだな!ところでそのスクワットやめてくれないか?それの方がよっぽど腹立つわ。」



 「むぅ…仕方がない…」



 やっとスクワットをやめた。頭を下げたときは流石にしていなかったがそれ以外のときはずっとしていたので思わず言ってしまった。っていうかそんなことよりも…



 「ってか何で勘違いだと思ったんだ?」



 ドンさんは確信しているようだが何故だ?別に俺何もしていないと思うのだが…



 まさか俺の隠しきれない偉大なる竜の王としての威光を感じ取ったとか…



 「あまりに常識がなさそうだったからな。冒険者についても聖竜神教についてもあまり知らなそうだったし、その時点で何かを企んでいるとは思えなくてなっ!もちろん確信したのは一緒に行動している中でだぞ!お前のその立ち回り、姿勢どれを取っても素晴らしい!あんなならず者どもの仲間なはずがない!やはり筋肉は全てを解決する!」



 あ、そっすか。でも、常識って一体どうやって学ぶんだろうな?意外と難しいぞ。あと筋肉筋肉うるせぇな…



 「ちなみにお前が教会で使っていたソリドル貨はドラコニアの通貨だ!その国で使われている通貨を使うのが常識だぞ!今度からルハーム貨を使え!」



 あ、そういえばそうだった。咄嗟だったからまたしても同じミスをしていたようだ。ってかこれに関しては前世でも同じだな…日本でドルなんか使ったら「何お前?」ってなるよな。



 それ以前に盗賊から奪ったり、死体から取った金を使うってもはや常識がないどころではなかったかもしれんな…これからは気をつけねば…



 「ドンさん、ありがとう…今度から俺が変なことしたら都度教えてくれると助かる。」



 俺もドンさんが突然筋トレを始めたら止めてやるからな。



 「なんとも不思議なヤツだな…まあ筋肉のある者に悪いヤツはいないからな!そういうこともあるだろう!任せておけ!まあまずはラージイーグルの捕獲が先だな…もう少しで巣に着くはずだ!そろそろ行くとするか!」



 そして俺たちは休憩を終え、先を目指して歩き始めた。



 もう少しで目的地だ。



 それにしてもイルシプ内の治安の悪化…森にいた謎の鳥や白き鱗が捕食した人間の件…何か関係があるのだろうか…?





――――――――――――


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