第42話 祝福

 俺とドンさんは街門を目指して、カーメリアの街を歩いている。



 まだ時間が早いということで依頼を受けてその足で目的地まで行こうということになったのだ。



 目的地はここから若干離れているので少しでも距離を稼ぐためでもある。



 「ドンさんは初心者冒険者の付き添いみたいなことはよくやるのか?」



 俺は隣を歩くドンさんに聞いてみた。



 「まあたまにな。みんな最初は嫌がることもしばしばあるんだが、最終的には感謝してくれることが多いからな!なかなかやりがいがあるぞ?」



 すっかりこういうことには慣れているということか。それなら安心できるというものだ。だがラージイーグルの捕獲って絶対に大変そうな依頼だよなぁ…そのチョイスは果たして正しいものなのだろうか?



 ドンさんは片手にそこそこ大きな鳥籠を持って歩いている。ラージイーグルっていうくらいだから紅蓮の翼や宵闇の翼よりも遥かに大きいのかと思っていたが、意外とこんなものなのか…?



 まあ初心者の俺が悩むことでもないか。こういうときは先輩の判断に委ねるのが当たり障りないというものだ。



 「そうか、改めてよろしく頼むよ。このまま街門に直接向かうのか?」



 俺がこの街に来てから通ったのと同じ道を辿っているので、このままだと街門に着くことになる。ふと気になったので聞いてみた。



 「あぁよろしくなっ!実は一つ寄っておきたい場所があるんでな…そこに行ってから街の外に出ようと思っている。…お!見えてきたぞ!あそこだ。」



 そう言ってドンさんがある場所を指差した。



 そこは何やら少しこの街の雰囲気とは一風変わった建物であった。



 あれは…教会か?



 この街の雰囲気を中東などのオリエンタル風と表現するならば、その建物はまさに西洋風といった感じがする。真っ白で清らかなイメージを持つどこか神秘的な感じだ。2枚の翼のようなマークが描かれた旗が建物から伸びて風に揺られている。



 「あれは聖竜神教の教会だっ!冒険者たる者、神に無事を祈ってから冒険することでその旅路を確実なものにできる。それに怪我したときには真っ先にお世話になるからな!まずはここに寄るのがこれから依頼を受ける冒険者のルーティンだっ!」



 意外にも信心深いんだなぁ。まあそれを抜きにしても冒険者にとっては欠かせない施設みたいだしちょうどいいのかもな。



 そういえばアルも言っていたっけな…治癒魔術は教会の領分であると。冒険者ギルドも凄かったが聖竜神教の影響力も凄そうだな。



 そして俺たちは聖竜神教の教会の扉を開けて中に入った。



 中は結構な広さだ。ベンチがいくつも並んでおり、今も数人程度だがそこに座り両手の指を交互に絡ませて胸の前で組んで目を閉じている。祈りを捧げているようだ。ここは礼拝堂か…



 奥の壁には外の旗にも描かれていた2枚の翼のようなマークが刻まれていた。あれがシンボルなのかもな。その周りにはステンドグラスが施されていて、一層神秘的な雰囲気を感じさせる。



 そしてシンボルが刻まれている壁の手前にある祭壇のような場所に1人の男がいた。白い法衣に身を包んだいかにも聖職者のような格好だ。



 ドンさんがそのまま奥の方に歩いて行くので、俺も後に続く。そして聖職者のような男の目の前までたどり着いた。



 「よぉっ!ラウル神父!今から仕事だから今日も祝福をお願いしていいか?」



 ドンさんが聖職者のような男…神父さんに話しかけた。



 「おぉ、これはドンさん。えぇ、もちろんです。いつもお疲れ様です。そちらのかたは初めましてですね。」



 神父さんはそれに反応した後、俺の方を向いた。



 「えっと、俺はノヴァスだ。この街には来たばっかなんだ。よろしく頼むよ。」



 「おぉ!ノヴァスとはっ!とても素晴らしい名前ですね!我らが神といずれ現れる救世主様もあなたのことを見守っていてくださることでしょう!私はラウルと申します。司祭の位を賜り、このカーメリアの教会にて責任者を務めております。」



 そういえばアルが俺につけた【ノヴァス】という名前はたしか聖竜神教の救世主の名前だったな。本当にいい名前をつけてもらったことだ。



 「そいつはどうも。…で、ドンさん。祝福ってのは?」



 聞き慣れない言葉が出てきたので、すかさず聞いてみる。



 「そのままの意味だ!ラウル神父に聖竜神教の祝福をしてもらうんだ!そうだ、金は持っているか?お布施として銀貨1枚くらいが目安なんだが…厳しいようならおれが出すぞ?」



 そう言いながらドンさんがラウル神父に銀貨1枚を手渡す。



 うん、その説明ではよくわからないがおそらく教会が占有している魔術なんだろうな。せっかくだし受けてみるか。金はまあ大丈夫だろう、盗賊の分だけでなく白き鱗の体内にあった分もあるしな!



 「多分大丈夫だ。ラウル神父、俺も祝福をお願いしたい。ほんのお気持ちですが…」



 俺はカバンに手を突っ込む振りをしながら空間収納から銀貨1枚を取り出してラウル神父に手渡す。ちなみにこのカバンはさっき冒険者ギルドで購入したものだ。



 「おや…?これは…いえ、何でもありません。ありがとうございます。それでは祝福の準備をしますので少々お待ちください。」



 ラウル神父がそう言って礼拝堂を出ていった。隣にいたドンさんは既にベンチに座り、部屋にいる周りの人同様に両手の指を交互に絡ませて胸の前で組んで目を閉じている。これが聖竜神教の祈りのポーズなのか。



 このまま突っ立てるとその場の雰囲気を壊しそうなので俺も真似をする。薄目で…



 そしてラウル神父が手に杖のようなものを持って戻ってきた。先端に巨大な玉がついており、複雑な模様が表面に刻まれている。あれは魔道具か?たしか魔道具ってのは設置式魔術によって作られるんだっけ?その出力は詠唱式魔術よりも遥かに大きく、効果も多岐に渡るらしい。



 「それではドンさん、ノヴァスさん。こちらまでどうぞお越しください。」



 俺とドンさんは言う通りに祭壇の前まで行く。



 「それでは…我らが神よ!この者たちに貴方様の祝福があらんことを!」



 ラウル神父がそう言うと杖の先端にある玉が光り出した。そしてその光が俺とドンさんの体を包み込む。これは一体…?



 「…これにて祝福の儀は終了となります。」



 そしてラウル神父がまた礼拝堂を出て行った。杖を戻しに行ったのだろう。さっきの祝福だが心なしか体が軽くなったような気がするな。



 「なあ、ドンさん。祝福ってどういう効果があるんだ?」



 ドンさんは知っているのだろうか?



 「ん?祝福の効果か?おれも詳しくは知らないんだが、あれを受けると無事に生きて帰ってこれるんだ。まあ限度はあるんだろうけどな。」



 へぇ…もしかして幸運アップの効果でもあるのか?神の祝福とは言い得て妙だな。



 あ、ラウル神父が戻ってきた。



 「ドンさん、ノヴァスさん。お疲れ様でした。」



 「あぁ!これで今回もきっと無事帰って来れるぜ!それじゃあ行ってくるよ!行くぞっノヴァス!」



 「それじゃあラウル神父、俺もこれで。」



 「えぇ…あなたたちが無事にこの街に戻って来ることを心よりお待ちしています。【あなたのこれからが素晴らしきものになりますように】」



 そう言ってラウル神父が両手の指を交互に絡ませ胸の前で組み目を閉じる。



 【あなたのこれからが素晴らしきものになりますように】か…聖竜神教の祈りの言葉みたいなものか?



 その意味はハッキリとわかる。何だかとても素敵な言葉だな。



 俺とドンさんは教会の出口に向かう。


 

 そして教会を後にし街門を目指した。





――――――――――――


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