第41話 依頼

 冒険者になった俺は心の中で密かに舞い上がっていた。



 だって冒険者なんてまさにRPGの主人公みたいじゃないかっ!



 実はアルから冒険者について話を聞いてから、地味に気になっていたからな。人化できるようになったからには挑戦せざるを得ないだろう。



 それに身分証明書の入手のついでに登録できたというのが芸術点が高くて尚よろしい。



 「冒険者登録はこれで済んだねっ!そうだねぇ…さっそく依頼でも受けてみるかい?」



 俺が1人ウキウキしているとカリンさんがそう提案してきた。そういえば俺はまだ何もしていないので真の意味で冒険者になるというならば、依頼を引き受けて冒険者としての義務を果たさなければならない。せっかくだしこのまま教えてもらうことにしよう。



 「あ、じゃあお願いします。依頼はどうやって受ければいいんですか?」



 「あっちにある掲示板に張ってある依頼内容が書かれている紙を見て自分が出来そうな依頼を選んで受付カウンターで手続きをしてもらうってのが基本だね。依頼を受けることができる最低ランクは色で表示されているからね。あとは熟練の冒険者になるとギルド側や依頼者が直々に指名することもあるんだけど、これはまだ先かもねぇ…」



 そう言いながらカリンさんが依頼の紙の見本を見せてくれた。ふむ、まあ特に難しいことはないか。大まかな依頼内容に報酬、依頼者といった情報が書き込まれている。あれ…?これ文字読めなきゃ無理じゃね?



 「えっと、文字読めない人はどうするんですか?」



 「そんなの決まっているじゃないか。文字の勉強から始めるんだよ。そういう連中は登録した後は2階の資料室にしばらくの間こもりっきりなのさ。あんたは文字が読めてよかったね〜。」



 うわぁ…めちゃくちゃトラップじゃねぇか。自分の力で成り上がるぜっ!って意気込んでいざ登録したらまずお勉強って…まあバカが冒険者になったらすぐ死にそうだしな…



 身分証明書として使うだけなら登録だけ済ませてそのままでもいい気がするが、冒険証石にも更新期限というものが存在するらしい。



 登録する際に見せてもらった紙によると、依頼を継続的に受けている分にはいいのだが、依頼を受けずに1年経つと再度登録料を支払う羽目になるそうだ。



 それにアルも言っていたが7等級冒険者というのはどちらかというと恥ずかしいことのようなので、それを覚悟する必要があるというわけだな。



 そういえばアルって1年くらい森にいたんだっけ?まあいいか…



 「そうだねぇ…普通に受けてもらってもいいんだけど。ちょっと待ってな……おいっ!!ドンはいるかいっ!!いるならちょっとこっちに来ておくれっ!!」



 カリンさんがめちゃくちゃデカい声で酒場の方目がけて叫んだ。この賑わう冒険者ギルド内でこれだけ声が通るなんて…流石はイルシプの女傑といったところか…



 そして酒場の方を見ていると1人の男がこっちに向かって歩いてきた。



 おぅ…コイツめっちゃでけぇな…



 黒髪のオールバックが特徴的な大柄なイルシプ人だ。その体にはボディビルダーのように隆起した筋肉の鎧をまとっており、全身には傷がいくつも見えている。その背中には身の丈にも及ぶ巨大な柱のような鉄の棍棒を担いでいる。



 すげぇ迫力だ…勇猛な角を見慣れているおかげかそこまでビビることはなかったが、その身に纏う雰囲気も相まって只者でないことは嫌でもわかる。



 「ったく何だよカリン!今日は酒を呑んで過ごすと決めていたんだぜっ!」



 その男…たしかドンと呼ばれていたな。ドンさんがこれまたよく通る声で気怠けだるげにカリンさんに話しかける。



 「それはちょうどいい。ドン、あんたこの人に少し冒険者について教えてあげてちょうだい。今から初めての依頼を受けようってところなんだ。それからちょっと耳を貸しな…」



 そういうことか。指導者的な立ち位置で一緒に依頼を受けて、実際にレクチャーしてくれるように頼んでくれているようだ。俺に聞こえないように小声で話し始めたが、まあ気にしないでおくか。



 「ん…?お前かぁ…なるほどなぁ…いいぜっ!その役目はこのおれが引き受けようっ!」



 ドンさんが俺を見て少し考えた後にそう言った。いかにもベテランって感じがするんだが、ちょっと彼からしたら役不足なんじゃないのか…?



 「助かるよ。…ノヴァスッ!この人はドンっていうんだ。あんたの面倒を見てくれるってさ。そしてドンッ!こっちがノヴァスだ。」



 カリンさんが双方にそれぞれ紹介してくれた。



 「えっと、俺はノヴァスだ。よろしく頼むよ。ドンさん。」



 「こっちこそよろしく頼むなっ!ノヴァスッ!それにしてもお前…なかなかいい筋肉をしているなぁ…お前はきっといい冒険者になるぞっ!」



 ドンさんがそう言ってニカッと笑った。筋肉云々はよくわからないのでスルーしておこう。



 「それじゃあさっそく、依頼を選びに掲示板の方に向かうかっ!ついてこいっ!」



 「じゃあノヴァス。ドンについていきな。受ける依頼を選んだらまたここにおいで。そのまま手続きしてやるからね。」



 ドンさんが大股で掲示板のある方へと向かい、カリンさんがその後を追うよう促してくる。それにしてもイルシプ人は随分と親切な気がする。まだアルの故郷のニルブニカ王国には行ったことがないから判断できないが、最初にイルシプに来て正解だったかもな。



 気付けばドンさんが既に掲示板の前で俺を待っている。やべ、急がなくては。俺はすぐにドンさんのいるところに駆けつけた。



 「よしっ!ノヴァスッ!好きな依頼を選べっ!どれでもいいぞっ!」



 ドンさんが腕を組み、足を肩幅まで広げた状態で立ち、俺にそう言った。いや、どれでもいいって…



 「どれでもいいことはないだろう…」



 「そんなことないぞっ!おれのランクは2等級冒険者だからなっ!おれが付き添えばここに掲載されている依頼ならどれでも受けられるぞっ!」



 そう言ってドンさんがふところから銀色に輝く冒険証石を取り出して俺の目の前に出す。



 まじかよ…只者じゃないとは思ったがまさか2等級冒険者とはな…ベテラン中のベテランじゃねぇか。ただそんな人を顎でつかうカリンさんもまた凄いかもしれん…



 「でもそれって俺が引き受けたことにはならないんじゃないか?」



 まああくまで依頼の受け方について知りたかったから別に構わないのだが…



 「あぁ!その通りだっ!だが7等級冒険者の依頼なんて正直いってつまらんからなっ!それに今のうちに上級や中級の依頼について知っておくのも悪くないと思ってなっ!もしそれが嫌なら7等級冒険者でも引き受けることができる依頼でもいいぞ?」



 たしかに俺が単独でできる依頼をこの機会にやるのってもったいないな。一応考えての発言だったようだ。見た目からして脳筋かと思ったが、流石は2等級冒険者の冒険者だ。



 「そういうことなら1番危険なヤツがいいな。」



 どうせなら難易度高いヤツにしてしまおう。本人がいいって言ってるし、流石に本気の俺が対応できないようなこともないだろう。



 「ほう…こういう場合普通はビビって中級くらいのを選ぶヤツが多いんだが…臆している様子もなければ驕っているようにも見えん…いいぞっ!そういうことならとっておきのものを選ぶかっ!」



 そう言ってドンさんが1枚の紙を指差した。えーっと、なになに…



 「【ラージイーグルの捕獲】…?」



 その依頼の紙にはそう書かれていた。討伐ではなく捕獲って…生捕いけどりってことか…?



 「あぁ!これはイルシプ王室からの依頼という大変名誉な仕事だっ!上級冒険者以上のみが引き受けることができる上に、討伐ではなく生捕いけどりという条件付きの最難関の依頼でもあるっ!」



 国からの依頼なんて掲示板に載っているのかよ!?すげぇな冒険者ギルド。ってかラージイーグルが何か知らないけど、これ…初心者が随行していいような依頼じゃなくね?



 「これ大丈夫なのか…?初めての依頼にしては少しハードすぎないか…?」



 「ハッハッハッ!今更臆したか?安心しろっ!万が一があってもおれが責任を持って守ってやるからなっ!」



 別にビビってるわけじゃないんだけど、単に初心者の初めての依頼にしては張り切りすぎだと疑問に思っているだけなんだが…まあいいか。そもそも俺が1番危険なやつがいいと言ったんだしな。



 「じゃあそれにするよ。」



 「よくぞ言ったっ!ではカリンのところまで戻るぞっ!」



 そう言ってドンさんは受付カウンターの方を目指して歩き始めた。俺もそれに続こうと思ったのだが、ふと掲示板に張ってある1枚の依頼紙が目に止まった。



 「なぁ、ドンさん。あのラージイーグルの依頼の隣に張ってある【パトレイシア1世の秘宝】って依頼は何なんだ?」



 何故か妙に気になってしまいドンさんの背中に話しかけた。するとドンさんは一瞬だけ掲示板を振り返り…



 「今は気にするな。お前にはまだ早い。」



 そう一言だけ発し、そのまま歩いて行ってしまった。



 あれも上級冒険者以上のみが受けられる依頼のようだが…



 っていつの間にドンさんがカリンさんの元まで行き何か2人で話している。急がねば!



 その後俺たちはカリンさんの元で依頼を受ける手続きをしてもらい、準備を整えてからさっそくラージイーグルを捕まえるため冒険者ギルドを後にした。





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