第40話 冒険者ギルド
ガヤガヤ
冒険者ギルドの中はめちゃくちゃ大きかった。あと人がいっぱいいる。これが冒険者たちか。
入ってすぐのエリアはロビーのような広い空間になっており、手前側なんかは壁際にいくつものハイテーブルが置かれていて、冒険者たちが待ち合わせや話し合いに利用している。こういうスペースって地味にありがたいよなぁ…
ロビーの奥の方には受付カウンターが設けられており、おそらくあそこで依頼やら手続きを行うのだろうな。入り口側とその両側面の3方向にカウンターが展開されていて、目的によって利用する場所が異なるようだな。今も並ぶ列が出来ていて、その盛況ぶりが
右手側を見てみると壁に巨大な地図と紙が大量に張られた掲示板がかけられていた。地図は2種類…カーメリア周辺と世界地図かな?掲示板には依頼が貼ってあるのだろうな。こちらにも冒険者がワラワラ集まっている…俺もあとで両方じっくり見たいものだな。
左手側には酒場がある。ここの賑わい具合は他の場所とは比べものにならないくらいに凄まじいことになっている。仕事に向けての決起もしくは仕事を終えて疲れを労うために酒を
顔を上に向けると、この建物が吹き抜けになっていることがわかる。屋内の開放感の一助になっており、2階や3階の存在をこの場から確認することもできる。階段は…あぁ、受付カウンターの両脇にあるな。上層階には何があるんだろうか…楽しみだな。
俺はしばらく入り口で立ち尽くしていたのだが、ずっとここにいると邪魔になりそうなので、空いているハイテーブルまで向かい、テーブル面に肘をついて改めて建物内を見回した。
いや本当にすごいな…これだけの広さに施設を兼ね備えた建物を構えることができるなんて…冒険者って俺が思っていた以上に花形なのかもな。アルが憧れていたというのも今ならよくわかる。
さて、これからどうしようか…普通に考えれば受付カウンターに行けばいいのだろうが…
なんかこういうのって緊張するよな…初めて行く場所って勝手がわからなくて不安になったり、周りの視線が気になって思うように行動に移せなくなったりと。
実際にさっきからジロジロ見られている。冒険者ギルド内はイルシプ人が大半のようでアルのような感じの人種は少ないのだが一定数はいる。その中でも特に俺の姿は目立つっぽい。変にオシャレしなけりゃよかったかな…
そんな風に1人ハイテーブルで身動きとれずに突っ立っていたのだが…
「そこのハンサムなお人っ!…何かお困りごとかい?」
背後から話しかけてくる者がいた。
振り返ってその人物を見ると、受付カウンター内にいる人と同じ制服を着た快活そうな女性だった。
長い黒髪を1本の三つ編みにしており、顔立ちはハッキリとしている。褐色の肌は健康的に日に焼けたかのように眩しく見える。うん、美女だ。それもアスリート系の。
「えっと、お姉さんは?」
俺に何か用でもあるのか?
「あたしかい?あたしは冒険者ギルド・カーメリア支部の職員のカリンっていうの。初めて見る顔だね?気になってつい話しかけちゃったのさ。」
褐色の美女…カリンさんはどうしていいかわからずに困っている俺を見かねて声を掛けてくれたみたいだ。いや、俺情けなさすぎる…
「あ〜、実は冒険者登録しようと思ったんですけど…どうすればいいのかわからなくて。」
素直にそう答えた。今更、格好つけてもね…
「へぇ…そういうことならあたしが対応しようじゃないか。向かって左側のカウンターの方に行っておくれ。」
そう言ってカリンさんは受付カウンター内に戻っていった。俺は言われた通りに左側のカウンターに向かった。ちょうど空いてる場所があるな、あそこで待つとしよう。
その後すぐにカリンさんはやってきた。
「…待たせたね。それにしてもあんたみたいのが冒険者になろうだなんて。なんかワケありかい?」
「ワケありといえばワケありかな…身分証明書が欲しくて、この街の衛兵さんに冒険者を勧められて…」
「まあ、詮索はしないでおくよ。誰だって探られたくない腹の一つや二つあるってもんだ。それに冒険者は実力の世界だからねっ!実力さえあれば誰も文句は言わない。そうだね…冒険者についてはどれくらい知ってる?」
素性の知れない人間でも冒険者になれるみたいで助かったぜ…冒険者についてはアルにランクのことを少し聞いたくらいだから、ほぼ何も知らないに等しい。
「恥ずかしいことに何も知らなくて…」
「そうかい。じゃあ最初から説明していこうかね。あんた文字は読めるかい?」
「あ、いけますよ。」
「そいつは助かるよ。」
カリンさんがカウンターの上に数枚の紙を置く。
「そこに書いてある内容を確認しておくれ。いやぁ冒険者になろうっていう人間はおバカが多いからねぇ〜。これを毎回読み上げるのは疲れるからね。」
フッ…俺はその辺のおバカとは違うからな!魔法というチートがなければ俺もおバカと同じ対応を頼む必要があったのは内緒だ。
どれどれ…うん、注意事項やルール、心構えなどが書かれているようだ。特段面白いことが書いてあるわけではなかった。トラブルを起こしても冒険者ギルドは関与しません、依頼は必ず遂行しましょう、冒険者として人々の手本となるような行いを心がけましょう、といった内容がいっぱい書かれている。
俺は一通り確認した旨をカリンさんに伝えた。念のため書かれている文章を適当にピックアップして音読しておいた。
「大丈夫そうだね!それじゃあランクについて簡単に説明するよ。冒険者にはランクってのがあってね、そのランクに応じて報酬や利用できる制度、受けることが出来る依頼なんてのに違いが出てくる。だからあんたは冒険者登録をしたら、このランクを上げるために依頼をこなしていく必要があるってわけだ。」
基本的には依頼をたくさん受ければその分ランクが上がりやすくなるということか?
「もちろんただひたすらに依頼を受ければいいってもんじゃない。依頼内容も評価基準になっているからね。あんま適当なことばっかしていると、いつまで経っても同じランクのままってことも珍しくないよ。」
依頼内容の出来も関わってくるということか、当然といえば当然だよな。
「ランクは下から
カリンさんは何かをカウンターの上に置いた。それは白い石に首紐がつけられたペンダント…アルも身につけていた最下級冒険者の身分を表す冒険証石だった。
「
なるほどな。意外とランクを上げるのは難しそうだ。依頼以外にも何か手段はあるのだろうか?
「依頼をこなす以外にランクを上げるためにできることって何かあったりします…?」
「そうだねぇ。冒険者ギルドにとって重要ないしは貴重な情報の提供、国や貴族様からの推薦なんてのもあるけど滅多に適用されることはないね。あ、魔物の素材の買取なんかは一応評価に加算されるし金にもなるからいいかもね。魔核は基本的にいつでも受け付けてるよ。」
察するに順当な手段で昇級を目指せということかな?素材買取も魔物によって種類が変わりそうだし専門的な知識も必要なのだろう。効率がいいとはいえないよな。俺の鱗や牙って売れるのかな…?まあ追及されたら面倒だから売らないけど…
そういえばアルは森の情報を提供するはずだったが、無事昇級できるのだろうか?まあ今更気にすることでもないか。
「まあ大体こんなところかな?もし不明な点があったら受付カウンターで聞くか、2階に資料室があるからそっちを利用してもいいよ。…最後にこの冒険証石を手で掴んで、この魔道具の上にしばらく手を置いてくれるかい?」
そう言ってカリンさんが魔道具をカウンターの上に置いた。形状は丸くて複雑な模様が表面に刻まれている。呪われたバウムクーヘンみたいだな…
「これは…?」
「まあ、冒険者に登録するために必要な儀式とでも思ってくれればいいよ。そうだ、あんたの名前も教えておくれ。」
ちょっとはぐらかされたような気もするが、登録に必要なことなら仕方がないな。
俺は言われた通りに目の前に置いてある
ってそうだ、名前だっけ。
「俺の名はノヴァスだ。」
俺はそう言った。
「そうか、ノヴァスか…素敵な名前だね!…よしっ、もう大丈夫だよっ!その冒険証石を渡してくれるかい。あと少し手続きがあるのさ。」
冒険証石をカリンさんに手渡した。カウンター内でなにかしているようだがよくわからんな。
「…よしっ!これで大丈夫だっ!ノヴァス、あんた銀貨は持っているかい?それと引き換えに冒険証石を引き渡すことになっているんだ。銀貨1枚ね。」
おっとここでも必要だったか。まだあるから大丈夫だけど。俺は
「これでいいですか?」
「どれどれ…へぇ…こいつはソリドル銀貨だね…」
あ、そうか。イルシプではルハーム貨というのが一般的なんだったっけ。何も考えずに街に入るときと同じものを渡してしまっていた。
「あのぅ、まずかったですか…?」
「…いや?むしろルハーム貨よりこっちの方が価値は高いからね、問題ないよ。…それじゃあこの冒険証石はノヴァス、あんたのもんだ!失くさないように気をつけるんだよっ!」
「そっすか…ありがとうございます…」
大丈夫だったようで安心したぜ…早く依頼でもこなして自分で稼いだ金を使えるようにならなくてはな。
俺は受け取った冒険証石を首にかけた。胸元で白い石がまるで何も知らない素人であることを主張しているかのように光って見える。
こうして俺はこの世界で冒険者になった。
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