第39話 城塞都市

 俺と盗賊3人組は城塞都市カーメリアの街門までたどり着いた。



 「じゃあ衛兵さん!よろしく頼むよ!」



 「おう!コイツら、この街でも好き勝手してくれたからなぁ…牢屋にぶち込んでやるぜっ!覚悟しておけっ!」



 そして容赦なく盗賊らを街の衛兵に突き出した。事情を説明したらあっさりと受け入れてくれたよ。



 ここまで案内してくれた恩はあるものの、こんなヤツらを放置するのは俺の良心が許さないからな…泣く泣く衛兵さんに引き渡すことにしたよ…



 「ど、どういうことだよっ!?兄貴っ!?」


 「てっ、てめぇ!よくも騙しやがったなっ!」


 「おれらの組織を敵に回してただで済むと思ってんのかぁ!?あぁん!?」



 盗賊どもがわめいているが…別に俺はごく普通のことをしたまでだ。



 道中、突然襲われたのは俺の方で圧倒的に被害者の立場なのだ。相手が俺だったからよかったものの、これが商隊やアルのような新人冒険者だったら間違いなくコイツらの喰い物にされていた。コイツらの存在は害でしかない。



 それに自分たちの正体を隠したにも関わらず、「おれらの組織を敵に回す」と言われてもこちらは何もわからないので何の脅し文句にもならない。この街でも何やら悪さをしていたっぽいので、ちょうどいいだろう。



 まぁ、せいぜい罪を償って出直すんだな…



 暴れようとしていたが俺がロープで厳重に拘束していたので、結局何もできないまま屈強な衛兵さんに連れて行かれた。



 「ふぅ、これで世界が少し平和になったな。」



 「ハハッ、兄ちゃんも災難だったな!まぁ、見た感じ無事そうだが…」



 そう言ったのは盗賊どもを連行した人とは別の衛兵さんだ。この人たち、アルと違って肌は浅黒く、筋肉質な体つきをしているな…まさに豪傑といった印象だ。これがイルシプ人の特徴なのか?



 上半身なんか素肌の上に直接鎧着ているんだが、流石にワイルドすぎやしないか?



 ちなみに盗賊どもはどちらかというと肌は白く、髪の色も明るかったな。現地人じゃないのか?まあ、どうでもいいか。そんなことより…



 「まあ、なんとかな。それよりこの街に入るにはどうすればいいんだ?」



 街に入るにはどうすればいいのか。



 「あ?なんだ兄ちゃん、カーメリアは初めてなのか?街に入るのなんて大体どこも一緒だろ。」



 「いや、カーメリアどころかイルシプ自体が初めてだ。」



 「イルシプに来て初めて訪れる街がカーメリアって…一体どんな旅路なんだよ…」



 森から来たから仕方がないよね。そんなこと言っても信じてもらえなさそうだが。



 「ちょっとな…それより、何か必要なのか?」



 「何か身分を証明するものがありゃそれを提示してくれ。なけりゃ保証金が必要だ。銀貨3枚だぞ。」



 身分証明書なんてものは持っているはずもないので、保証金を払わなくてはならないのだが…服の中をまさぐる振りをしながら空間収納に手を突っ込む。



 一応それっぽいものはあるのだが…これでいいのだろうか?3枚でいいんだっけ…



 「これでいいか…?」



 俺は衛兵さんにそれっぽいものを手渡す。



 「ん?どれどれ…ほぅ、これはソリドル銀貨じゃねぇか。これなら十分だぜ。」



 ソリドル銀貨?たしかそれはさっきの盗賊どもが持っていたものだが…



 「ここらへんで使われているものとは違うのか?」



 「そりゃそうだろ。イルシプではルハーム貨が主に使われているじゃねぇか。このソリドル貨はミリア圏のどっかの国の通貨だったような…って、兄ちゃん…まさかこれって…」



 やべっ、盗んだものってバレたか。



 「やっぱマズイっすかね…?」



 「はぁ〜、ったく…今回は見逃してやる。次からはバレないように気をつけろよっ。身分証明がないヤツの滞在期間は10日だ。別に10日以上滞在してもいいが、それを過ぎたら保証金は返さねぇからな。」



 なんか見逃してもらえた。盗賊を捕まえた手柄と相殺してくれたのか?それならありがたいぜ…



 それにしても身分証明書がないと滞在期間ってのが設定されるのか。別に盗賊からパクったものなので没収されても構わないのだが、早いうちに身分証明書を手に入れてしまいたいな。



 「わかったよ。ありがとな、衛兵さん。それとついでに聞きたいんだが、おすすめの身分証明書を教えてくれ。」



 親切な人なので聞いてしまおう。



 「そうだなぁ。見た感じ兄ちゃんは腕っ節が立ちそうだし、冒険者がいいんじゃねぇか?冒険証石なら基本的にどこでも使えるしな。」



 冒険者か…悪くないかもしれんな。



 いまいち何をする職業なのかよくわかっていないが、アルにできるなら俺にもできるだろう。そうと決まればまずは冒険者ギルドを目指すか!



 「衛兵さんがそういうなら冒険者に登録してみるよ。ちなみに冒険者ギルドってどこにあるんだ?」



 「このまま真っ直ぐ進めば見えてくると思うぜ。目印は2本の剣が交差したマークだ。」



 まじで何でも答えてくれるな…いくら盗賊を捕まえたからって素性の知れない俺に対して寛大すぎないか?



 「自分で色々と聞いておいてなんだが…何でそんなに親切にしてくれるんだ?」



 思わず聞いてしまう。



 「なぁに、兄ちゃんはいい筋肉を持っているからな。そういうヤツに悪いヤツはいない!思い出してみろっ!さっきの盗賊どもの貧相な体をっ!アイツらを鍛えてやりたいぜ…」



 うん、よくわからない理由だったけど気にしないでおこう。



 「そっか、本当にありがとうな。お礼といってはなんだが、保証金は衛兵さんにあげるよ。本来没収されてもおかしくないものだしな…」



 ほんの少しだけ罪悪感があったので、お礼になるのであれば献上してしまおう。



 「マジかよっ!やっぱおれの目に狂いはなかったなっ!…あ、そうだ、名前教えてくれ。一応、保証金で入るヤツの決まりなんでな。」



 嬉しそうにしてるしお礼としては十分そうだな。名前か…



 「俺の名はノヴァスだ。」



 実はこの名前を名乗るのは初めてじゃないか…?



 「ノヴァスか…いい名だな…よしっ!行っていいぞ!特段珍しいものもないが、カーメリアを楽しんでいってくれ!」



 そして俺は衛兵さんと別れて、カーメリアの街の中へと歩を進めた。



 ◇◇◇



 城塞都市カーメリア…



 その街は前世の世界風に表現すると、どことなくオリエンタルな雰囲気に包まれていた。アラビアン・ナイト的な感じか?



 街並みも思いの外ちゃんとしている。



 俺が今歩いている大通りは馬車がすれ違える程度の広さがありながら石畳が敷き詰められており、しっかりと整備されている。



 道だけでなく建物や街壁のような建造物に関しても見るだけでその技術力の高さがうかがえる。



 道沿いには露天商や店の建物が並んでいて、帰らずの森最前線の辺境にしてはそこそこ賑わっている印象だ。まあガラの悪い連中もチラホラ見えるが、それは仕方がないか…?一応、危険といわれている場所だもんな。

 


 まあ先程の衛兵さんもそうだったが、イルシプ人というのはどうやらかなり強そうな人種のようなので、そんな厳つい衛兵さんたちが見回りをしているため、表立って争いごとは起きていないのがせめてもの救いか。



 ちなみに男だけでなく女性に関しても筋肉質でどことなく強者のオーラを放っている。まさに女傑といった感じだな。



 そんな中で俺のような存在は…結構目立つ。



 イルシプ人は髪や瞳は黒色で、肌は浅黒く筋肉質なようだが、一方の俺はというと黒みを帯びた深緑色の髪に金色の目、肌は白く体つきはスラッとしている。



 おまけにオシャレな衣装をまとっており、さっきから色んなところから視線を感じて若干の居心地の悪さを感じているのだが…特にガラの悪い連中がギラギラした目つきで見てくる…気にするのはやめよう。



 とにかく辺境の地でこれだけの賑わい、発展度合いなのを見るに中心部はもっと栄えていることだろう。ワクワクしてきたぞ…



 そんなことを考えていると奥の方の右手側に目的地である建物が見えてきた。その建物からは2本の剣が交差したマークが描かれた旗が掲げられ、風に揺られていることで遠くからでもその存在を確認できる。



 かなり大きな建物だなぁ…造りも周囲のと比べて頑丈そうに見えるし、魔物なんてのがいるこの世界において冒険者というのは結構高い地位にいるのかもな。



 そして目の前にたどり着いた。



 普段から出入りが盛んだからなのか扉は開けっぱなしであったため、中の様子を外からでも見ることができた。なかなかの盛況ぶりだな。



 それにしてもまさか俺自身が冒険者になろうだなんてな。冒険者についてもう少しちゃんとアルに聞いとくべきだったかなぁ…?



 まあ登録する際に聞けばいいことか。って待てよ…?もしかして俺ってアルの後輩になるってことなのか?納得いかねぇ…



 よしっ!さっさとランクを上げて逆に俺がマウントを取れるようにしてしまおう!



 俺は若干の緊張感と好奇心を胸に、冒険者ギルドの扉をくぐった。





――――――――――――


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