第2章 イルシプの女王
第38話 盗賊
予定変更して今日から第2章です。
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…少し夢を見ていた気がする。
どこか嬉しくなるような喜ばしいそんな夢を…
まあ忘れたけど。
夢の内容って目が覚めた瞬間に霧散するように記憶から消えてしまうから不思議だ。
いつまでも夢なんて見てんじゃねぇ、と脳みそが警告を出しているのかもしれんな…
俺は体を起こし、軽く伸びをする。
野外で寝ることなんてドラゴン生活で慣れきっているはずなのに体が人間になったせいかどうにも感覚や癖が前世のものに近しくなっているようだ。
俺は周囲を見渡す。相変わらず何もない平原だ。森を抜けてから結構歩いたつもりだが、まだ街は見えてこない。
そもそも俺が進んでいる方向は正しいのか…?自分の勘を頼りに東だと信じてここまできたが…
まあ、悩んでいても仕方がないか。
魔法で水を出し、顔を洗ってから口を
空間収納から適当に肉を取り出し、
特段急いでいるわけでもないが早く街に辿り着けるといいなぁ…
◇◇◇
「おいっ!てめぇっ!命が惜しけりゃ金目のもんと食糧全部置いてきなっ!」
「随分良い身なりしてんなぁ?服も脱いで寄越せっ!」
「ってかコイツ自体高く売れそうじゃねぇか?やっぱお前も残れっ!」
ヤバい…チンピラに絡まれた…
あれからしばらく歩き続けて、険しかった道が若干歩きやすくなったなぁと思っていたら突如囲まれてしまった。
気配察知の魔法を使えば事前に分かったのだろうが、一応節約しているのだ。帰らずの森と違って魔力の濃度も薄いことだしな。
俺を包囲しているのはボサボサの髪に薄汚れた服の上からマントを
チンピラというよりも盗賊か…?
別に大したヤツらではなさそうだが、ちょっとビビっちゃったよ…メンタルも人間仕様になってしまったのか?
さて、どうするか?話しかけてみるか?
「お、お前たちは誰だ?」
やべ、噛んじゃった。
「あぁ?答える義理はねぇなぁ?」
「おい、コイツビビってるぜ?」
「少し痛みつけりゃ言うこときくだろ。やっちまおうぜ。」
答えてくれないし、ビビってるのもバレたし、さっそく襲われそうになってる。
3人同時に剣を片手にじわじわと俺に近づいてくる。
別に魔法を使えば一瞬で消し炭に出来るのだが…これからも戦いの機会は多くあるだろうし、何より貴重な情報源だ。生きたまま制圧するためにも手加減をしながら相手する必要がある。
俺も両手でファイティングポーズをとる。スタイルはオーソドックスだ。
「ぷっ…コイツやる気だぜ?」
「この状況でアホだろお前?」
「身の程をわからせてやるよっ!くらえっ!」
そして1人の盗賊が突っ込んできた。剣を両手で振りかぶっている。
俺はその盗賊の方へと体を向ける。
剣が振り下ろされる寸前に腰を落とし右足で地面を蹴り、左斜め前へ体を移動させてから相手の懐に入り込む。そしてその勢いのまま左手を相手の顎
バキッ!
「ぐはっ…」バタリ
綺麗にカウンターの左フックが決まり相手の意識を刈り取った。いやぁ…アルの特訓の見様見真似だったのだが上手くいったな。まあ身体強化魔法ありきなのだが…
「なっ!?コイツ!?」
「ヤベェ…コイツ強ぇぞ…」
俺ににじり寄っていた2人が一気に距離を取る。今までの舐めた態度を一変させ、警戒を強めている。油断してくれていた方がやりやすいってのに…
「おいっ!同時に攻撃するぞっ!」
「あぁっ!仕方ねぇ…生捕りは諦めるか…」
コイツら俺を生捕りにするつもりだったのか…?さっきの盗賊は全力で切り掛かってきたんだが…
そんなことを考えていると2人の盗賊が左右から一斉に俺目がけて突っ込んできた。両者ともに剣を振りかぶっている。こういうときはどうすれば…あ、そうか。
ヒョイッ
ザクゥッ!ズバァッ!
「ぐあぁぁぁ!痛ぇ!」
「ひぃぃっ!死んじゃうぅぅ!」
切り掛かる直前で俺は地面を蹴り、背後に下がった。すると見事に目の前で相打ちしてくれた。ともに左肩に深い傷を負っている。袈裟斬りってやつか?
地面に転がる盗賊、内2名重傷、1名意識不明。
とりあえず勝敗は決したな。
コイツらおそらくアルより全然弱いが、無事人間としての初戦闘を勝利で終えることができて俺としては大満足だ。
このままコイツらを放置すれば死にそうだが…聞きたいこともあるし回復してやるか…
俺は地面に倒れている3人組の盗賊に治癒魔法をかけるために近づく。
そして目が覚めるのを待った。
◇◇◇
「いや〜、おみそれしました!兄貴!」
「兄貴には敵いませんよ!」
「治癒魔術も使えるなんてイカしてるぜっ!」
俺は3人組の盗賊について歩いている。近くにあるという街までの案内をさせているのだ。
なんとか歩ける程度まで回復してやったらさっきまでの態度と一転して俺に媚びへつらいだした。なんとも調子がいいヤツらだな。
「お前らあんなところで何やってたんだ?」
適当に話を振る。
「いやぁ、ちょっと帰らずの森を見てこいって言われてな。」
「そんなおっかないところに行くのは嫌なんでな!適当にブラブラしていたんだが…」
「そんなところに兄貴が来てな!せっかくだし身包み剥いどこうってな!金になるし!」
おい、マジモンのクズじゃねぇか…まあわかりきっていたことか…それにしても見てこい、か。
「誰かに命令されたのか?」
もしかして森に入ってきたヤツと何か関係があるかもしれないな。
「あぁ、それは…おっと危ねぇ!流石に兄貴にもそいつは言えねぇなぁ?」
「兄貴やるなぁ…うっかり口を滑らせるところだったぜ…」
「おれらの組織についても秘密だぜ?どこから来たかもな?バレたら殺されちまうよ。」
なるほど、コイツらは何かしらの組織の構成員で帰らずの森を探るよう命令された、といったところか。一気にキナ臭くなってきたなぁ…この件についてはこれ以上聞けることはないか…別のことを聞くか。
「そうか…ところで今向かっているのは何て街なんだ?」
着けばわかることだろうが一応聞いておく。
「城塞都市カーメリアだぜ。知らねぇのか?」
「イルシプ方面の帰らずの森最前線の街だ!」
「この辺は帰らずの森から来たといわれる魔物が出現するらしいからな。危険だが金稼ぎにはいいらしいぜ。」
へー、そんな街があるのか。それに魔物か…たしかに森で勢力争いに負けたヤツらは森の外に逃げるしかないのか。東方面は白き鱗の縄張りだったよな…えーっと…
「ホワイトサーペントなんかも出るのか?」
「はぁ?そんなの聞いたこともねぇぞ?」
「ホワイトサーペントってミリアウリスにいるんだっけか?」
「神の使いとか聞いたことあるぞ。」
白き鱗の存在は知られていないのか。流石は最上位勢力の魔物だな。
「兄貴はカーメリアまで何の用で?」
「ってか何であんな場所に1人で?」
「よく見たら手ぶらじゃねぇか。」
今度は盗賊たちに質問されてしまった。面倒だが適当に答えてやるか。
「俺は修行の旅をしているのだ。」
見ようによっては修行僧的なものに見えないか?
「へ〜、変わってんなぁ。」
「今どき修行とか…ぷっ…」
「おれらには理解できねぇわ。」
なんだと!?修行舐めんなよっ!ハム
そんなことを考えていると遠くの方に高い壁に囲まれた街のようなものが見えてきた。
「お、見えてきたぜ。」
「あれがカーメリアだ。」
「今日はこの後どうすっかなぁ。」
盗賊どもが各々反応を示している。城塞都市カーメリアか…この世界に来てから初めての人里ということになるな。少し緊張するが、楽しみだ。
「あ、そうだ。お前らって盗賊だよな?長いロープって持ってるか?」
そうだ、これは聞いておかないと。
「当たり前だろ!ほらっ。」
「これがなけりゃ人を拘束出来ねぇからな。」
「コイツはかなり丈夫で抜けることはまず無理だぜ。」
ほほう、それは都合がいい。
「よし、それちょっと借りていいか?」
「まあ、いいけど…すぐ返してくれよ。」
「コイツ結構高ぇからな。」
「失くしたら弁償だかんな?」
「あぁ、安心しろ。すぐ返す。」
そう言って俺は盗賊から長い丈夫なロープを受け取った。
これをこうして…ギュウギュウ…ここはこうで…ギュッギュッ…ついでに…ゴソゴソッ…こいつも…ガチャガチャ…こんなもんか…
「これは一体どういうことだ…?」
「何でおれたちの手を縛っているんだよ。」
「悪ふざけもほどほどにな。」
俺はロープで3人の盗賊の手をキツく縛った。結び方はめちゃくちゃだがギュウギュウにキツく締め上げたので外すのは大変だろう。
ついでにコイツらの持っていた荷物を全部回収してこっそりと空間収納にぶち込んだ。
だって盗賊でしょ…?人から物を奪うってことは奪われる覚悟もできているよな…?
「よしっ、カーメリアまで後少しだな!お前らも遅れるなよっ!」
「って、おい!後で外してくれよっ!」
「くそっ…歩きにくいぜ…」
「おれらの荷物はどこにいったんだ…?」
手ぶらであることに違和感を持たれたしカバンも一応身につけておいた方がいいのかもな…カーメリアで買うかな。コイツらのカバンはなんか汚らしいしな…
俺は騒ぐ盗賊どもを無視して城塞都市カーメリアを目指して歩き出した。
今までよりも少し駆け足気味で。
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