第44話 初めてのお仕事

 「あそこは当たりだな!」



 「やっと見つかったか…」



 俺とドンさんはようやく目当てのものを見つけることができた。



 そう、親のいないラージイーグルの巣だ。



 ラージイーグルはエルオア高原の中でも特に周囲より高い岩山のようになっている場所の頂上に巣を作るらしい。そこに枝や魔物の皮などの素材を使って巣を作り卵をかえしたり、雛を育てたりするそうだ。もちろん親の寝ぐらとしても使われる。



 俺たちは現在に至るまでの間に2つの巣を発見していた。だが、どちらも親ラージイーグルがいて諦めざるを得ない状況だったので今回で当たりを引けたのはよかった…



 親がいても強行突破すればいいのではないかと少し思ったが、そうすると親ラージイーグルとの戦闘は避けられずに親を殺して離脱する必要が出てくるようだ。どうやら今回の依頼に関してはそれを推奨されていないらしいので苦労して雛だけの巣を探す羽目になったのだ。



 「で?あれはどうやって捕獲するんだ?」



 ラージイーグルの巣がある岩山だが近くまで来ると見上げるほどに高く、切り立った崖のようになっていて登るのにも一苦労しそうなのだ。これ一体どうするんだ?



 「なに、簡単なことだ!こうするんだ!」ヨジヨジ



 そう言ってドンさんが岩山を手と足を使ってよじ登り始めた。まさかの力業かよ…



 「もっと道具を使ってスマートに登ったりは出来ないのか?」



 「取手になるようなものを岩山に打ち込むと音が目立つからな!結局これが一番成功率が高いと判断したのだ!ノヴァス、お前もついてこい!」ヨジヨジ



 えぇ…2等級冒険者にはこんな技能も求められるのかよ…



 「俺一応これが初めての依頼の7等級冒険者なんだけど…」ヨジヨジ



 「おぉ!やはり登れるではないか!流石はおれが認めた筋肉だ!これができる冒険者はほとんどいないから既にお前は冒険者の上澄みにいると言っても過言ではないぞ!」ヨジヨジ



 どうせならもっと格好いい依頼でそれを実感したかったよ。あと俺の筋肉がどうとかよく言うけど、俺ローブ着てるから体の線が出てないはずなんだけど…あと声うるさいぞ。



 そして俺たちは頂上にたどり着いた。なかなか見晴らしがいいな。ここに巣があればたしかに外敵に襲われる可能性は低いだろう。



 巣も俺たちが寝床として利用できそうなほどに大きい。そんな巣の中に卵がいくつかと雛が1匹いた。なんか白くてモコモコしている。



 「ピィ?」



 雛がこちらを見て首を傾げている。特に警戒している様子はない。これなら簡単に捕獲できそうだな。さっさと捕まえてしまおう。そう思って鳥籠を持ったドンさんの方を向いた。



 「むぅ、起きていたか…」



 なんか険しい顔をしている。



 「なにかマズイのか?」



 「コイツは身の危険を感じると親を呼ぶために大きな鳴き声をあげるのだ。そうなると少し厄介でな。」



 そういうことか。じゃあ俺たちが捕まえようとした瞬間に一気に警戒度を上げるということか。今はまだギリギリ大丈夫というだけで。



 たしかにこの状態で親ラージイーグルを呼ばれたら間違いなく戦闘は避けられない。それに空を飛ぶ魔物から逃げ切ることは困難だろうな。ましてや雛を攫う人間など無理をしてでも取り返しにくるかもしれない。



 「どうする?別の巣を探すか?」



 「いや、コイツは一度寝たらなかなか起きない。周りを警戒しながら雛が寝るのを待とう。」



 よかった…また別の巣を探すなんてのは面倒だったしな。まあ待つのも面倒だけど。



 それにしてもこのラージイーグルの雛、まじで不思議なほどに警戒しているように見えない。いや、むしろ仲間になりたそうにこちらを見ているような…



 意外と大丈夫なんじゃね…?安心しろ!魔物の首根っこ掴むのは得意なんだ。それにこんな小さいヤツが叫んだところで大して効果ないだろ。



 「いや、ドンさん見てみろコイツのつぶらな瞳を。一切警戒している様子はない…これならいけるだろ。」ムンズ



 そう言って俺は雛に近づきその首根っこを掴んだ。



 「ま、待て!そんなことしたら…」



 「ほら大人しいじゃないか!俺には魔物の気持ちがわかるのd…」



 「ピュイアアアアアァアアアァァァァァッ!?」



 突如、雛がとんでもない爆音で叫び始めた。それはもう必死というかなりふり構っていられないといった感じで。



 雛の顔を見ると物凄い形相で泣き叫んでいる風に見える。鳥の癖に表情が豊かだな…



 「ノヴァス!急いで鳥籠に入れろっ!すぐに離脱するぞっ!」ガチャッ!



 ドンさんが少し焦ったように鳥籠の扉を開けた。俺は泣き叫ぶ雛をその中に放り込んだ。



 「急げっ!もしかしたら撒けるかもしれない!」



 そのままドンさんが鳥籠を担いで岩山から飛び降りた。おぉ…その鳥籠ってそんな手荒に扱っていいのか…?



 それにしても迂闊なことをしてしまったな。ドンさんにあらかじめ注意されていたにも関わらず。



 いや待つのが面倒だったという思いが強かったのだが、流石に俺が100%悪いな…あとで謝ろう。



 俺もドンさんに続いて岩山を飛び降りようとした…



 そのとき、



 「ピィィィィッィイッィィィィッィィ!!!」



 遠くからなにやら白い大きな鳥が高速でこちらの方へと飛んできた。あれは親ラージイーグルだな。



 そしてそいつはすぐに俺がいる岩山の頂上まで着き、巣の中を見る。そして雛がいないことを確認すると凄い勢いで俺の方へと振り向いた。



 「ピィィィィィイッィィィィ!!!」



 めちゃくちゃブチギレている。そりゃそうか。自分が巣を留守にしているときに雛を攫われたのだから。



 こんな状況でも意外にも冷静な自分に驚く。



 たしかに俺よりも一回り大きく、恐ろしい外見なんだが…森にいた魔物たちに比べればそこまで脅威に感じないな。それにコイツ遠くから見たときはわからなかったが、どこかで見たことあるような気がするな…



 「待っていろ!ノヴァス!すぐにそこへ向かう!」ヨジヨジ



 岩山の下からドンさんの声が聞こえる。俺を助けに来てくれたようだ。ただ頂上まで登るにはまだ時間がかかるだろう。それまでコイツが大人しくしてるはずもなく…



 「ピィィィィッィイッィィィィッィィ!」



 上空まで飛び上がり、そのまま一気に俺の方へと突っ込んできた。何か既視感があるなぁ…



 そういえばこの世界に来たばかりの頃、宵闇の翼との戦闘もこんな感じだったっけ?あのときは本当に死を覚悟したよ…



 それも今では森での生活で随分と度胸がついてしまったようだな。まあドラゴンという超存在であることに絶対的な自信を持っているというのもあるか。



 そんなふうに懐かしんでいると既に目の前にまで親ラージイーグルが迫ってきていた。



 俺は即座にファイティングポーズをとる。スタイルはオーソドックスだ。



 そして身体強化魔法を一気に解放する。



 そして親ラージイーグルのくちばしが俺の胸を突き刺すところまできたとき、俺は上半身を背骨を中心として時計回りに捻って突進を紙一重で躱す。



 そして捻ったときの回転をそのまま利用して左拳を親ラージイーグルのこめかみ目掛けて思いっきり振り抜く。



 バキッ!



 「ビィィアッ…!?」ズドドドド



 親ラージイーグルは俺が左拳を振り抜いた方向へと吹っ飛び、そのまま地上まで滑り落ちていった。



 フッ、決まったぜ…ハムよし流カウンター左フックがな…!



 無事殺さずに制圧することができたようだ。岩山の頂上から地上を見下ろすと微かにピクピク動いてぶっ倒れているラージイーグルを確認できた。あの様子ならしばらく目が覚めないだろう。それにしてもあの無様にぶっ倒れているラージイーグルを見ると妙に既視感を覚えるな…不思議だ…



 「とうっ!待たせたなノヴァス!こうなってしまったからには仕方がない!協力して討伐しようではないか…って、あれ?」



 あ、ドンさんが岩山まで到着した。戦う気満々できたのに敵の姿が見当たらずに不思議そうな顔をしている。



 俺は無言でぶっ倒れている親ラージイーグルを指差す。ドンさんもそれにならって指の方を見る。



 「これは一体…?」



 「なんか急にぶっ倒れて地上まで落ちていったぞ。今のうちにエルオア高原を離れようぜ。」



 「……………………そうだな。よしっ!ひとまずはここから離れよう!全速力で駆け抜けるぞ!」



 そうして俺たちは岩山から飛び降り、近くに放って置かれていた鳥籠を回収してからエルオア高原を脱出した。



 俺はその道中、ぶっ倒れた親ラージイーグルのことをふと思い出す。




 あいつ焼いて食ったら美味そうだったなぁ…





――――――――――――


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