第31話 人化
『あれ…?人化の魔法使えそうだな…』
俺は久しぶりに人化の魔法に挑戦していたのだが、なんか使えそうな気がする。
ついこの間までアルがいて退屈しなかったので、すっかりその存在を忘れていた。アルがこの森を旅立ってからも、特に何かをするわけでもなくグダグダしていたのだが、この間
なんで今更…?
今使えるなら絶対に前だって使えただろっ!?
あのときから別にそんな成長してねぇぞ!
うん、もちろん成長していないのは俺のせいだ。反省反省。ただ正直そんなに伸び代というものを感じなくなっていたからなのだが…ってかどうでもいっか。
人化だぞ!人化!とうとう人間になれるっ!
別にドラゴンの生活が耐え難かったとか限界だったとかそういうわけではないのだ。俺もすっかりドラゴンであることに慣れたし、魔法や
…やはりアルとの出会いが大きかった気がするな。アイツとこの世界のことについて話しているうちに、俄然この世界に対して、ひいてはこの世界の人間に対して強い興味を抱いてしまった。
協力や共生ができるかはわからない。正直厳しいだろう。この世界の人間にとって魔物とは基本的に相容れない存在のようだしな…
それでも俺は知りたい。この世界の人間たちが何を考えて、どのように生きているか、を。
又聞きでは理解しきることのできない、リアルな世界ってものを自分の目で!
よし!さっそく使ってみるか!
んおりゃっ…!っとおうりゃっ…!
途端俺の体が光出す。俺の巨大な体が眩い光に包まれて、その大きさがどんどん収縮されていく。ある一定の地点で収縮は止まり、輪郭がドラゴンから人間に変わっていく。完全に動きが止まると光が徐々に弱くなっていき、とうとう収まった。
どうだ?成功したか?
俺は空間収納から卵の殻を取り出し顔の前に持ってくる。これは俺がかつて入っていた卵の殻だ。一応、取っておいたが…また役に立つときが来るとはな…
自分の顔を確認する。うーん、もはやうっすらとしか覚えていないが、少なくとも前世の俺の顔とは違うな。
そこに映っていたのは1人の成年の顔だった。黒みを帯びた深緑色の髪に金色の目、肌は白く顔の造形はハッキリとしている。
全身を映す。体つきはスラッとしていながらも、筋肉はしっかりとついている。細マッチョだな。
総評としては、まあイケメンかもしれんな。前世の価値観からみてもあまり嫌いな人はいなさそうなタイプの。絶世の美男子ってほどじゃないが。
そして見事なほどに全裸である。一切疾しいことがないのを示すかのように清々しい。意外と様になっているかもしれない。
まあ一応確認しておこう…どれどれ…
うん、こっちは前世通りな気がする。おかしいな…顔はちょっと怪しいのに、こっちは自信をもって言えるよ…
そんなことは置いといて…これなら十分人間に見えるだろう。っていうか人間にしか見えない。むしろこの格好で歩いていたら魔物に攻撃されかねないな。まあ全裸だから人間にも攻撃されそうだが。
喋ってみるか。
「あ、あ、あいうえお。あめんぼあかいなあいうえお。ふむ、問題なさそうだな。」
声はまあ普通だな。低すぎず高すぎずといったところか?一応、思念通話と発音をそれっぽく使ってみたのだが、大丈夫そうだな。
魔法を使えるか確認しようと思ったが、そういえばさっきから無意識で使いまくっていたな。特に変に感じる点もないし、これも問題なし。
身体能力はどうだ?ちょっと軽く歩いてみたり、ジャンプしてみたり、走ってみたり、ワンツーを打ったり、ハイキックをしたり、受け身をとってみたり…………うん、大丈夫そうだけど疲れたわ。
ただし、これは人化の影響なのだろうが出力が明らかに落ちている。魔法に関しても身体能力に関しても。それに伴って俺の体を維持するエネルギーや魔力は軽微になりそうで逆に助かる面もあるのが救いどころか。
まあ少なくとも最終試験時点でのアルなら瞬殺することは可能そうだ。ひとまずは問題なしだな!
目下の問題…それは服だ。
流石にこの格好では人里におりた瞬間捕まってしまう。それに変に目立つのも困るしな。なんとかして服を調達しなければ…
そうだ。たしかこの森にはたまに人間が入り込むんだっけ?服くらい残ってるんじゃないか?勇猛な角と銀風の牙は南西方面で、白き鱗は東方面か…まず東に行ってダメそうだったら南西に行くか。
俺は全裸のまま白き鱗の領域のある東方面に向けて歩き出した。
◇◇◇
俺は行きつけの風呂(巨大な湖)へと辿り着いた。
「シャーッ!」「シャーッ!」「シャーッ!」
おっと、めっちゃ警戒されてる。そりゃそうか。中央方面から全裸の人間が堂々とやってきたら警戒もするか。お、いたいた!
「おーい!」
「シャーーーーッ!!!」
めちゃくちゃ警戒してる。仕方がない…えーっと、何だっけなぁ…?たしか…
「ヘビ
「ッ!?」
驚いているソイツは白い巨大な蛇。その目は金色に光っている。ってか人間の目線から見るとめっちゃでかいな。
『偉大ナル竜ノ王…?』
「そうだっ!人間になる魔法を使ったっ!警戒を解くといいっ!」
そういうと白蛇たちの張り詰めていた空気が一気に緩んだ。ヘビ
『ナゼソンナ姿ニ?』
「いや、少し人間の世界でも見てこようかなって思ってな。たしか人間を前に殺したと言っていたな?もし残ってたらでいいんだが、服をくれないか?」
『全員丸呑ミ。』
うげぇ…マジかよ…その人間には同情するわ…
それにしてもハズレだったか。仕方がない、南西に向かうか…
『少シオ待チヲ……………ッ。』ダパー
うおっ!口から人間の服っぽいのを吐き出しやがった!汚ねぇっ!…いや、意外と綺麗に残ってるな…
「ダパー」「ダパー」「ダパー」
ぎゃーっ!?周りの白き鱗たちも一緒になってヘビ
『マズイノデ消化シテイナカッタ。コレデヨイデショウカ。』
お前らの体そんな便利機能あるのかよ…まあ、今回に関しては助かったけどな。なんか他にも小物がチラホラあるのでもらっていこう。
「助かった!あとで俺の姿をお披露目する予定だ。ハムスターを使いに出すから後で真紅の楽園に来てくれ!」
『ハイ。』
そして俺は真紅の楽園に戻った。
◇◇◇
俺は、使いに出したハムスターどもを待っている間に服の製作に取り掛かっていた。
アルに剣をつくってやったときの要領で、ベースのアイテムに俺の素材を混ぜ合わせてちょっとよさげの服にしようって魂胆だ。
そしてヘビ
深緑色の生地に金色の装飾がされたローブのような服にした。いや俺って魔法使いじゃん?だから某魔法使いの学校のローブをイメージして作ったのだ。
それとついでにマントも作った。マントもローブと大体似た感じのデザインになっている。う〜ん、カッコいい…
お、使いに出したハムスターが帰ってきたな。そういえばハムスター、ゴブリン、ミツバチにも俺の姿を見せたのだが無反応だった。俺のやることに今更驚かないらしい。つまらんヤツらめ…
しばらく待っていると新しく俺の配下になった
『うおっ!?人間だ殺せっ!』
『人間…!?なんで…ここに…?』
『偉大なる竜の王の留守を狙うとは卑怯者ですね!』
『フン…死んで詫びるがいい…』
『偉大ナル竜ノ王、サッキブリデスネ。』
「待てっ!俺だっ!偉大なる竜の王だっ!」
うおっ!いきなり攻撃してくんなよっ!
なんとか4体の攻撃を避けた。
成長したドラゴンの鱗にはもはや
それにかつて盛大に抉られた右腕の傷が嫌に鮮明に記憶に残っている。極力攻撃を受けるのは避けたいという思いから咄嗟に回避を選んだ。人化の状態での耐久力は是非確認するべき事項なのだが、コイツら本気で攻撃してきてちょっと怖いのでやめておこう…
その後しばらくは攻撃が続いたが、妙に動きのいい
危ねぇ!俺じゃなかったら絶対に死んでたぞっ!
今思うとアルのヤツも本当によく最終試験を乗り越えたものだな…人間視点で魔物の群れに襲われるの普通に怖かったわ…今度会ったら改めて褒めてやるか…
攻撃が止んだ隙に、さっきヘビ
『それにしても、人間にしか見えねぇなぁ?』
キバ
ビビってるなんて思われたら俺の威厳が霧散してしまうので、あくまで平静を装って対応することを心がけねば。
「だろ?これでしばらく人間の世界を見てこようと思ってな。お前らに留守を任せるよ。」
まあ別にいつも通りでいいんだけど、一応トップが留守にするわけだから様式美ってヤツだな。
『はあ〜、物好きだなぁ。まあわかったぜ!』
『うす…そういうことなら…俺、頑張る。』
『ふむ…承知した…』
『ハイ。』
『わかりました。お気をつけて。』
配下になってからは、やけに素直になったな。すっかりいい子たちになってしまったか…まあ別に止める理由もないか。俺が最強の存在であることを理解しているもんな。
それにしてもコイツらまじで怖くね?ドラゴンのときはまったくそんなこと思わなかったんだが…
キバ
ツノ
ヘビ
フェニ
そりゃあこんなヤツらが生息している森なんて危険すぎて冒険者ギルドも立入禁止にしたくなるかもな!
俺が人間として転生していたら中心部から抜け出せず詰みだったかもしれない。逆に誰も入ってこれないから守られてる風にも見えるか?まあ、どうでもいいか。
連絡も済んだので集まりを解散する。配下にしてからすぐに留守にしてしまうのは少し申し訳ないが、人化の魔法を覚えてしまったので仕方がない。何かお土産でも買ってきてやるか?
さて、どこへ向かおうかな…?
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