第30話 森の支配者
『ま・じ・で、暇すぎる!』
アルがこの森を旅立ってからもう一月は経ったか?アルは無事故郷に帰れただろうか?
そんなことを考えていたのも最初の方だけで、アルという話相手がいなくなってしまったせいで、特にやることもなく無駄な日々を過ごしている。
流石に真紅の楽園での日向ぼっこも飽きたし、風呂なんか行きすぎて体がピカピカしている。貢物のハチミツや酒に果実、肉を
ハムスターは「ハムハムッ!」、ゴブリンは「ゴブゴブッ!」、ミツバチは「ブンブンッ!」って言ってるだけだし!
もういっそこの姿のまま世界中飛び回ってやろうかな?案外、森の外は実はドラゴンの楽園でみんな好き勝手遊びまくってるとかいうパターンはないか?
ないよなぁ…ってか、そんな状況なら人間の文明なんて発展してないか…
それに俺は自分の姿を晒すことには慎重になっている。魔物が素材になるということは俺なんか格好の獲物になり得るからな。
いずれ人間が大量に押し寄せてくるかもしれないが、森の防衛力とかも上げた方がいいのかねぇ…
できれば人間とは友好関係を結べればいいのだが…全員と仲良くなれるわけでもないしな。みんながみんな、アルのようになるとも思えん。
人間に姿を見せたくない、その一方で人間との交流…もっといえば人間の世界に行ってみたい、そんな考えが日に日に強くなっていく。
身も心もドラゴンになったかと思ったが、一応俺の心にはまだ人間が残っているということか…喜ぶべきか、それとも憂うべきか…それはよくわからないな。
はあ〜あ、なんか面白いことでも起こらねぇかなぁ〜。
そんなことを考えていたときにソイツらは俺の前に現れた。
◇◇◇
『久しぶりのヤツもいるな…』
暇を弄んでいた俺に会いに来たのは、この森の上位勢力5種族の
『よお!偉大なる竜の王!前の酒宴以来だな!』
『うす…俺も…久しぶり…』
『我はこの前会ったな…そこのバカ鳥どもの醜態について、新しい情報がないか聞きにな…クククッ…』
『お久しぶりです。ところでそこのクズ鳥を焼き殺してもいいですか?他者の醜態でしか自らの存在価値を高めることができない寄生虫野郎を…』
『ワタシハ風呂以来デスカネ。』
相変わらずやかましいヤツらだ。銀風の牙、勇猛な角、宵闇の翼、紅蓮の翼、そして白き鱗の
『んで?今日はどうした?』
別に特に用もなくただ雑談しに来ただけでもいいのだが、一応確認せねばな。
『実は、以前に偉大なる竜の王が言っていた力を与える魔法を私たちにかけていただこうかと。
代表して紅蓮の翼の
『加護のことか。』
『加護っていうのか?それを俺らにかけてくれよ。あくまで俺ら全員にだ。この森のバランスが崩れるとよくねぇからな!』
と、銀風の牙の
『偉大ナル竜ノ王ハ人間ガ侵攻シテクル可能性ヲ示唆シタ。ワタシタチガ強クナル必要ガアル。』
白き鱗の
『弱っちい人間の子供…紅蓮の翼から逃げ切った…俺たち…いつか…やられるかも…』
勇猛な角の
『先程はバカにしたが…呑気にしていられぬのも事実…今までは
宵闇の翼の
『そういえば今更なんだが、お前らって人間を知ってるのか?』
俺はこの森に生まれてから出会った人間はアルだけだった。たまに気配察知や魔力感知の魔法を使って森中を探っていたつもりだったのだが…
『あ?何言ってんだ。たまに来るじゃねぇか、人間。最近も来てたぞ?』
え!?嘘!?何で俺は知らないんだ!?
もしかして俺が寝てるとき…?それならあり得る…なんせ俺は寝る時刻にこだわらないからな!ってか、まじかよ…今までアル以外の人間に気付かなかったなんて…
『うす…でも、俺たちを襲ってきたから…全員殺した…』
まあそれは仕方がないだろう。銀風の牙と勇猛な角か…たしかコイツらの縄張りって南東から南付近が銀風の牙で南から南西付近が勇猛な角だったけ?
たしかアルが言ってたな。北のニルブニカと東のイルシプって国は安定してるけど、南西のアウロフって国は争いが常に起きてるって…やはり、こんな森に入ってくるだけのことはあるってことか…
『ソレデシタラワタシタチノトコロニモ来マシタネ。シッカリト殺シタ。アレッキリデスガ。』
白き鱗の縄張りは東側だからイルシプ方面ってことか。そういや前に見たことない鳥が空からこっちを見てたとか言ってたな!もしかしてピンチだったりするの?立入禁止区域だよねっ!?
『まあ、そういうことだ…人間の子供があそこまでになるのだ…他の人間がああならない保証はない…』
『それで…授けていただけるのでしょうか?』
最後に鳥2匹がそう言った。
なるほどな…俺は随分油断していたようだな。いつか侵攻してくるかもとか悠長なことを言っていたが、もうすぐそこにまで来てるのかもしれないな…
それにしてもアルがコイツらに与えた影響がこれほどまでとは…最初はこの世界のことについて色々聞こうと思い、その代わりに鍛えてやったわけなのだが…それに対してここまで用心深くなるとはな。
人間が侵攻してくるなんて俺の予想の範疇を超えないというのに、アルの成長がここまでコイツらの危機感を煽るとは思いもしなかった。
あの特訓はアルだけでなく、森の魔物たちに意識の改革を促す一助になったということか。
理由はよくわからないが、なんだかそれを少し嬉しく思っている自分がいた…
『よし!わかった!加護を授けてやる。ただし、条件をつけるからそれを守れよ!』
『よっしゃ!』『うす…!』『アリガトウ。』『はぁ…一安心です…』『感謝する…』
そうしてコイツらに加護を与えてやることにした。
◇◇◇
まあ暫定的にだが、以下のように条件をまとめた。
1.森を不必要に破壊しない限り森に入ってきた人間を襲わない。
2.悪意をもって攻撃してこない限り森に入ってきた人間を襲わない。
3.私怨や野心をもって森の他種族への侵略行為をしない。
4.今までの因縁は本契約をもって清算したとみなし以後このことを持ち出すことはしない。
5.人間と契約及び交渉する場合には偉大なる竜の王の判断に従う。ただしそれが困難な場合には5種族の過半数の同意に従う。
6.以上の条件を反故にした場合には偉大なる竜の王の審判により裁かれる。
1と2は危険な人間を排除しつつ、アルのような人間をいたずらに殺さないための措置だ。話せばわかるヤツもいるかもしれないけど、そこは柔軟に対応してくれ。
3は強くなることで覇権的な思考をやめてもらうためだ。もちろん生きるための狩りはOKだ。
4は宵闇の翼とか紅蓮の翼ほど顕著でないにしても、少なからず何かしらの因縁があるだろうと思ってな。俺の配下となるなら一切やめろとは言わないがある程度折り合いをつけろよということだ。
5は一応の保険だ。人間はずる賢いヤツが多いからな。そういうのが苦手であろう魔物たちが翻弄されないように、元人間の俺が
6はそのまんまだ。約束破ったら潰すぞ?
5種族の
あとハム
名前は以下の通りだ。
紅蓮の翼の
宵闇の翼の
銀風の牙の
勇猛な角の
白き鱗の
理由は適当だ。コイツらの名前なんて呼びやすくてわかりやすければなんでもいいからな。喜んでたし。俺はアルとは違うのだ!
様子をみて群れのヤツらにも加護を与えることにした。ただ思念通話使えないと色々と不便だしなぁ…
こうして俺は森の上位勢力を配下に加えたことで、この森の全域を実質的に手中に収めることになった。
それにしてもコイツらがあんなこと言い出すなんてな…
俺ももう少し外の世界のことを知るために何かできることがないか考えてみるか。
ひとまず疲れたし寝るか…
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