第19話 最終試験
あれから月日は経ち、とうとうアルの最終試験の日がやってきたらしい。
この最終試験というのは、俺たちが出会った地点から紅蓮の翼の群れに囲まれた状態で始まり、そこからなんとか生き延びてこの真紅の楽園まで辿り着くことで合格となるようだ。
まさに俺と出会わなかった世界線の再現ともいわれるような試験内容を考えたハム
生き残る力さえあれば十分だからな。それに今のアルならちょっとした魔物程度に遅れをとるようなこともないだろう。
この最終試験を合格することができれば、俺の予想だが上級冒険者くらいの実力を手に入れたとみなしてもいいのではないだろうか。まあ、ランクというのが単純な強さのみで決まるわけではないのであろうが…
最終試験くらいは俺も見学させてもらおう。まあ、森の上から覗く程度なら大丈夫だろう…
『ということで今日はよろしく頼むな。』
『えぇ、こちらこそ。紅蓮の翼ともあろうものが獲物を前にして逃げたなどという事実は屈辱でしかありません。あの人間の屍を掲げることで汚名返上の
俺と紅蓮の翼の
『うちの若い衆も気合の入り方が違います。確実に仕留めることでしょう…』
『ハム
『あの
『ほんとな…』
そんなことを話しているうちに最終試験開始の時は来た。
◆◆◆
ようやくここまで来た…
この場所でノヴァス様と出会ってからどれくらい経ったのだろうか?1年くらいか?わからないがとりあえず長い時間を過ごした。
オレは冒険者になることを認めなかった親父を見返すために、何も考えずにこの場所まで突っ走ってきた。
よく考えなくても、めちゃくちゃ頭の悪い行動だったと思う。だが、中途半端と思われるのが嫌だったのだろう。
街に来た旅の吟遊詩人が歌っていた英雄譚に憧れて、そこから反対を振り切って冒険者登録をして、ほとんど雑用みたいな仕事だったがそれでも一生懸命やった。
そしてオレと顔を合わせる度に親父は言うのだ。
『いい加減諦めろ。お前なんかすぐ死ぬぞ。』
正直、自分の全てが否定される思いだった。ノヴァス様に指摘されてからは、その意図も理解できなくはないとも思ったが、それでも当時のオレは許せなかった。
オレは半ば死ぬつもりでこの森に来たのかもしれないな…
でなければこんなギルドで立入禁止区域に指定された場所などに来ないだろう。
ここまでの覚悟を持ってると知れば、見直すのではないか、そんな風に考えていたのだが…
オレの考えは甘かった。
この場所では命というものが非常に軽かった。少し油断すればあっさりと命を落とし、屍すら残らない、そんな弱肉強食の大自然に足を踏み入れる覚悟はなかった。
そりゃあ親父があんなことを言いたくなる気持ちもわかる。オレは冒険者というものの綺麗な面にだけ目線を向け、裏のキツくて辛い非情な現実には見向きもしなかった。
ハッキリ言って舐めていたのだ。
散々、本気だとか覚悟だとか言っておきながらな…
ただ、そんな甘っちょろい今までのガキだったオレとは決別のときだ。
この最終試験を生き残ってニルヴァニアへ戻り、改めてしっかりと話し合うと決めたのだから…
…あと、アリスとも一度話さないとな…うん…
「ハム?(準備はいいか?)」
「…よしっ!お願いしますっ!」
オレは自分の頬を両手で叩き気合を入れる。
そして剣を構える。
周りを見ると…
「チュン…(あのときのクソガキがぁ…よくも舐めた真似してくれたなぁ…)」
「チュチュン!(我々をコケにした報いを受けるがいい!)」
「チューッ!(てめぇなんざ俺1人で十分だが…折角の機会だ、俺ら全員で嬲り殺してやるよっ!)」
「チュンッ…!(殺す殺す殺す殺す殺すっ…!)」
「チュチュン…(いいからさっさと始めようぜぇ…あんまり焦らすと、加減ミスって1発で殺しちまうよ…)」
ヘルフェニクスたちがオレを囲んでいる。
特級指定危険モンスターであるヘルフェニクスの群れに囲まれるなど、本来なら万に一つも助からないだろうが…今のオレならいける!
まともに戦うことは無理でも逃げ延びることなら!
オレはハム
「ハムッ!(では、紅蓮の翼の若い衆よっ!よろしく頼むっ!)」
「チュン…!(
「チュン!(我々紅蓮の翼に対して、地べたを這いずる薄汚い鼠ふぜいが何様のつもりだ!)」
「チュッ!(てめぇも一緒にかかってこいよ…?まとめて殺してやるっ!)」
「チュン…(殺す殺す殺す殺す殺す…)」
「チュチュ…(あぁ…まじで…苛つく…)」
ヘルフェニクスたちが一斉に殺気立つ。狙った獲物を確実に仕留める狩人のごとき鋭い目付きだ。
一触即発な空気に汗が噴き出る。その汗はオレの頬を伝って顎まで到達し、そのまま地面に落ちる…
その瞬間、上空に巨大な火球が5つ顕現した。
その光景を例えるのなら、それはまるで…
この世の地獄のようだ…
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