第18話 冒険者

 『この肉うまいなぁ〜。』ムシャムシャ



 俺は真紅の楽園でハムスターたちが持ってきた魔物の肉を食らっている。やっぱ火を通すと一味違うなぁ。



 俺はこの森の魔物はもう襲わないと言ったが、この肉はハムスターたちが狩ってきた魔物なので問題ない。セーフなのだ!



 「あのぅ…ノヴァス様。」



 俺の目の前で果実を齧っていたアルが遠慮がちに声をかけてきた。



 『ん?なんだ?』



 「いやぁ、オレここに来て結構経つじゃないですか?いつまでもここにいるわけにはいかないな、と思いまして…」



 アルが帰還することをほのめかした。たしかにコイツ逞しくなったとはいえ、まだまだガキンチョだしな…



 『帰るのか?』



 「今すぐってわけではないんですけど、どこかキリのいいタイミングで一度ニルヴァニアに戻ろうと思います。」



 『そうか…それは寂しくなるな…』



 「あはは…オレもなんだかんだいってこの森での生活が今までで1番充実していた気がします。」



 コイツもこの森での生活で随分変わったように思う。最初の頃なんて、考える前に行動っ!といったまさに浅慮そのものであったが、特訓やここでの生活を通して今までの考えなしの行動を反省し、ここまで成長した。



 「ハムッ(俺様の最終試験を終えずして、ここから逃げ出すことは許さん…帰りたければ精々足掻いてみろ。)」



 「ハムよし先生…えぇ、最後までやりきってやりますよっ!」



 アルの隣にいたハムよしも少し寂しそうにしているな。正直ハムスターなんかに特訓を任せて大丈夫か?と思わないこともなかったが、十分師匠としての責務は全うしているようでよかった。



 一応俺が師匠ってことだったんだけどね…すっかりそのポジションは奪われているな…



 『そういえば、この森でのことを冒険者ギルドにレポートにまとめて提出するといっていたよな?』



 「ああ、はい。この森に生息する魔物と出会ったときの対処法にとどめようかな、と。純粋に調査をするだけならこのくらいで十分でしょう?」



 あくまで悪意なしにこの森に入るヤツ向けの情報に限定するといった感じか?随分こちらに配慮してくれるな。もはやこの森の魔物たちに仲間意識のようなものでも芽生えたのかもな。



 『俺のことは?』



 「それは流石に伝えません…もちろんノヴァス様への恩もありますが、ちょっとどうなるか予測できないので…」



 『そうか。それがいいかもな。』



 そういうことなら俺も人間が来たときは目立ちすぎる行動を控えようか。



 『お前ってたしか初級冒険者とか言っていたよな?実際どんなもんなんだ?』



 「いやぁ…オレなんて1番下ですよ。冒険者は特級、上級、中級、初級と大きく4つのランクに分けられて、上級から初級までの間はさらに各級2つのランクに分けられています。上級の1番上が2等級で初級の1番下が7等級です。特級が1等級になります。…つまりオレは7等級冒険者になります…」



 アルはそう言うとズボンのポケットに手を突っ込み、何かを取り出した。白い石に首紐が付けられたペンダントのようなものだ。



 「これが冒険証石です。これで冒険者ギルドが身分を保証してくれるんです。ランクごとに使われている石が違くて、上から金、銀、銅、紅、蒼、黒、白って感じです。使われている石で呼ばれることが多いですね。」



 『へ〜。首から下げるものなんじゃないのか?』



 「いや…白なんて恥ずかしくて、必要なとき以外は仕舞ってます。黒になってから見せびらかす冒険者が増えますね。」



 初心者丸出しだからか?それとも舐められないようにって感じか?



 それにしても、結構細かく分けられているな。って出会ったときは弱いと思っていたが1番下だったとは…まあ子供だしわからなくはないが、それでよくこの森に来ようと思ったな…本当に。



 『お前っていくつなの?』



 「あれ?言ってないですか?えーっと、15になってすぐ冒険者登録して…その後色々あって…多分16です。」



 思っていたより小さくなかったな。結構童顔なんだな…まあここに来てからだいぶ大人っぽくなったが。



 『ちなみに俺は1、2歳くらいだ。』



 「あははっ!ノヴァス様は冗談が下手ですねっ!」



 本当だよ?ちゃんと数えてないから正確じゃないけど、少なくともお前よりは年下だ。



 『んで、ランクによって受けられる依頼の範囲でも変わるのか?』



 「そうです!それにランクが上がればそれだけ信用度が高くなるので、店でツケなんかも可能になったりとか…あとはまあ冒険者を引退した後の仕事の幅が広がったりとかですかね?オレの幼馴染の父親は冒険者引退してからニルヴァニアの衛兵になりましたよ。」



 まあ大体想像通りではあるが…待て!幼馴染だとっ!?聞いてないぞ!お前もしかしてリア充なのか!?そうなのか!?



 『まあそれは置いといて…レポートを提出するとどれくらいランクは上がるんだ?』



 「どうでしょうねぇ?明確な昇級基準は公開されてないので…ただ、立入禁止区域にて長い間生きてこれたのを加味すれば、中級の4等級…いや上級の3等級までの飛び級があってもおかしくは…でも、情報の信頼性が…オレ7等級だしなぁ…」



 ランクを上げるのも簡単じゃなさそうだな。こんな森でずっと暮らしてたのに特級になれないのか。



 …てか7等級に関しては、白って言い方をしないあたり本当に恥ずかしいんだな…



 『まあ、少なくともお前の親はお前の成長をすぐ感じ取れるだろうけどなぁ。あと、幼馴染も…ケッ!』



 「そうですね…しっかりと話さないとな。で、オレの幼馴染がどうかしたんですか?」



 なんだコイツ。煽ってるのか?俺が非リアだからといってバカにしやがって!いや、まだだ。これどうせアレだ。男の幼馴染ってパターンだ。



 『幼馴染って…女…?』



 「はい…そうですけど?それがなにか?」



 「グルルルルオオオオオッ!!!」



 「えっ!?何急にっ!?」



 「ハムッッ!?」



 おっと、ついうっかり咆哮をあげてしまった。待て、まだ慌てるときじゃない。どうせアレだ。恋愛感情はないパターンだ。



 『ふ、ふ〜ん?まあでもアレだろ。お互いに異性として意識していないとかいうパターンだろ?』



 「オレとアリスが?そんなことあるわけないじゃないですか。いっつもオレに口うるさく注意してきたり、頼んでもないのに携帯食渡してきたり、挙句の果てにはオレが心配だからとかいって冒険者ギルドの職員にまでなるんですから〜。本当にやかましいヤツですよ!」



 コイツうぜぇな…



 『ハムよし、コイツを殺せ。』



 「突然すぎませんかっ!?」



 「ハム。(偉大なる竜の王よ、どうか怒りを鎮めてください。コイツも悪気はないんです…)」



 あぁ…無自覚野郎は実際に直面するとこんなにも腹立たしいヤツだったのか。少し冷静さを失ってしまった。ってかそれさぁ…



 『絶対その子、お前のことが好きじゃん。』



 「は?」



 『いいか。お前はもう前みたいなガキンチョじゃないんだ。よ〜く今までのことを思い出してみろ。』



 「………うっ…まさかっ」



 アルはその可能性に思い至ったのか、突如顔面を真っ赤にして俯いてしまった。お前…青春してんなぁ…



 『その子についてもしっかりとするんだぞ。どうするのかはお前次第だが…どちらにせよハッキリと伝えるのだ。』



 「うっ、うす…」



 アルは勇猛な角のおさみたいな返事をして、そのまま無言で手に持っていた果実にかぶりついた。



 『青春かよ…』



 「ハム…」



 俺にだっていつかステキな女性との出会いが…!




 なんか寒気がしたからやめておこう…





――――――――――――


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