第15話 力【チカラ】

 あの後、おさ以外のミツバチ、ゴブリン、ハムスターも少しずつ集まり、それぞれの種族が酒や肉、果実などを持ち寄ったことでそこそこの規模の宴会になった。



 俺もゴブリンにつくらせた自分専用特大さかずきになみなみと注がれた酒を楽しみつつ、充実した時間を過ごした。



 俺は途中で眠くなったのでそのまま就寝したのだが、目を覚ましたら目の前にとんでもない地獄絵図の光景が広がっていた。



 宴会は真紅の楽園で行われていたのだが、花は引っこ抜かれていたり、引き千切られていたりとボロボロの状態に…



 他には乱闘騒ぎがあったのか知らんが、地面が掘り起こされボッコボコに…

 


 そして最後の仕上げとばかりに、胃液や便を含めた大量の汚物がそれらに蓋をするかのようにぶちまけられており、その上にハムスター、ゴブリン、ミツバチ、アルが乗っかっていた。



 この世の地獄ともいうべきソレを見た俺はもうブチギレたなんてもんじゃなかったね。



 とりあえず3種族とアルを全員跡形もなく消し飛ばそうと思ったのだが、たった1%残っていた俺の良心がそれを拒んだので、以前つくった必殺ブレス攻撃を無作為に放ちまくって周囲を更地にするくらいにとどめてやった。



 俺が暴れ散らしているのに気付いたヤツらがなんとか全員を避難させたらしく、運良く犠牲者は出なかったとか。



 その後、全員が真っ青な顔で俺の前で土下座をして反省し、真紅の楽園の復旧作業をすることを条件に許してやった。俺優しすぎる…



 というわけで、今はすっかり元通りの姿に戻った。う〜ん、やっぱり美しい。



 そういえばなんか暴れ疲れた直後の話なんだが、なんか見覚えのある焼けた鳥が落ちていた。多分俺のブレス攻撃に運悪く当たったのだろう。犠牲者が出てるっ!?と一瞬思ったが、俺はこんなヤツ知らないので美味しく頂きました。ペロリ。



 まあそんな感じでいつも通りの景色が目の前にあった。といってもアルとハムスターの組手が目の前で繰り広げられているだけだが…



 ◇◇◇



 『アル。』



 ぶっ倒れているアルに声をかけた。ハムよしたちはだいぶ前に意識を失ったアルを放置して、森の方へ修行しに行ったようだ。おい…



 「んあ…?あぁ、ノヴァス様。なんですか?」



 アルは上半身だけ起こしてこちらを向いた。



 『魔術の練習はどうだ?』



 「あー、正直うまくいっていないですね…」



 そう、アルの訓練している様子は横目でちょくちょく見ているのだが、なんか行き詰まってそうなのだ。



 『ふむ、何でだろうな?』



 「発音はできていると思うんですよね…【光に命ずる、自らを、完璧に癒す、輝きとなれ】っ!」



 俺が以前アルに使ったのを対自分用に直した魔術式だ。発音は大丈夫そうだけど…



 アルがそれを詠唱すると体内の魔力が収束し、前にかざした手の平から暖かな光が出てきて、そのまま体を包み込む…ことなく霧散して消えた。



 「あぁ!やっぱりダメだっ…!」



 アルはそのまま後ろに倒れる。心なしか顔色が悪いな…



 『魔術式の詠唱に問題はなさそうだ…ただ魔術が成立するまでの間に原因がありそうだな…何か心当たりはあるか?』



 「えーっと…魔術にはセンスが必要って聞いたことあります…オレってセンスないのかなぁ…?」



 センスねぇ…



 そんな曖昧なもので魔術が扱えるかどうかが決まるのか?なんかもっと単純な話な気がするが…



 『扱える魔力の差…というのは?』



 「扱える魔力の差…ってなんだか魔物の魔核みたいですね。」



 『…魔核みたい?』



 「魔物には魔核があるじゃないですか。詳しいことは知らないですけど、たしか…純度とか大きさによって質が変わるんでしたっけ?強い魔物の魔核ほど魔力が込められてる、とか。」



 『ん…?ってことは俺にも魔核はあるのか?』



 「そりゃあるでしょ。あれだけ出鱈目な魔法を使えるんですから。ノヴァス様の魔核ならこの大陸くらい吹き飛ばせる兵器がつくれそうですねっ!」



 魔物が魔法を使えるのは魔核があるから…人間には魔核がないから魔法が使えないということか?それに魔核で兵器か…



 『なあ、仮にセンスというのが扱える魔力の差だとすると、魔核があれば自分の扱える魔力以上の魔術を使えるんじゃないか?』



 「魔核を利用した魔道具は魔術のセンスのない人でも使えるのでそうかもしれないですね…ただ、詠唱式魔術には活かせないって聞いたことが…」



 魔核を利用して魔術を使うには何かしらの工作が必要ということか?それじゃあ、結局ダメだな。



 俺の考えが正しければ、アルはおそらく扱える魔力が少ないのだろう。一般に公開されているレベルの魔術を使うしかないのか?ん…?そういえば…



 『えーっと、グレートハムスターだっけ?アイツらも魔法を使えるのか?』



 「使ってるところは見たことないですね…聞いたこともないし…グレートハムスターの魔核は質も悪いって聞きます。もしかして使えないのかも…ってそういえば、ここのヤツらは回復魔法使ってましたね…」



 俺もハムスターたちがクソ弱いのは知っている。だがアイツらは今や完全治癒魔法を使える。あんな強力な魔法が使えたら弱いはずがないだろう。つまり、あれが原因か…



 『実はだな、俺はハムスターたちに強化魔法というのをかけた。おそらくだがアイツらが強力な魔法を使えるようになったのはこれが原因だろう。』



 「強化魔法、ですか…?」



 『アイツらの努力ももちろんあると思うがな…お前に強化魔法をかければ、扱える魔力の量が劇的に上がるかもしれない…もしかしたら魔法も使えるかもしれんぞ…?』



 「マジですかっ…!」



 『ただし、俺はこの魔法を人間にかけたことがないので、体にどんな影響があるかはわからない。そもそもハムスターたちにだってこれから何が起こるかもわからない。実際に俺は実験のつもりでハムスターたちに強化魔法をかけた。』



 「………」



 『お前が魔法を使えないと知ったときに、お前にも強化魔法をかけようと考えていた。まあ状況を見て判断するつもりではあったが…どうする…?』



 正直あのときは深く考えていなかった。



 ハムよしたちによる組手は死ぬほどキツそうだったが…あくまで常識の範囲内での運動だ。



 しかし、強化魔法は効果が大きすぎる…特に治癒魔法はアルの反応を見る限り、人間の中では異常なものなのだろう。



 そんな力を得てコイツは大丈夫なのか?前はそんなこと気にも留めなかったが…



 アルがここに来てからもう半年は経っているだろうか…この世界で初めて出会った人間であるし、共に生活する中で俺はコイツのことをだいぶ気に入っているようだ。あまり迂闊なことはしたくない…



 強化魔法を使うかどうかの判断を決めさせるのは酷だろうか?ただ、少なくともアルの意思を確認せずに使うことはできないだろう。



 「……少し考えさせてください。ただ…オレの意思を尊重してくれてありがとうございますっ…!」



 アルは恥ずかしそうに微笑みながらそう言った。



 「ノヴァス様なら有無を言わさずにオレに強化魔法をかけれるじゃないですか?オレの今後を心配してくれたみたいで嬉しいです!」



 『そりゃあ心配するだろ。』



 「ノヴァス様っ…!」



 『お前が魔法を使えるようになったら周囲の人間に見せびらかすだろう?その結果、どこかの研究機関に捕まって解剖とか人体実験されたら寝覚めが悪いしな。』



 「たったしかに…想像するだけで恐ろしいです…」



 『まあ、俺もお前でも使えるいい感じの魔術について研究してみるよ。お前はいつも通りハムスターたちとの特訓を頑張れ。』



 「ありがとうございます…!オレ頑張ります!」



 俺はこの世界の常識とか価値観を全然理解しきれていないみたいだな…冷静に考えれば、完全治癒魔法レベルの魔術なんてヤバすぎるもんな…



 俺もまだまだ学ぶことがいっぱいありそうだ。




 一緒に成長していこうな!アル!




 ハムスターたちも実験に付き合ってくれてありがとね…今度何かお願いをきいてあげようかな…?





――――――――――――


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