第14話 酒宴

 ふと思ったことがある。



 『アルの特訓の内容がハードすぎないか?』



 最初は頑張ってるなぁくらいの感覚で見ていたのだが、あまりの苛烈さに流石にちょっとやりすぎじゃない?っと今更ながら思い至ったのだ。



 アルの体が貧弱だから必要最低限の体力をつけさせようという軽い考えのもとで、独自の訓練で鍛え続けるハムスターたちに頼んだのだが…



 俺ハムスターたちにあそこまで厳しくした覚えないんだが…?今まで虐げられてきた種族としての防衛本能的なものか?見ていてヒヤヒヤするわ…



 これのタチの悪いところが、目に見えて強くなっているのだ。少しの痛みでギャーギャー騒いでいたのも、今では痛みをあくまで体の損傷具合を把握するための情報として割り切っている。



 それに、単純な戦闘能力も上がっているのだ。今まではなすすべもなくボコボコにされていたが、ちょくちょく反撃できるくらいに戦いというものに慣れてきている。



 結果だけ見るといいこと尽くめなのだが、このままだと精神ぶっ壊れちゃうんじゃないかなぁ…体は回復魔法で完璧に治るからいいけど。



 ということで実際にアル本人に尋ねたのだ、『キツくない?大丈夫?』と。すると、「えぇ!むしろ体を痛めつけておかないと不安で体がプルプル震えてくるんです!」とかいうどう考えても手遅れな回答をしたので、ここらで1つ休みの日をつくったのだ。



 ◇◇◇



 『ということで今日は休みだ。思う存分、体を休めるといい。』



 「あはは、ノヴァス様は心配しすぎですよ。この間のは冗談でしたのに。でもありがとうございます。」



 「ハム!」



 休みだからといって何もしないというのもアレだし、お話でもしようというわけだ。



 「ゴブッ!」「ブンブン!」



 そこに1匹のゴブリンとミツバチがめちゃめちゃ大きい壺とコップを持ってやってきた。



 『ゴブよしにミツよしか、酒を持ってきたのか。では、コイツを飲むことにしよう。お前らも付き合え。』



 コイツらはゴブリンとミツバチたちのおさらしい。ハムよしに名付けしてやったら、羨ましそうにこちらを見ていたのでついでに名付けしてやったのだ。



 仲良く頭に彼岸花を乗っけている。それおさあかしでいいの?なんか締まらなくない?



 基本的にコイツらとは貢物を受け取るとき以外には会わないので、こうして全員が集まるのは貴重だったりする。



 ってか、これハチミツ酒ってやつか?なんかいつのまに合作みたいなことやっていたのか…まあ、仲がいいのはいいことだね…



 「ゴブッ!」



 ゴブよしがアルにハチミツ酒の入ったコップを渡す。



 「ん?これを飲めって?ありがとな!え〜っとゴブよし!どれどrブフォッッ!いきなり何するっ!?」



 「ゴブッ!(てめぇ、何を勘違いしてやがる?新入りのお前ごときが、一体どうして俺様の酌で飲めると思っているんだ?これは教育が必要みてぇだなぁ!)」



 「ブンブン?(ったく、流石今まで俺様に挨拶しにこなかったほどの礼儀知らずだな?せいぜい無様な格好でも晒して俺様を楽しませてみろ。あ、俺様たちのハチミツ酒を一滴でも残したらわかってるよな?)」



 「あの…ノヴァス様…何でコイツらはオレに対してここまで攻撃的になるんですか…?」



 舐められたくないんじゃね?



 『てか、そういえばお前酒飲めるんだっけ?』



 どう見ても未成年なんだが。



 「え?そりゃ飲みますよ。オレの家、酒場ですよ?」



 『お前の国…ニルブニカっていったっけ?特に年齢で制限する決まりとかはないのか?』



 「さあ?あったとしてもオレはきいたことがないですね。」



 おい、酒場がそれでいいのか?まあコイツが知らないんだったらそもそもそんな決まりないのかもな。

 


 「それにしてもこの酒、美味いですね。魔物がこんなものをつくれるなんて…」



 『お前の実家の酒場に卸してやろうか?』



 「あはは、これを店で出せたら繁盛しそうですね。いやその前に親父が全部飲んじまいそうです。」



 『そういえば父親を認めさせるとか言っていたな。今頃お前のことを心配しているんじゃないか?』



 「どうでしょう。特に気にしてないんじゃないですか?ガサツなジジイですよ。それにオレが冒険者になったらすぐ死ぬ、とかずっと言ってきて鬱陶しかったし。」



 『実際お前はあともう少しで死ぬところだったけどな。』



 「うっ…その節は大変ご迷惑を…まあ、たしかにオレも少し熱くなりすぎていたし、考えなしだった…かも…」



 『帰ったら一度しっかり話してみろ。案外通じるかもしれないぞ?』



 「そうですね…オレも冒険者になりたいの一点張りだったし…いつかは店を継ぐんだろうな、とは薄々思っていたし…」



 『今生の別れってのは突然やって来るものだからな。後悔のないようにしとけ。冒険者なんてやってたらつきものだろ?』



 「たしかに…ノヴァス様も経験が…?」



 『…どうかな…』



 楽しく酒を飲むつもりがなんだか湿っぽい空気になってしまった。自分からこの空気にしておいてという感じだが、ここからもっと楽しい感じにしよう!



 『よし、この話はこれくらいで。アル、なんか面白い話か1発ギャグをやれ。』



 「えっ!?きゅうすぎないですか!?」



 『いいから早く面白い話をしながら1発ギャグをしろ。』



 「いや、サラッと難易度が上がってrブフォッ!?」



 「ハムッ!(てめぇ…いつまで待たせるんだよ?面白い話も1発ギャグも出来ねぇなら一気飲みくらいやってみやがれ!)」



 「ゴブッ!(あ!てめぇ!俺様が丹精込めてつくりあげたハチミツ酒を噴き出してんじゃねぇっ!零した分も含めて一滴残らず飲み干しやがれっ!)」



 「ブンブン!(ったく…とんだ根性なしだな…さっさと面白い話をしながら1発ギャグをして一気飲みもしろ!)」



 「くそっ…黙っていればいい気になりやがって…酒場の息子を舐めんじゃねぇっ!この場の酒全部飲み干してやるよっ!」



 うんうん、いつもの雰囲気に戻ったな。



 こういうノリを危惧して休みをつくったのに、結局こうなってしまうのか。



 こうしてようやく酒宴が開始した。




 ああ、酒をバカみたいに飲むのはいいが、この真紅の楽園をお前らの汚い胃液で汚したらわかってるよな?



 もしそうなったら俺…どうしちゃうかわからないよ?




――――――――――――


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