第13話 魔術

 ハムよしたちによるアルの特訓が始まってからしばらく経った。



 「ぐっ…左腕がもう動かねぇ…ごふっ…スタミナもそろそろ限界か…次が最後のチャンスッ…!」



 「ハム!(ふんっ!クソ雑魚ナメクジが少しはマシな顔するようになったじぇねぇか!オラッ!)」



 最初の頃は泣き言ばっかりの印象だったが、最近はもはやボコボコにされたところでいちいち反応することがなくなるくらいにはキマっていた。



 大丈夫かなぁ…?



 心なしか表情が少し世紀末な感じになっている気が…うん、気のせいだな。



 そんな感じで特訓は概ねいい調子で進んでいた。一方、俺は何をしているのかというと…



 『魔術ねぇ…』



 魔術について考えていた。アルの手が空いたときに色々ときいておいたのだ。



 魔術は大きく分けて2つあるらしい。



 1つ目は一定の法則で並べられた魔術文字で構成された魔術式を詠みあげて発動する詠唱式。



 2つ目は複雑怪奇な幾何学模様のような図形で構成された魔法陣に魔力を込めて発動する設置式。

 


 冒険者の間では、専門的な知識をそこまで必要とせずに咄嗟に発動することが可能な詠唱式が主流なようだ。



 そんな魔術だが各国が独自に研究を重ねて、研鑽を続けているものらしい。強力な魔法などは各国で厳重に秘匿しているようだ。



 中には国を挙げて魔術の研究を奨励しているところもあるみたいで、人間にとっては非常に重要な技術なのだろう。



 ただ一部の魔術に関しては冒険者ギルドのような機関を通して、公開されているものもあるらしい。



 アルに魔術に関しての資料かなんか持ってないかきいたら、なんと持っていたのだ。



 携帯食やその他アイテムを入れるようなバックパックのようなものを持っていたのだが、その中に魔術式が書かれたメモが入っていたのだ。



 このメモはまさに冒険者ギルドで公開されていた魔術の魔術式を写したものらしい。これがあれば魔術について何かわかるかもしれない。



 まあ結局、俺からしたらメモがめちゃくちゃ小さい上に、触ったら引き裂いてしまいそうなのが面倒でしばらく放置していたのだが…



 どっかのタイミングでアルに「魔術の研究はどうですか?」ってきかれたから、『まだはじめてない。』と素直に答えたらひどく悲しそうな顔をされたので、仕方がなく始めようとしていたところだ。



 まあ、メモはハムスターあたりに持たせて広げさせよう。よし、これで準備はできた。どれどれ…



 【@¥&/、#%^*、[_\]、+<;(】



 なんだこれ…きっしょ…



 まったくわけがわからないが、どうやら意味のある文字列らしい。



 たしか、【属性、対象、効果、形状】だったかな?



 正しい発音をしないと発動しないらしいのだが、アルは発音の仕方を知らないらしい。それにも関わらずメモだけ持ってきていたのだ。アホなのかな…?



 やべぇ…序盤も序盤でつまずいてしまった。



 さて、どうするかな…ってそうだ!魔法使えばいいんだ!俺が翻訳かなんかの魔法をつくれば解決するんじゃないか?



 魔術の研究に魔法を使うというなんとも本末転倒な感じがしてしまうが…細かいことは気にしないでおこう。あくまでアルを強くするための一環なのだから。



 久しぶりに魔法をつくるなぁ。よし!やるぞ!



 う〜んっと、できたっ!翻訳と発音の魔法をつくったぞ。



 いやぁ、世界中で魔術を血眼で研究している方には申し訳ないねぇ…ま!俺ドラゴンだからさ!



 じゃあさっそく…どれどれ…?



 【光に命ずる、眼前を、癒す、輝きとなれ】



 めっちゃわかるわ。



 なるほど、これは治癒魔術ということか。試しに使ってみるか。アルとハムよしの方へと向かう。



 「っち…もう全身が…動かねぇ…次こそはっ…って、ノヴァス様?」



 「ハムハムハム…ッハム!?ハムッ!」



 ボロ雑巾のようにぶっ倒れているアルとそれを見て嘲笑っていたが俺が来た瞬間に敬礼し直したハムよしがいた。ちょっと待っててな…えっと…



 『【光に命ずる、眼前を、癒す、輝きとなれ】』



 俺が詠唱すると、アルの体が癒しの光に包まれていた。徐々に傷が治っていってる。



 「これは…魔術…」



 「ハム!」



 そして魔術が切れた。うん、やっぱり完璧には治らないみたいだな。浅い切り傷は塞がっているが、重いダメージなんかは少し和らいだ程度か…



 さっそく実験だ。じゃあ試しに…



 『【光に命ずる、眼前を、完璧に癒す、輝きとなれ】』



 途端、アルの体がさっき以上に強く光り輝き始めた。まるで、俺がよく使う治癒魔法のように…



 「なっ…!?これはっ…一体…!?」



 「ハムッ!?」



 そして、アルの体は完全回復した。



 『ふむ。詠唱式の魔術に関しては概ね理解したぞ。』



 「はっ…ハハッ…ドラゴンって半端ねぇ…」



 「ハム…」



 なんだか、尊敬を通り越して呆れられてしまったようだ。この世界の人類の歴史を全部スッ飛ばすどころか一気に追い抜いてしまったもんだしな。



 自分の才能が怖いぜ、まったく。




 ◇◇◇



 『ということで、お前は今日から俺がつくった魔術式を毎秒暗唱し続けろ。無意識のうちに口から漏れ出てしまうくらいに、だ。』



 「いやっ…キツいですって!?…でも、実際それだけやる価値があるのがなぁ…」



 あれから、俺は2つの魔術式をつくった。完全治癒魔術と超身体強化魔術だ。



 完全治癒魔術はさっきのヤツだ。あれが使えればよっぽどのことがない限り死なないだろ。



 超身体強化魔術は読んで字の如く、身体能力がバカみたいに上がる魔術だ。力とかスピードが飛躍的に上がるので、剣を持って戦うコイツにも合ってるだろう。最近は殴り合いしてるところしか見てないが…



 この2つのみを徹底的に覚えさせれば十分だろう。紅蓮の翼が使っていた火球を出すような魔術はやめておいた。コイツは近接戦闘特化型にすると決めたからだ。それにたくさん覚えようとして1個も覚えられないなんて事態は避けたい。



 これでパーツはほぼ揃ったも同然だろう。



 今やってるハムよしたちとの特訓で戦い方を学び、魔術によって戦闘能力を上げて、ハムスターたちに施した強化魔法でベースの体を強化。



 これで強くしてやるという約束もなんとかなりそうだな。後はお前の努力次第だ!頑張れアル!



 「え〜っと、【光にm>\$】いや違うか…」



 ちなみにこの発音めっちゃ難しいらしい。よくわからないが、魔術に関する第一関門であり、多くの冒険者はここで挫折するらしい。



 「んっと、【光に命ずr¥”ッゴフッ…!って何するんだよっ!ハムよし先生っ!」



 「ハム?(まだまだ特訓も終わってねぇのに随分余裕だなぁ?俺様の特訓なんざ片手間でちょうどいいってかぁ?いつからお前はそんな偉くなったんだ?アァン?)」

 


 「いや…ちょっ…ノヴァス様にやれってグェ…」



 「ハム!(ごちゃごちゃうるせぇっ!口答えするんじゃねぇミジンコ野郎がっ!常にベストの状態で戦えると勘違いしてるんじゃないだろうなぁ?てめぇが魔術の練習するときは俺様が必ず邪魔してやるからなっ!覚悟しておけっ!くらえっ!ハムハムパンチッ!!)」



 「ぐわーっ!!」




 頑張れ!アル!




――――――――――――


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