第12話 特訓

 『それでは今からお前を鍛えてやる。』



 「はっはいっ!お願いしますっ!」



 まあ一応約束なので、このアルという少年を強くしてやろうと思うのだが…何をしようか。



 俺の場合は森の魔物を狩りまくったり、魔法の実験をしたり、といった感じだったが、コイツを森に放り込んでも速攻肉の塊になって終わりだろう。ならば…



 『お前、魔法はどれくらい使える?』



 魔法を鍛えるのが1番手っ取り早いだろう。俺も魔法のおかげでここまで生き残れたのだ。魔法が使えなかったら正直詰んでいただろう。



 「えっと…使えません…」



 え?



 魔法使えないの?



 なんなら俺魔法以外で教えられることないんだけど…



 『そうか…魔法が使えないなんて可哀想に…』



 「いや!?オレが特別才能がないとかではなく、人間に魔法は使えませんっ!」



 人間には魔法が使えない。それがこの世界の常識みたいだ。なんと無情な…



 「魔法が使えるのは魔物だけです!人間が使えるのは魔術の方です!」



 ん?魔術?初耳だな。



 『魔法と魔術、一体何が違うのだ?』



 「えっと…たしか魔法というのは魔物が引き起こす不思議な現象全般のことを指して…魔術というのは魔法を人間が扱える技術に落とし込んだものを指す…だったっけな…?」



 アルが頭から捻り出すようにそう言った。



 『なるほどな。じゃあ魔術は使えるんだな?』



 「つっ…使えません…」



 『………』



 「…魔術っていうのはいわゆるインテリと呼ばれる人たちの領分でして…使える人の方が少ないんですよ…?…おっオレが決して…無能というわけでは…ゴニョゴニョ」



 まあ使えないものは使えないらしい。嘆いていても仕方がないだろう。



 さて、どうしようかな…あの手を使うか…



 『わかった。とりあえず方針を変える。』



 「ご迷惑をおかけします…」



 『まあ、そう落ち込むな。今からお前の訓練相手を呼ぶ。でよ!!ハムよしっ!!』



 俺が上空に向かってそう叫ぶと、遠くの方から足音が聞こえてきた。そして、ソイツはあっという間に俺たちの目の前まで辿り着いた。



 そこには、頭に彼岸花を乗っけた1匹のハムスターがいた。その目は金色に光っている。



 「ハムッ!」



 『紹介しよう。お前の訓練相手になるハムよしだ。ハムよし、コイツはアルだ。仲良くしてやってくれ。』



 「ハムッ!」



 ハムよし、以前に赤い花を持ってくるようハムスターどもに命令したとき、最初に彼岸花を持ってきたヤツだ。コイツは後におさの地位にまで至り、そのあかしとして頭に彼岸花を乗っけているのだ。あと、ついでに名前をつけてやった。可愛いでしょ。



 「あ、よろしくお願いします。ノヴァス様…これって、グレートハムスターですよね…?」



 アルがハムよしを見て、戸惑っているようだ。



 『知っているのか?』



 「はい…グレートハムスターは数多くいる魔物の中でも最弱といわれる魔物だったはずです…いくらオレが弱いといっても流石に相手にならないかと…」



 『ふむ。こう言っているがハムよし、お前はどう思う?』



 「プゥ〜クスクスッハムハムハムッ!!」



 ハムよしはアルのことを指差して吹き出している。その様はまるで「何言ってんだこの鼻垂れ小僧っ!!」とでも言っているようだ。



 馬鹿にしているのが、アルにも伝わったのだろう。ムッとした顔をしながら口を開く。



 「まあ、ノヴァス様の指示には従いますが…怪我をしても悪しからず。」



 アルは不満そうなのを隠すことなく態度に出している。まあ確かにハムよしは一見めっちゃ弱そうだ。



 『ならば一度、手合わせをするといい。そうだな…もしもハムよしに勝つことができたら、お前の願いをなんでも1つ叶えてやろう。』



 「えっ!?まじですかっ!…やべぇ…何にしよう…」



 『勝つことができたら、な?』



 「いいでしょう…ノヴァス様はオレの願いを叶える準備をしていてください!さあ、来い!グレートハムスター!!」



 アルは剣を構える。



 「ハムッ!」



 ハムよしもファイティングポーズをとり、待ち受ける。



 『それでは…始めっ!!』



 俺の合図と共に、戦いの火蓋が切られた。




 両者は同時に地面を蹴り、衝突した。




 ◇◇◇




 あれから数日が経過した。




 「あのっ…!ハムよし先生っ…!今日のところはこの辺でっ…ゴフッ…」



 「ハムハムハムハムハムハムッ!」



 「ハムッ!」「ハァ〜ハム…」「ハムハムハム!」「プッハムハムハム!」



 遠くでアルとハムよしが組手をしている。ハムよしがアルのことをタコ殴りにしているようだな。周囲を別のハムスターたちが囲み野次を飛ばしているようだ。



 初顔合わせのときの手合わせは、ハムよしの勝利で終わった。1Rラウンド3秒左フックで秒殺KOだ。



 アルはショックを受けていたが、仕方がないだろう。コイツらは俺の魔法による実験、改造により最適化されたエリートハムスターに生まれ変わったのだ。



 最初の頃は俺が超絶手加減をして手慣らししていき、徐々に難易度を上げていって鍛えてきたのだ。



 最近では森の方へ単身で突っ込み、森の魔物たちと戦って鍛えているようだ。治癒魔法も教えたので、アフターケアもバッチリだ!



 今はもうハムスター同士でマニュアルのようなものができており、俺の手を離れてハムスターたちは独自の訓練を続けているのだ。あんな感じに…




 そう、俺はハムスターたちに施した強化魔法をアルにも使おうと思っているのだ。使えば強くなるかもしれない。多分、大丈夫だろう…



 …念のために、あらかじめ十分に体を鍛えさせてから使うが。ダメだったときは俺が全力で治癒魔法をかけてやることにしよう…



 目安は…ハムよしに全て任せたから、そのときがきたら俺に報告するだろう。



 それにしても魔法を使えないなんて人間は不便だなぁ〜。人間でも魔法が使えるように研究してみるか?それとも魔術とやらについてアルにもう少し詳しくきいてみるかな…




 久しぶりに研究しがいのありそうな対象を見つけたので、俺もしばらくは退屈しなさそうで大満足だ!





 「ぜぇ…ぜぇ…こっこんな生活続けてたら死んじまう…だっ誰か…のっノヴァス様…」




 「ハムハムハム!(おいっ!新入りっ!まだ口がきけるなんて随分と余裕があるじゃねぇかっ!そんなに物足りねぇなら今日は休みなしの徹夜コースにしてやるぜっ!オラッ!)」



 「ゴフッ…グェッ…」バタリッ



 「ハムッ!(ふんっ根性なしがっ)」

 「ハム?(気絶したらガードできなくなるのに随分余裕があるな?)」

 「ハム!(さ〜て、舐めた口をきいた罰はこの辺にして、そろそろ地獄の特訓を開始するか!)」

 「ハムッ!(安心しろ?人間、治癒魔法で死にたくても死ねなくしてやるからなっ!覚悟しておけっ!)」



 

 うん!今日もみんな仲が良さそうでなによりだっ!




――――――――――――


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