第11話 名前

 『なあ、お前の名前ってアル=ヴァートルだよな?』



 「え?はい。そうですけど。」



 俺はふと気になったことを聞いてみた。



 この世界の文明がどれだけ進んでいるのかわからないが、冒険者なんて職業があるくらいだし、俺の前世ほどは進んでいないのではないだろうか?



 『ヴァートルって姓だよな?お前もしかして結構いいとこの坊ちゃん?』



 そう、コイツ姓を持っているのだ。もしかしたら、貴族やそれに準ずる家格のものだったり…まあ、それを知ったところで俺が態度を変えることはないのだが。



 「ああ、そういうことですか。えっと、ニルヴァニアを拠点にしているヴァートル家という商家があるんですけど、うちはそこの傍流でして…一応名乗ることは許されてるって感じです。実家もただの酒場ですし。」



 ふーん、そういうことか。本家との繋がりもそこまで強くないから、あくまで一般人ってところか。



 「あのぅ…オレも1ついいですか?」



 少年…アルが俺におそるおそるといった感じできいてきた。



 『なんだ?』



 「えっと、ドラゴン様のことはなんとお呼びすればいいですかね…?」



 名前、ね。一応それっぽいものはあるのだが…



 『この森の魔物たちは俺のことを、偉大なる竜の王と呼ぶ。』



 白き鱗が俺のことをそう呼んでから、この森ではこれが俺の名前のような扱いになっていた。



 「はぁ…それじゃあ、偉大なる竜の王様?」



 『呼びにくいか?』



 「えぇ…まあ…少しだけ。」



 そう、呼びづらいのだ。俺も元々人間だったので、その感覚はよくわかる。名前といえばもう少しラフな感じで呼びやすいものの方がいいだろう。



 『ちなみにさっきの赤い鳥のことはなんと呼んでんいるんだ?』



 「あぁ、ヘルフェニクスのことですか?さっきは本当にヤバかったなぁ…」



 人間は紅蓮の翼のことをヘルフェニクスと呼んでいるのか。なんか、どっちも格好いいのが腹立つな…



 『この森ではあいつらのことを紅蓮の翼と呼んでいる。』



 「紅蓮の翼…これってもしかしてすごい発見なんじゃ…それにしても、魔物の感覚ってのはなんか独特ですね。」



 やっぱりそう思うか。さて、どうするか…



 『せっかくだ、お前が名前を考えてくれ。』



 「オレが…?えっ!?オレがっ!?」



 めちゃくちゃ驚いている。だが、仕方がない。お前が呼びにくいと文句を言うのだから、名前くらい考えてくれ。



 『ダサくなければなんでもいいぞ。』



 「やべぇ…オレの人生一体どうなってるんだ…でも、ドラゴンに名前をつけるなんて…一生の自慢になるかもっ…!」



 そう言うと、ウンウン言いながら名前を考え始めたようだ。まあ、俺が自分でつけてもいいのだが、せっかくだしこの世界の常識をもった人間につけてもらいたい。



 せいぜいカッコいい名前をたのむぜ?



 ◇◇◇



 「決めましたっ!」



 ウンウン悩んでいたアルが突然声を張り上げて叫んだ。



 『やっと決まったか?随分待ちくたびれたぞ。』



 コイツ結構な時間悩んでいたのだ。別にそれ自体は構わないのだが、あまりに凝った名前にされるのもどうかと思うのだが…



 「いやいやっ!?流石に考えさせてください!…それで名前なのですがぁ…」



 意味ありげな視線を向けて、溜めてくる。コイツもこの短時間で随分慣れてきたな。意外と大物になるかも?それはそうとさっさと言えやゴルァ。



 「ここはあえて、【ノヴァス】というのはどうでしょうか?」



 ノヴァス、語感は悪くない。あれだけ悩んでいた割にはシンプルでホッとしたが…



 『あえて、とはどう言う意味だ?』



 「そのまんまの意味ですけど…あ、そうか。えっとですね、ノヴァスっていうのは主に中央大陸やオレらのいる南方大陸で信仰されている聖竜神教にて語られる救世主の名前なんですよ。」



 あー、なるほどね。前世でいうクリスとかモハメドみたいなもんか。



 「特別感のある名前を、とも考えたんですけど…広く知られている救世主の名前なら確実かなって…あっ!でも、気に入らなければ他のを考えます!…そうですねぇ…では!カイザースペシャルキングオブキングゴッドドラゴンデラックスというのはどうでしょうか!?実はこれが一番気に入っていて…」



 『いや、ノヴァスでいい。俺のことはノヴァスと呼ぶといい。』



 危ねぇ…コイツのネーミングセンス壊滅的じゃねぇか…そういうのは求めてないんだよっ!!



 ノヴァス、うん。なかなかカッコいいのではないだろうか?この世界では定番の名前っぽいが、定番というものはいいものなのだ。



 「そうですか!よかったぁ…それではよろしくお願いします!ノヴァス様!」



 『ああ!褒美として死すら生ぬるいほどに厳しく鍛え上げてやるから覚悟しておけよ!』



 「えぇ〜っと…本当に怒ってません…?大丈夫ですか…?できればお手柔らかに…」



 冗談の通じないヤツだなぁ。冗談みたいな名前は思いつくくせに。まったく!



 こうして俺は【偉大なる竜の王ノヴァス】という名前を手に入れたのだ。



 これでいつ名前をきかれても大丈夫だ。




 やっぱ、カッコいいな…ふふふ…




 ちなみにこれはだいぶ経ってから知ることになるのだが、「カイザースペシャルキングオブキングゴッドドラゴンデラックス」というのは、この世界の人間の感覚からしても相当にヤバいらしい。




 そりゃそうだろ…




――――――――――――


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