第3話 戦闘

 今俺の目の前には2匹の生物がいる。



 俺と同じくらいのサイズの真っ赤なシマエナガとこれまた俺と同じくらいのサイズの鋭く血のように赤い目をもつカラス。



 呼びにくいので赤シマエナガとキモカラスと呼ぶことにする。



 そいつらが争っているところに突如現れた俺。



 2匹とも何事かと俺の方を見ている。



 とりあえず話しかけてみるか…



 「グルルルゥゥゥ(お前ら、その辺にしておけ)」



 喋ろうとして思い出したけど、俺喋れないんだった。てか何で俺はこの鳥どもに話しかけようとしてるんだ?通じるわけもないのにな。



 「チュチュン!?」



 「グワァァァ…」



 うん、やっぱりわからないな。



 赤シマエナガは突然の出来事に戸惑っている風だが、キモカラスは邪魔されたことに苛立っている感じだな。



 「グルゥゥゥ?(俺の言ってることも理解できない感じ?)」



 もしかしたら俺の言っていることは通じているかもしれないと思って話しかけた。



 「グワァァアアアアア!!!」



 突如キモカラスが殺気立ち、俺目がけて突っ込んできた。俺の言ってることは通じていないようだな。それにしてもこのままだとヤツの鋭い嘴で俺が串刺しに…



 って危ねっ!?



 俺は咄嗟にキモカラスの突進の直線上から逃れようと体を捻った。



 しかし、慣れない飛行状態もあって直撃は避けたものの、キモカラスの嘴は俺の右腕の上腕部分を深く抉った。



 「グルアッアアアッ!?(痛いッ!?痛すぎる!?)」



 俺は平和な現代日本でのうのうと生きていたただの一般人、当然これほどの激痛を負った経験などあるはずもなく、あまりの痛さに飛行状態を保てずに無様に背中から地面に叩きつけられた。



 「ガゥアアアァ…(なんでいきなり…)」



 抉られた部分がとんでもなく熱い。赤い血がどんどん溢れてきており頭がクラクラしてくる。突然の事態にパニック状態になりながらもなんとか体勢を整えてキモカラスへと向き合う。



 「グワァァアアア!!」



 相変わらず凄まじい様子で威嚇しながら、俺のことを上空から見下している。よく見てみると抉った俺の肉をグチャグチャと咀嚼しているようだ。この野郎…



 ただヤツも無傷というわけではないようで、体にいくつもの切り傷ができている。俺が避けたときに上手い具合に鱗が当たったのかもな。



 それにしてもマズいな…おそらく次は避けられない…まさに命の危険という状態なのだが、なぜか俺は一周回って冷静になっていた。これが生存本能なのか?



 そもそもなんで俺はこんな目に遭っているのだろうか?俺は喧嘩の仲裁をするくらいの感覚で、ついでに何か話でもできたらと…



 いや、まあ俺も悪いのか。キモカラスからしたら俺は狩りの邪魔をしたヤツだ。腹が立って当然、ついでに捕食してやろう、そんな考えのもと突っ込んできたのかもな…



 ただな…お前が俺を食うつもりなら、俺がお前を食おうとしても文句はねぇよな…?



 たしかに俺はこの大自然の環境において少し平和ボケしすぎていたのかもしれない。



 だがそういうことなら俺だって覚悟を決めてこの弱肉強食の世界を生き残ってやろうじゃないか!



 そう決意したらなんだか無性に腹が立ってきたな…なんで俺がカラスなんかに食われなきゃいけないんだ?どう考えても食うのはドラゴンである俺の方だろ!



 それにちょうど果実だけじゃ物足りなかったんだ。



 あいつのせいで血を流すことになったし、カラスを食うのは少し抵抗があるが…せいぜい俺の腹の足しにでもなってもらおうか。



 俺は全身の痛みを誤魔化すためにキモカラスに向けて威嚇するように雄叫びを浴びせた。



 「グルルアアアアアアアアアッ!!!」



 するとキモカラスは一瞬ビクッと震えた。怯えているかのようなその様は滑稽で、思わず口角が上がってしまった。

 


 「グワァァアアアアアアアアアアッ!!」



 そしてとうとう上空から俺目がけて突っ込んできた。この攻撃で俺を仕留めるつもりだろう。このままだと俺は串刺しになって死ぬ。



 俺に今できることはなんだ?



 飛んで避けることは可能かもしれないが、事態は好転しないだろう。そもそも俺は飛ぶことに慣れていない上に相手は鳥だ。いずれジリ貧になるだろう…



 そうなると手段は1つ、反撃だ。



 たしか地球にも攻撃は最大の防御という言葉があったはずだ。



 俺の今できる攻撃手段は、全身の鱗を活かした体当たり、噛みつき、そして鋭い爪により切り裂きの3つか?



 まず体当たりは却下だ。やつの嘴は俺の鱗を貫通していた。それを正面から受け止めるのはまずい…



 次に噛みつきだが…論外だろ。わざわざ慣れない噛みつきの隙を突かれて口内という弱点を晒すことになる。



 となると、これしかねえなっ!!



 「グルアアアアッ!!(死に晒せぇっ!!)」



 俺は無事な左腕を振りかぶり、キモカラスの突進に合わせて全身全霊の思いで爪を叩きつけた。



 「グワァッ!?クヒュッ」



 掌に嘴が少し貫通したが、俺の切り裂き攻撃によってキモカラスは全身がバラバラに引きちぎれていた。俺強っ…



 「グワァ…?(やったか…?)」



 思わずフラグとも呼べるそのセリフを吐いてしまったが、流石にこの見るも無惨な状態からの復活はないようだ。



 生き残った…



 全身の緊張が一気に緩み、強烈な倦怠感に襲われた。右腕は相変わらず痛いし…左手もめっちゃ痛い…早いとこコイツを食ってしまおう。



 火も通さずに食うことに抵抗を感じなくもないが、そうも言ってられない。今コイツを食わねば俺は死んでしまう。俺はこの大自然で生きていくと決めたのだ。



 せいぜい俺の糧になってくれ…



 ムシャムシャ



 うん、意外とイケるな。これは俺がドラゴンだからなのか、特に気になることもなくあっさりと平らげてしまった。



 俺と同じくらいのサイズだっただけに、かなり腹に溜まったなぁ、まあまだ余裕で食えそうだが…



 あ、そういえば赤シマエナガはどうしたかな?



 狩られそうなのを助けたんだし、お礼の1つでもしてくれるのではないか?いや、逃げてるかもな。



 上を見回してみると…いた。捕食している間ずっと待っていてくれたのかな?



 木の枝の上から俺のことをじぃーっと見つめていた。



 なんか不気味だな…放っておくか…



 それについさっきまで命のやりとりをしていたんだ。少し休みたい…


 

 俺は今の状態でこの場にいるのは危険と思い、自分の生まれた場所まで戻ろうと、赤シマエナガに背を向けて歩き出した。すると…



 「ヂュチュンッ!!!」



 力強く鳴き声をあげたので、思わず振り返ってみると、



 赤シマエナガが自分の体よりも大きな火球を上空に出現させていた。まるで今から俺を焼き殺そうとしているかのように見える…




 は…?なんだアレ…?




――――――――――――


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