エピローグ:神の間

 果てしない光の空間。ここは「神の間」。

 全守護神を統括する存在、総合神がそこにいた。

 ニールの意識がこの場所に運ばれてきた。


「ここは……?」

 その問いに答えたのは、圧倒的な存在感を持つ声だった。


「神の間へようこそ、ニール。」


 その声とともに、濃い霧のような存在が姿を現した。


「あなたは…総合神様ですか?」


 彼の姿は流動的でありながら荘厳で、光と闇が絶妙に調和した存在そのものだった。

「そうだ。お前は晴翔を導くために全力を尽くしたな。」


 ニールは静かに頷いた。


「しかし、最後まで導く事ができませんでした。闇に圧倒され、自らの存在を消し去ることでしか彼を救えませんでした。」


 悔しさと後悔が滲んでいた。ニールは続けて言う。

「全てをやり尽くしました。もう消え去るべき存在です。」


 守護神として、自分の役割を果たせなかった責任を受け入れているようだった。


 守護神には厳しい規則があった。

 担当する人間を最後まで導けなかった場合、存在そのものが消去される。


「守護神としての定めですから。」

 ニールの目の奥には寂しさが浮かんでいた。


 総合神は少しの間沈黙した後、穏やかな声で言った。

「消える必要はない。」


 ニールは驚いたように顔を上げた。

「え……?」


 総合神はゆっくりその存在を近づけた。

「お前のように自らを犠牲にしてまで人間を導く者は稀だ。

お前は晴翔を最後まで導き切れなかったと言うが、彼に意思を託し、未来を託した。

その選択こそが、お前の最大の導きだ。」


 ニールは困惑した表情を浮かべた。

「ですが…私は規則を…」


 総合神は続けた。

「その規則は、死の概念がない守護神が、責任を持って人間を守護するよう私が広めた。存在しない規則だ。安易な道を選ばないためにだ。

お前は自らが消える覚悟で導くことを選んだ。安易とは全く反対の行動だ。私の後継者になって欲しい。」


 ニールの目が驚きに見開かれる。

「後継者……?」


 総合神は少しニールに近づいた。

「私は新たな任務に取り組まなくてはならなくなった。ニール、私の後を継いでほしい。」


「ですが、やはり私は失敗た守護神です……」ニールは言った。


 総合神は言った。

「失敗とは、学ばずに終わることだ。自らの失敗を通して、多くを学び、得た知恵を晴翔に託した。成功以外の何物でもない。」


 ニールは深い息をつき、顔を上げた。

「やります…」


 総合神は続けて言った。

「ありがとう。」

「ただ、リフレクターに関するインシデントの報告書は必要だ。

総合神になって最初の仕事は報告書作成となる。」

「今まで発生したインシデントの報告書を見る権限もあるから、しっかり目を通しておく事。」


 ニールは残念そうに言った。

「総合神になっても、報告書作成は回避は無しですね…はい…。」


 総合神は言った。「では、始めよう…」

 総合神はニールの手を取りその力を渡し始めた。光と闇が渦がニールを包み込んでいく。

 遠のいていく意識の中で、総合神は守護神の姿に近づいてるように見えた。

「役割をきっと果たせる。人間と守護神を見守り、導くのだ。」


 ニールは新たな総合神として目覚めた。圧倒的な調和と威厳を纏っていた。


「これが総合神…」

 ニールは新たな総合神となり、全守護神を導く事となった。


「さて、報告書作成に取り掛かるか…報告書の番号は…」ニールはインシデント報告書の採番台帳を確認する。

「1992か…」

「リフレクター:インシデント1992、担当守護神ニール…」

「下記インシデントが発生…、武器として使用…破損3回…人間への誤反射…鏡内への拘束…人間による保持…自己への反射と消滅…やっぱ今回はインシデント多いな…クラムス分も含んだ報告だしな」

 報告書作成の手が止まる。

「元総合神様は他の報告書を見ろと言ってたな…」

 気分転換を兼ねて報告書を順番に読み進めた。

「インシデント1、担当守護神カムス、破損、びっくりして落としちゃいました」

「インシデント2、担当守護神カムス、破損、手に持って踊っていたら手を滑らしちゃいました」

「インシデント3、担当守護神カムス、紛失、気がついたらなくなってました」


「カムスさん…」ニールに笑顔が戻る。

「破損や紛失しても、1週間くらいで新品が届くけど、報告書確定なんだよな。」

 やれやれという表情で読み進めた。


「インシデント4、担当守護神ドレック、人間への誤反射、作業の慣れから人間への誤反射。小人の目撃情報として後世に伝えられてしまう。」

 ニールは微笑んだ。なぜか共感でき、気分がすこし気が楽になった。


・・・


「インシデント1666、担当守護神ダンケル………ん?この守護神の空気感は、元総合神様か…?元総合神様がインシデント?自己への反射と消滅…私と同じように自ら消えた?…担当は…

裕福な酒蔵の息子である与吉と貧しい家の娘お雪……え?この酒蔵の息子の感じは……人間時代のクラムス!?…このお雪という娘は…間野 由香の前世…」

想定外の組み合わせに、インシデント1666無心で読破した。

「ちょっと待ってくれ。だとすると、クラムスの真の目的は闇を広げる事でなかった…真意を隠すためベタな光と闇の戦いに擦り替えられてたのか...」


居ても立ってもいられずニールは神の間から出ようとした。すると白い煙に囲まれ、無機質な声が響いた。

「持ち場を離れることはできません。」


「総合神は外に出られないのか…ダンケルは守護神に戻り、一体どこに……なぜ私に報告書を見せたのか…」


無機質な声は答えるように言った。

「各守護神の様子は、あちらのモニターでご覧ください。」


ニールはモニターへ向かった……


「リフレクター:インシデント1992」に関する事項は以上である。


【おわり】

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リフレクター:インシデント1992 夜空たけし @tyasuka

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