俺のユニークスキル



 …………今のは、夢?

 半分ぐらい意識が飛んでいた俺は、ふとを開ける。

 だけど、ボサっとしている暇はなかった。


 暗闇の中で、機械的な声が響く。

 これは恐らく、俺が使っているスキルの通知だ。 




『「スキル:擬態」にて「精神体」に変化。成功』

『「スキル:擬態」にてユーザー:メルランの「ユニークスキル:門」を獲得。失敗』


『「ユニークスキル:欲望」によって、「ユニークスキル:門」を取得。成功 』


『「ユニークスキル:門」にて、対象者の居場所を検索。――失敗 』




『0.25秒後、対象者からの攻撃を受けます。「スキル:防御結界」を使用。成功』




 ……はい?

 俺の理性が反応する前に、矢のような、砲撃のような何かが身体を襲う。

 『防御結界』がそれを捉えて防いだ時、その余波で吹き飛ばされた。

 暗闇の中、ものすごい勢いで落下していく。

 そして、例えようのない衝撃が下から襲ってきた。



「っ痛て――――――――!?」



 俺は叫びながら、暗闇の中をコロコロ~と転がる。

 ようやく回転が止まって、俺はなんとか体を起こした。



「……な、なんとか止まった……痛くなかったけど怖かった……」



 真っ暗闇のジェットコースターとか、どこ需要だというのか。いや、意外にありそうだけど!

 身体を起こす。随分身体が重いし、頭も痛い。まるで調子に乗りすぎて二日酔いになった朝みたいな。



「結構しんどいなー、精神体。まるで人間の体じゃんか……」



 よいしょ、と立ち上がって、ふと気づく。

 ……


 俺は両手を見た。

 まごうことなき、人間の手だった。



「……えええええ――――!?」



 俺は思わず叫んだ。




 ■


 俺がヒナさんの精神世界へ行くと伝えると、ギルドマスターは反対しなかった。


「まあぶっちゃけ、あなたが一番リスクないんですよね……あの子の精神世界へ行くとなると」


 それは俺がいてもいなくても変わらないからだろうな、と頷ければ、「この鈍感め」と睨みつけられた。なんで?

 まあまあとメルランがとりなし、「マコトくん。君は少し、勘違いしている」と言われる。


「君は君が思うほど無力じゃない。気づいていないかもしれないが、君にはある『ユニークスキル』を持っている」


 ……ユニークスキル?

 確かユニークスキルって、「その人が生まれた時から持っている、他には類を見ないスキル」じゃなかったっけ?

 俺、ヒナさんと会った時は、スキルとかほぼなかったんだけど。


「ユニークスキルはいわば、本人が生まれた時から持つ『才能』だ。だから本人も持っていることに気づいていないこともある」


 そう言って、メルランは俺のステータスを開く。


「ほら、君のここ。空白になっているだろう?」


 ここをこうしてー、と呪文を呟くと、濃く塗りつぶされたステータスに、白い文字が浮かぶ。

 ……いや、あぶり出しかよ。ネタバレとか伏せるやつの。

「これだよ」とメルランは指を指す。



「『ユニークスキル:欲望』。これが君のユニークスキルだ。

 君の欲望に応えて、スキルを獲得するユニークスキルだね」



 ……は?

 いやいや、そんな異世界転生あるあるなチートな特典があったら、俺もっと楽に生きてるよね? 宝箱で苦労しないよね!?

「思い出してみるといい」メルランが言う。


「君はスキルを獲得する時、何があったかを」


 何があったか?


 メルランにそう言われ、俺はこれまでのことを思い出す。

 まず最初に身につけたのは、ヒナさんとスムーズに会話するための『念話』。

 次にヒナさんが倒した魔猪の身体を収めるための『収納』。次々に来る魔猪と戦闘するヒナさんに掛けた『防御結界』。

 中々ヒナさんが帰ってこなくて心配になった時に身についた『跳躍』。


 ローレンス伯爵と対峙した時、いつの間にか身についていた『即死』。


 ……あれ?

 俺は今まで、レベルアップしたらスキルが身につくものだと思ってた。けど、『跳躍』とか『即死』は、レベルアップとは関係ない。

 むしろ、関係あるのは――。


「まだ推測の域ではあるけどね」メルランはそう前置して、



「君のユニークスキルは、恐らくヒナのために発動していた」


 俺が出した結論と同じことを言った。

 だからね、とメルランは付け足した。


「ヒナの精神世界で、ヒナを助けるために。君の『ユニークスキル:欲望』は、一気に開花するかもしれない」


 ■



 とまあ。

 そんな感じの説明を受けて、俺はここにいるのだった。


「今俺は、『スキル:擬態』で精神体になって、人間の姿になってるわけか」


 しかも、声も出ている。

 なんで精神体が人間なんだろ。宝箱よりずっと動きやすいから、ありがたいけど。



「ヒナさんを見つけても、この姿で気づいてくれるかなあ……」



 あれだけ望んだ人間の姿も、今のタイミングじゃなあ。

 そもそも俺、どんな顔してるんだろ。前世の顔か?

 にしては手とか小さいし、足とか短い。

 何より、胸元に落ちている髪とか、肌の色が、あまりに白い。前世の俺、髪を染めたこともないんだけど。


「……一体俺、どんな姿になってんだか……」


 姿といえば。

 さっきの白昼夢のようなアレは、なんだったのだろう。

『ユニークスキル:読心』を持ったことで、家族に振り回された悲しい人。

 その人の前に現れた、『ヒナタさん』という日本人女性。


 髪の色はヒナさんに似ていたけれど、あれはヒナさんじゃない。

 目の色が黒かった。それに、顔つきも全然違った。

 たれ目のヒナさんと違ってつり目だし、ふんわりとした雰囲気を持つヒナさんと違い、どこか鋭い刀を持ったような女性だった。


 何より、ここはヒナさんの精神世界だ。

 ならここで見るものは、ヒナさんの記憶じゃないだろうか。俺のファンタジーの知識と経験がそう言っている。


 だとしたら、本人の視点なわけだから、本人の姿は映らないんじゃないか?


 それに、ジェイソンと名乗る兄。

 ヒナさんの兄を名乗る男は、ローレンス伯爵の身体を乗っ取っているわけだから、姿形が違ってもおかしくない。


 そして何より、「×××××××」という名前。

 あの男が、ヒナさんに対してそう呼んでいた。



 ――「あの子は、君に沢山隠し事をしている。それだけじゃなく、嘘もついている」。



 嘘。

 メルランの言葉を思い出して、俺はふと思った。

 ヒナって名前は、偽名なのかもしれない、と。


 目の前には、大きなガラスの破片のような、水晶の塊のようなものが、ふよふよ泳いでいる。それは俺が視認出来ない暗闇の先にもある気がした。


「……」


 俺は、目の前にあるそれに触れる。

 

 それがヒナさんの記憶の結晶だと、誰に言われなくてもわかった。

 

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