ヒナさんの反応
■
リンに話を聞いてもらってから、何かスッキリした気がする。
別に答えが出たわけじゃない。けど、誰かに自分の気持ちを伝えて聞いてもらうのはいいなって思った。
――そして次の日、ボコボコにされてリンに連れてこられたメルランがいた。
「いやあ、すまないねマコトくん。どうやら私は、余計なことを言ってしまったようだ」
ハッハッハと笑いながら謝罪された。ボコボコにされたことは気にしていないらしい。
『り、リン……? お、俺、そこまで気にしてないっていうか、ぼ、暴力はちょっと……』
「? いつも通り、こいつがギルドの皆から金借りて、カジノ行きそうになったのを止めただけだけど?」
あ、そりゃ止めますわ。いや、暴力はよくないと思うけどね? 俺が相談したせいで殴られたとかじゃなくてよかった。
「お詫びと言ってはなんだが、ヒナに贈り物をする時、料理も一緒に頼んだらどうだろう? 代金は私が支払おう」
『その金はどこから?』
「ははは。遠慮することはないさ」
遠慮じゃねえよ。
俺が思わずリンを見ると、リンははあ、とため息をついていた。
まあ、色々あったけど。無事ピアスも買えたし。後は渡すだけだ。
……ここで俺は、ある最大の悩みにぶち当たった。
これ、どうやって渡そう?
「ヒムロさーん! ただいまー!」
約束の一週間から三日後。ヒナさんが仕事から帰ってきた。
遠方での盗賊退治という、結構大変な仕事をこなして来た後だと言うのに、ヒナさんは元気いっぱいだ。
「ごめん、約束してくれたのに、間に合わなくて」
『そんなの全然問題ないよ。それより、怪我とかしなかった?』
見る限り、多分大丈夫なんだろうけど。
仕事内容が内容だし、無事に仕事が終わっても、途中でなにかの事故にあってるんじゃないかなとか、ちょっと心配していた。
……嘘です、かなり心配してました。
心配しすぎた結果、動き回る代わりにガタガタと身体を揺らしまくった結果、ついに『スキル:跳躍』で歩行手段を得るようになったのはナイショである。リンからは「マコト、うるさい」と苦言を呈された。
「だいじょーぶ! 盗賊自体はそんなに強くなかったから!」
そう言って、力こぶを見せるかのような仕草を見せる。かわいい。
「ちょっと気になることがあって、そっちに時間取られちゃって。あー、お腹が空いたー! なんか食べたい!」
『あ、ちょっと時間貰っていい? すぐ終わるから』
俺がそう言うと、ヒナさんは「え、何?」と小首を傾げた。
――あれから、渡し方を色々考えたけど。
俺の姿は宝箱である。つまり、何をどうやってもギャグにしかならない。
ならばいっそのこと、ギャグに突っ走ろうと考えた。その結果。
自分が贈り物の箱になればいいんじゃね? と思った。
パカ、と、俺は蓋を開ける。
さすがにピアスを丸出しで渡すのは無くしそうで怖かったので、ちゃんとリボンをつけた箱に入っている。箱に箱ってマトリョシカか。
『えーと。……感謝の気持ち、デス』
俺がそう言うと、ヒナさんは目を開いたまま固まった。
……やばい、失敗した!?
思わず俺も固まってしまう。そこに、メルランがヒナさんの後ろから声を掛けてきた。
「プレゼントだってさ、ヒナ」
そう言われ、ハッとヒナさんが顔を上げた。
「え、私に? プレゼント?」
『う、うん。気に入ってもらったらいいん、だケド……』
「とっていい!?」
『う、うん』
思った以上に大きな声が帰ってきたので、ビックリしつつ返すと、ヒナさんは躊躇いもなく俺の箱の中に手を入れた。
……いや。こんなことした俺が言うのもアレだけど、よくヒナさん手を突っ込めるな。ミミックの口だよ? そこ。
――ってか口に手を突っ込まさせるって、これセクハラになる? 宝箱だからセーフ?
ドキドキしながらまた別のことを考えていると、ヒナさんは両手で箱を持って眺めていた。
「はわ……はわわ……」
青いリボンで飾られた、白い小さな箱を眺めながら、口をアワアワさせるヒナさん。
「……開けたら?」
リンの言葉に、「そ、そうだね!」とヒナさんは青いリボンを解き、蓋を開けた。
「わ、わー! ピアスだ!! かわいい! すごい!」
『気に入ってもらえた?』
「うん! 好き! 嬉しい!! ありがとう!」
「せっかくだし、ここでつけてみなよ」
メルランが促すと、ヒナさんは元気よく頷いてピアスを取り出し始める。
……いや、二人のアシスタントありがたい。俺一人だったら『えっと、あの』で終わりそうだった。ありがとう二人とも!
ところが、箱から取り出そうとして、ヒナさんはまたもや固まった。
そして涙目になりながら、こう言う。
「こ、壊しちゃわない? こんな小さいの、私の握力で……」
『心配そこ!?』
「君、毎日ピアス付けてるでしょうが」
「だ、だって……今、壊れたら私、絶対立ち直れないよ……?」
小刻みに震え出すヒナさんに、メルランが「仕方ないなあ」と言い、なにかの魔法を掛けた。
「ほら、『スキル:固定魔法』掛けてあげたから。これでもう、いくらヒナの握力が
「メルラン……ありがとう!」
『いや、その発言は怒っていいんじゃないかな!?』
俺は思わず突っ込んだが、ヒナさんは気にせずピアスをつけ始めた。
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