頑張ればワンチャンいけると信じて
こうして、俺たちは改めて自己紹介した後。
メルランの『ユニークスキル:
「ここからは、ヒムロさんも歩いて覚えた方が便利だと思うから、一つずつ紹介するね!」
ヒナさんはそう言って、背負うのではなく俺を抱え、見やすいようにその場でゆっくり一回転してくれた。
ハーフティンバー様式って言うんだっけ。建材の木組みが壁から出てる装飾。色んな色で塗られた壁に、赤茶色の梁や柱が露出していて、趣がある。
何より、街は大きく、活気立っていた。ヒナさんが言った通り、色んな魔族や魔物も歩いていて、しかもみんな笑顔で歩いている。
道も広くて、石畳もでこぼこしてない。大きな川が流れていて、その水路を利用して運搬しているようだ。
広場にはあちこち出店のようなものが並んでいて、鉄板で何かを置く音や、そこから出てくる煙や匂いなど、美味しそうな雰囲気を出している。
問題は、俺は食べられないってことだけど。この口は『収納』以外に使えないってか……。
「この街セーレは、ヒムロさんがいたダンジョンによって栄えた街なんだ。あの洞窟は貴重なアイテムがドロップするから、冒険者ギルドや宿屋だけじゃなく、鍛冶屋とか服屋さんとか、宝石店も多いんだよ」
『へえー』
なんか、俺海外とか行ったことないんだけど、旅してるみたいだ。ワクワクする。
……そして俺は目を剥いた。
ショーウィンドウあるじゃん!?
そこには、俺たちの世界のと遜色ない、大きなガラスがあった。
てっきり中世ヨーロッパ的な世界だと思ってたのに! あれですか、やっぱ転生者とかが持ち込んだ感じですか!
そこはどうやら喫茶店らしい。日陰になっているため、ガラスは鏡のように反射していた。
そこで初めて、俺は自分の姿を確認した。
そこにあるのは、白に金の装飾がされた、立派な宝箱だった。
わあ、なんか高級感ある~。
……こりゃ、男には見られないわな。
俺は、一緒に映っているヒナさんの姿を見て、ガックリする。
いや、思い上がってなんかないよ。ヒナさん美人だし、相手にされるなんて思ってないし。
でもせめて、自力で歩ける魔族や魔物に生まれ変わりたかったんですけど!
「それにしても、もぐ、ダンジョンのミミックに、もぐ、転生するなんてね」
リンさんが串刺しの焼肉を頬張りながら言った。いつの間に。
「わ、ずるい! ちょうだい!」
「はいよ」
リンさんは俺のせいで両手のふさがったヒナさんのために、口に運ぶ。
ヒナさんは幸せそうに串から肉をとり、もぐもぐと食べた。かわいい。
「リン、私には?」
「そこらへんの草でも食ってたら?」
メルランの要求に、バッサリと切り捨てるリンさん。
それはさておき。
『さっき言ってたけど、やっぱりミミックに転生するのは珍しいのか?』
……いや、俺は一体何を聞いてるんだ?
自分で言った言葉で、思わず『
「ミミックっていうか、宝箱に擬態したままのミミックに、ここまでハッキリと意思があるのが珍しい、ってこと。そもそも宝箱に化けずに、別のものに化けてることが多いから」
『別のもの?』
ミミックって、宝箱とか、ほかの道具とかに化けているイメージがあるけど。
「ミミックは『シェイプシフター』と呼ばれる、擬態する妖魔の一種だ。意思と知恵がある高位のシェイプシフターは、人の姿をとることが多い。
まあ、君は元人間ってこともあるんだろうけど……」
『え、ってことは俺、もしかして人の姿をとることもできるってこと!?』
俺が尋ねると、「可能性はあるね」とメルランが言った。
「例えば、あのダンジョンを作った魔王セーレも、人の姿をとったシェイプシフターだったしね」
「真面目に仕事をすれば、人に擬態することも出来るんじゃない?」
『精一杯働かせていただきますッ!!』
俺は思わずヒナさんを見る。
ヒナさんは、笑顔で言った。
「じゃあ、ヒムロさんの人間の姿もいつか見られるんだね! 楽しみ!」
その期待に、俺は少しだけ気が引けた。
ま、まあ俺、フツメンだったけど。ブサイクでは無いはず。
それに少しでも、ヒナさんに近づくことが出来るなら。
こうして俺は、新たな人生を歩むことになった。
人じゃなくて、ミミックだけど。
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