『飯テロ』とか『地雷系ファッション』とか、なんかあの言葉が流行る感じの真相

 エルフの男が意識を取り戻したあと、ヒナさんは「紹介するね」と切り出した。


「こっちがリンちゃんで、こっちがメルラン」


 ヒナさんは手で丁寧に二人を指し示した。エルフの男は、メルランという名前らしい。

 リンさんは片腕だけ掴んで真っ直ぐ立ち、メルランと呼ばれた男は、倒れていた丸木の上に座っていた。

 ……優雅に笑う姿は見るものを魅了しそうなぐらい甘いけど、なんとなく胡散臭い感じもする。


「私は戦士で、リンちゃんが剣士、それでメルランが魔術師ね。ちょっと前まで、私たちはパーティーを組んでいたんだ」


 それはわかる。

 問題は、「どうしてヒナさんが追放された」かだ。


「えーと、その、ね? 私、うっかり『追放』って言葉を使っちゃったけど、正しくは『追放』じゃなくて、一時休止っていうか」

「私たちがせっせと戦闘したり働いてる時に、そこの男、サボるんだ」


 ヒナさんの言葉を、リンさんがスパッと遮った。


「パーティーは経験値だけじゃなくて、お金も仲間で分け合う払う契約だからね。

 で、サボった分のお金を返してもらうために、こうやって無償で働かせてる」

「ヒナ、聞いてよ。リンってば酷いんだ!」



 メルランは目を潤ませながら言った。



「私にカジノに行くなって言うんだ! 簡単に手持ちが増えるというのに!」


「それ、絶対すっからかんになるやつでしょ?」



 ヒナさんが冷めた目で言い放った。

 なんとなくこのメルランとかいうやつの性格が分かってきたが、改めて俺はヒナさんに尋ねる。



『えーと、このお兄さん、もしかして』


「うん。クズなんだ」



 ヒナさんの言葉から『クズ』って言葉が出てきたよ。

 いやでも、それでなんでヒナさんが『追放』ってなるんだ? ぶっちゃけお荷物はこのメルランっていうクソ魔術師では?



「こう見えてもコイツ、ユニークスキル持ちなんだ」

『ユニークスキル持ち? って、何?』

「その人が生まれた時から持っている、他には類を見ないスキルだよ」



 リンさんの説明に俺が尋ねると、ヒナさんが説明してくれた。



「メルランは『ユニークスキル:ゲート』が使えるの。このスキルは、一瞬でどこにでも行けるスキルなんだ」



 つまりさっき現れたのは、そのど〇でもドアみたいなスキルを使ったからか。俺も四次元〇ケットみたいなスキル持ってるけど。

 けど、そんなスキルを持ってたら、確かに簡単には追放できないよな。



「まあレベル低くて、こうやって仕事から逃げることぐらいしか使えないけど」



 リンさんはメルランの首根っこ掴む。

 ……なるほど、リンさんがメルランの頭上から降りてきた理由もわかった。



「300年生きておいてレベルが8とか、何無駄に歳食ってんだか」

「酷いなあ。長命種である私たちは、人間の君たちとは違って上がりにくいんだよ。ねえ、ミミックくん」

『俺に振るの!?』



 確かにさっきまで、俺はレベル1だったけど。

 でもヒナさんに付き合ってもらって、今22ぐらいは上がったよ? なんでこのエルフ、ヒナさんたちに付き合ってもらって8なの!?



「……っていうか、それ、ミミック?」

「それって言わないで。マコト・ヒムロさんだよ」



 ヒナさんがそう言うと、リンさんが「名前持ちなの? ミミックが?」と返した。



「そのことは後で話すよ。今はヒムロさんが質問してる番でしょ」



 ヒナさんがそう言うと、「そりゃそうか」とリンさんは真顔で返した。

 そしてしばらく目を瞬かせ、呟く。



「ええと、なんだっけ」



 ……リンさんは、見た目真面目なクールビューティーだけど、なんか会話の仕方が自由人って言うか、天然っぽさがあるな。



『メルランのことはわかったけど、ヒナさんが追放される理由がわからないんだが?』

「え、そりゃ、ヒナがいたらコイツ働かないじゃない」



 何を言ってるんだ、と言わんばかりにリンさんが言う。わけがわからないよ。



「えーとね、リンちゃんは、私ばっかり働いているのを見かねて、メルランのノルマが達成するまで、私とのパーティーの契約を解除したの。私は別に良いって言ったんだけど」

「君、なんやかんやメルランの尻拭いをしがちでしょ。一人に負担がかかるのはよくない」

「……それで、リンちゃんが付きっきりでメルランの面倒を見てるのは、本末転倒だと思うんだけど……」



 えーとつまり、リンさんは良い人ってことか。

 ……この流れで、根が悪くないパターンってあるんだ。初めて知ったわ。



「それで、ヒナをパーティーから追放したわけ」

「ごめんねヒムロさん。リンちゃん、大袈裟に物を言うというか、言葉選びがちょっと独特で」



 こそ、とヒナさんは俺に耳打ちする。



「実は『追放』されたの、今回で三年目なんだ」

『長くね?』



 どんだけメルランサボってんだ。



「あ、違うの。ちゃんとパーティーに復帰している時期もあるんだよ」



 ヒナさんがフォローに入る。……フォローか?



「リンちゃんの言葉選びに、最初は私もギルドのみんなもギョッとしてたんだけど、だんだん慣れてきちゃって、普通に使ってたの」



 あれか。

 本来なら『危害を加える』行為のことを指す『テロ』って言葉を、『いかにも美味しそうなご飯の画像や動画を見せつけて食欲を掻き立てる』って意味で『飯テロ』って言って流行ったのと同じ感じか。



「他にも、溜まりに溜まっていたツケとか、ギルドの皆からの借金とかも換算してやってるから、一年に一度、全部まとめて清算していて。

 みんなして『おお、追放の季節が来たか』『もうそんな時期か』なんて言うものだから、なんか『追放』って言葉に対する感覚が麻痺っちゃって……」

『確定申告の季節?』

「ごめんね……私の言葉選びが悪くて、ヒムロさん驚かせちゃった……」


 とにかく、ヒナさんが酷い目に遭ってるとかじゃなくてよかった。

 そして思った以上に冒険者ギルド、アットホームな感じだな。

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