ようやく役に立てそうだ(なお戦闘面)
「それじゃ、まずは冒険者ギルドに行こうか」
『そういや、俺ミミックだけど、冒険者になれるの?』
パーティーの契約を組んで今更だけど。
俺の疑問に、「勿論なれるよ!」とヒナさんが言う。
「ほとんどは人間だけど、亜人も魔物もいるよ。私がいたパーティーはエルフがいるし」
『エルフもいるんだ!?』
エルフかあ。長い耳に儚げで美しい風貌、長命種ゆえの落ち着いた振る舞い。
……うん、いいよねエルフのお姉さん。ファンタジー世界にいるなら一度は会ってみたい。
俺がそう思っていると、ヒナさんは目を逸らして、「うん……まあ、大体合ってるかな……お姉さんじゃないし、あまり期待しないで欲しいケド……」と呟いていた。
まあ、冗談はさておき。俺を誘ったせいで、ヒナさんの当たりが強まることはなさそうだ。
エルフって言っても、ヒナさんを追い出したパーティーの一人だしね。そこんところ、甘く見るつもりは無い。
『今から楽しみだ』と言うと、ヒナさんは「だけどその前に」と言った。
「この魔猪を持ち運ばないと。魔猪は肉だけじゃなくて、アイテムにもできるから」
ヒナさんは倒れている魔猪の方を見て、苦笑いした。「……一人じゃ、全部は難しいと思うけど」
私だけで捌けるかなあ、と呟くヒナさん。
そっか。戦うためだけじゃなく、アイテムを持ち帰るためにも人手が必要なんだ。
……ん、待てよ。
『俺、これ丸ごと収納できるかも』
「え、ホント!?」
さっき手に入れたスキルの中に、『収納』というものがあった。
見た目宝箱なわけだし、アイテムをしまえてもおかしくない。
さっそく、『スキル:収納』を使ってみる。
すると、空間がぐにゃり、とまがり、魔猪があっという間に俺の蓋の中へ吸い込まれた。
……おお。変わらない、脅威の吸引力。戦闘では無理でも、収納では助けられそうだ。
最初ぽかんとしていたヒナさんだったけど、すぐに立ち上がって、思いっきり拍手してくれた。
「す、すごい! ヒムロさんすごいよ!! こう、ぎゅわっ!! ってなってたすごい、あのなんというか……えーと」
しばらく溜め込んだうち、ヒナさんはグッと握りこぶしを作って言った。
「ヒムロさんマジすごい!!」
語彙が見つからなくても最大限褒めてくれるヒナさん、マジでいい人!!
さて、これで問題ないかな。と思った時、ぱん、とヒナさんが手を叩いた。
「それじゃ、ヒムロさんがいたフロアの水晶も持っていこう! あれも貴重なアイテムだし!」
『あ、そうなの?』
あれだよね。壁に生えていた水晶。高そうだなって思ってたけど、やっぱり貴重なんだ。
ヒナさんの提案に従い、俺たちは水晶を拾い集めることにした。
俺は零れていた水晶のかけらを、『スキル:収納』を応用した吸引で集めた。
なおヒナさんは、自分の身体より大きくて太い水晶を素手で引っこ抜いていた。すごいね。
一通りアイテムを集めた後、俺たちはとりあえず、ダンジョンの入口へ戻ることにした。レベルアップはしたけど、深層に行けるほど強くは無いし。
そこでも、俺たちは無言だった。ただ、さっきと違って、気まずくは無い。何時でも話しかけていいし、無理して話しかけなくてもいい居心地さがあった。
俺はふと、さっき聞いた話を思い出し、そのまま疑問を念話で伝えた。
『祖国から追い出されたってことは、ヒナさんって転生者ってこと?』
俺がそう聞くと、俺を背負っていたヒナさんがびくり、と震えた。
『……ヒナさん?』
ヒナさんは黙ったままだった。
そう言えば、念話を手に入れる時から、なんとなくビクッとする時がある。
何か聞かれたくないことがあったのだろうか。
無理して答えなくていいよ、と返す前に、ヒナさんは言った。
「……ヒムロさん。実は、私――」
意を決したように、ヒナさんが口を開いた。その時。
声をつんざくような唸り声が、またもや聞こえてきた。
俺はダラダラと汗が流れた。汗が流れる身体持ってないけど。
『……ヒナさん、これって』
「魔猪だね」
また出てきたんだね、と朗らかにヒナさんが告げる。
それと同時に、前から魔猪が猛突進して来た。さっきより身体は小さいけど、群れになって襲ってくる。
魔猪との
ようやくダンジョンから出てきた時。
ヒナさんのスピードについていけず、俺はボロボロだった。
ちなみにヒナさんは元気いっぱいだった。流石だね。
「お疲れ様、ヒムロさん!」
『いや、ヒナさんこそ……俺なんもしてないし……』
むしろ背負ってもらってる身分で、ここまでボロボロになるの、本当に申し訳ない。
けれどヒナさんは、「そんなことないよ!」とフォローしてくれた。
「途中で、防御のバフ掛けてくれたでしょ? おかげで怪我しなかったよ!」
そうなのだ。
ヒナさんが倒している間、俺は新たなスキル『防御結界』を手に入れた。これは俺だけじゃなく、味方に掛けられるバフみたいだ。
と言っても、ダメージをちょっと減らすだけだし、なんならヒナさんは全部の攻撃を危うげなく回避してたから、なんの意味もなかったんだけどね!
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