とりあえずそいつにガツンと言おうか

 こうして俺は、ヒナさんの活躍でレベルアップに成功した。

 ……が。


 あるよね。レベルの高いモンスターと戦ったあと、めちゃくちゃレベル低かった味方キャラがガンガンレベル上がっていくの。ゲームしていた時は気分が上がるけど、実際自分の身になると「はよ終われ」という気分になる。パソコンの更新を待ってる気分。

 スキルの追加に、ステータスの上昇。元々高かったすばやさと防御力が上がっている。

 肝心の攻撃力は、そこまででは無いけど、まあ別にバトる必要も無いし。体力も結構増えた。


 ……ってか足ないんだけど、すばやさ上がっても意味無くね!?

 ゲームの中のミミックって、一体どうやって戦ってたわけ!? 移動方法が欲しいです!


 そして、俺たちの目的である、肝心の『念話』はまだ通知が来ない。

 この戦闘で得られなかったら、どうしようか。

 もう一度ヒナさんに戦ってもらう?

 それとも、このダンジョンから離れて、別の手段を探すとか。

 例えば、『念話』の魔法を覚えるとか。

 ありがたい事に、元々魔力量はかなり多い。呪文とか何にも覚えてなかったから宝の持ち腐れだったけど、魔法の類ならいくらでも覚えられるかも。


 魔法かあ。

 火とか氷とか出せたら、異世界に来たかいがあるってもんだ。

 ヒナさんは近接攻撃だし、俺が後方で補助出来たらいいコンビになりそう。正直、俺の助けとかいらないほど強いけど。


 でも。

 このままヒナさんと冒険とか出来たら、楽しいだろうなあ。


 そんなことを想って、ふとヒナさんの顔を見る。

 ヒナさんの目元が赤かった。まるで、泣いて腫れたみたいに。

 ……泣いてる?


 泣いてる!?(二度目)



『大丈夫!? 怪我!?』



 慌てて俺がモールス信号で聞くと、ヒナさんは「あ、違う違う! 目に砂が入っただけ!」と言って、目を擦ろうとする。

 確かにあの戦闘なら、目に砂が入ってもおかしくない。だけど目を擦ったらダメだよ。



『目を擦ったらダメだよ』


 ……あれ?


 ぽかん、と、ヒナさんが目を丸くした。

 同時に、『「スキル:念話」の獲得。成功』と通知がやって来る。


 どうやら俺は、お目当てのスキルを手に入れることが出来たらしい。


『うおおおおおお――!』

「やったぁ――――!!」


 俺とヒナさんは、その場でハイタッチした。ハイタッチって言っても、俺は手が無いので蓋を開けて、ヒナさんがその蓋にタッチするだけなんだけどね。


 一通り喜びを共有した後、俺はさっそく本題に切り出した。



『俺、このダンジョンを出ようと思う。

 それで良かったら、俺もヒナさんとしばらく行動したいんだけど、いいかな』



 ……結局、レベルアップはしても移動手段は手に入らなかった。いまだにヒナさんにおんぶにだっこで申し訳ない。

 けど、ヒナさんはまったく嫌な顔をせず、むしろ笑顔で「喜んで!」と言った。



「今、他の誰ともパーティー組んでないし!」



 それだよ。


『どうしてヒナさんは、一人でダンジョンに来たの?』


 俺がそう聞くと、ヒナさんはちょっと困ったような顔をした。


「……実はね、パーティーを追放されちゃって」

『え』


 それはアレですか。

『お前は無能だからパーティーから追放する』っていう、異世界モノあるあるのやつですか。

 もしかしてアレか? ヒナさんが強すぎて自分たちが強いと勘違いしたのか?


 どうせヒナさんを前線でガンガン戦わせて、自分たちはラクしてレベル上げたり報酬貰ったりしてたんじゃないの!?

 ――って、今自分にブーメランが来たわお前が言うなって話ですね



「ち、違うから! そういうのじゃないから!」



 ヒナさんは両手を振って、俺の想像を否定する。

 ……あれ、俺今、念話で話してたっけ?


「あのね、根は良い人なの!

 私が悪いの!!」


 あっかーん!!(二回目)

 

 さっきの疑問が一瞬で吹き飛んだ。

 そのセリフはあかんやつだよヒナさん! 加害者を庇うDV被害者のセリフだよ!


 いや、待て。落ち着け、俺。

 被害を受けている当人の言葉を真っ向から否定するのは、ヒナさんを傷つけるだけかもしれない。

 出会ってばかりだけど、ヒナさん、良い人だしな。人の事悪く言いそうにないって言うか。


 うーん、自由に喋れたら、その分言葉の選び方が難しい。

 悩んでいると、ヒナさんが「あのね」と呟いた。



「その人は、私をパーティーに誘ってくれた人なの」

『パーティーに?』



 俺がオウム返しで尋ねると、うん、とヒナさんは頷く。

 いい感じの岩に座って、ヒナさんは話し始めた。



「私、色々事情があって、祖国から逃げてきたんだ。右も左も分からない時に声を掛けてくれたのが、その人なの」



 色んな事情……。

 って、深く聞くのはよくないな。祖国から逃げてくるなんて、余程の事情だ。きっと話したくないことなんだろう。

 つまりそいつに対して、ヒナさんは恩があるから強く言えないってことか。それはちょっと言いづらいかも。


 喋れるようになったし、ヒナさんにはたくさんお世話にもなった。

 ここは一つ、そいつがどんなやつなのか確認して、場合によってはガツンと言ってやろう。



『わかった。こんな俺でよければ、これからもパーティーを組んで欲しい』



 俺がそう言うと、ヒナさんはぱあ、と笑顔を見せた。

 うんうん。やっぱり、ヒナさんは笑顔がいいな。


 そんなヒナさんの笑顔を曇らせるやつ、絶許。

 そいつにガツンと言わせるためにも、強くなろ。

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