第4話 主人公

 ナディア・フォン・レディウム——通称『お嬢様』


 エーデを代表する攻略キャラの一人であり、一部のコアなファンを有する人気キャラだ


 性格は、計算高いサディスト

 自分が『欲しい』と思った人間はどんな手段を使ってでも獲得する執念深さも持ったお嬢様だ


「レオン様、私は貴方が欲しいのです、齢10にしてレベル3となり、次期剣聖と呼ばれる貴方が、欲しいのです!」


 ナディアは念を押すように二回言うと、首輪をこちら側に置いてきた


「もちろん無理強いはしません、嫌なら普通の婚約者として過ごしましょう」


「え、え、まずその首輪はどういう事なんですか?」


 いきなりの要求に絶句している俺の代わりに、リリーが聞きたかったことを聞いてくれる


「これは私の物になったという証です」


 ナディアが身を乗り出し、俺の手を握る


「これをつけてくださいレオン様、そうすれば私達は繋がれます」


 前世と今世を合わせて32年、女性にここまで迫られた事がなかった俺は危うく首輪に手が伸びそうになったがギリ踏みとどまれた


 必死に首を横に振る


 リリーが安堵の表情を浮かべている


「そうですよね、、、すいません調子に乗りすぎていました」


「誰にでも失敗ぐらいあるよ」


 ナディアの行動が予想の斜め上を行きすぎて、当たり障りがない言葉しか言えない


「その懐の広さ、恐れ入ります」


 ナディアが申し訳なさそうな顔をしている


 その後の会話は少なかったが一応何とか面会を予定通り終わらせることができた


「またお会いできることを楽しみにしています」


 ナディアが馬車に乗り去っていく


「レオン、どうでした?貴方の婚約者は」


「個性的な人でした」


 本当に個性的だった、多分リリーの次ぐらいに個性的だ


「そうですね、本当に個性的な子でした」


 リリーも同意している


「そう?私は普通のいい子に思えたんだけど」


 それは母様が首輪を見ていないからですよ


「まぁいいわ、次の面会は貴方が学園に入学してからだからナディアちゃんのこと忘れないでね」


(2年後か、別に頻繁に会う訳では無いのか)



 政略結婚だし頻繁に会う必要もないか


 ———ナディア・フォン・レディウム視点—


 ナディアは後悔していた


(どうしよう、嫌われちゃったかな)


 以前から『欲しい』と思っていたレオンに会えた喜びのあまり暴走してしまったナディアはそれは酷く後悔していた


(どう謝ろう、手紙?直接会って?いやそもそも謝ってどうにかなるのか?、、なんであんな事したんだろ)


 ナディアは後悔のあまり過去の自分を殴りたくなっていた


 そんな彼女に声をかけるのは赤髪ショートのメイド—ヘロンだ


「お嬢様、謝るなら手紙がよろしいかと」


 主人が口に出さずとも何を悩んでいるのか分かる優秀なメイドだ


「なんでよ」


「次の面会は二年後の予定だからです」


「早める事は出来ないの?」


 ナディアはできれば沢山レオンに会いたかった


「レオン様のご両親の意向ですので不可能かと」


(二年後って学園に入学する頃じゃない、待ちきれないわ)


「ヘロン、一芝居打つわよ」


「お辞めになった方がいいかと」


「バレないわよ」


「いえ、お嬢様の身が危ないです」


 ナディアは自分を盗賊に襲わせ、リューベック家に助けてもらうことでレオンに会おうとしていた


「なんで言ってもいないのに、私のやりたい事が分かるのよ」


「お嬢様のメイドだからです」


「メイドって言っても、雇われたの最近じゃない」


「時間は関係ありません!私は心からナディア様を慕っています!」


「そ、そう」


 ヘロンの気迫に押し切られるナディアであった


 ———主人公視点——


「レオン坊ちゃま、11歳の誕生日おめでとうございます!」


 朝、部屋の中で本を読んでいるとリリーが慌ただしく入ってくる


(そういえば今日レオンの誕生日だったな)


「ありがとう、リリー」


「はい!これメイド皆からのお祝いです」


 リリーが俺にプレゼントを手渡してくる


「なに?これ」


 プレゼントはラッピングされており外からは何かわからなかった


「ふふ、開けてからのお楽しみですよ!」


 包装を丁寧に剥がし、中を見ると本があった


 本の題名は『アストレアの歴史』だ


「!!ありがとう!リリー!」


「私だけじゃなくて皆に感謝してくださいね!」


 本は好きだ

 この世界の数少ない娯楽の一つだし、前世でも本は好きだった


 本をプレゼントするって言うのはヘレの提案かな

 ヘレ、俺が本好きなの知ってるし


「じゃあ、鍛錬しましょうね」


「あっはい」


 たとえ誕生日でも鍛錬は欠かさずにやるんですね


「あっ、今日の夜パーティーをやるそうですよ」


「そうなのか、、、いろんな人を招くの?」


 ナディアが来るかどうかが重要な問題だ


 来るなら俺は自分の身の危険を感じる羽目になる


「いえ、私達だけでのパーティーですよ」


「そうか」


「レオン坊っちゃまは人が多い方がいいですか?」


「いや?たまには少人数のパーティーもいいよね」


 少人数と言っても、この家は召使いだけでも20人を超える


「そうですね、たまにはそんな日があってもいいですよね」


 そんなこんなに話してる家に、俺たちは訓練所に着いた


「今日も一日頑張りましょう!」


「あぁ」


 その後はいつも通りの鍛錬を三時までした


 ———


「レオン、誕生日おめでとう!」


「ありがとうございます母様、みんな」


 母様からプレゼントを受け取る


 母様から貰ったのはまた本だった


 題名は『少女マリカの冒険譚』


 娯楽小説のようだ


(娯楽小説なんて少ないはずなのに)


「ありがとうございます!母様!」


 この世界の本は高価なのに、今日だけで二冊貰ってしまった


「いいのよ、貴方の為だもの」


「それよりも」と母様は続けた


「今日は貴方の為のパーティーよ、存分に楽しんでね」


「はい!」


 ———


 11歳の誕生日から学園入学までは4ヶ月の時間があった


 その間俺は強くなるためリューベック家が持つ私兵と模擬戦をしたり、リリーと稽古をしたりした、レベル4にはまだなっていない


 そして時間はあっという間に過ぎ


 明日、俺は学園に入学する


「レオン!」


 首都ベルンにある学園へと向かう馬車に乗り込むと、屋敷にいる皆がお別れを言いに来る


「レオン様、学園でも勉学は疎かにしてはいけませんよ」


「わかってるよ、ヘレ」


「あとリリーもレオン様の護衛を疎かにしないでください」


「はーい」


 リリーは俺の護衛として学園について来る


「レオン、あっちでは寮生活だからね、気をつけて」


「母様もう三回目ですよ、それ言うの」


 他にも「友達を沢山作るのよ」とか「授業をサボってはいけませんよ」とかを合計で10回は言ってる


「学園だからと遊びに現を抜かすなよ」


「分かりました父様」


 馬車が発進すると母様達が手を振る


 俺も振り返す、リリーも隣で手を振っている


 皆の姿が見えなくなり、手を振るのをやめる


「学園楽しみですね、レオン坊っちゃま」


「あぁそうだな」


 こいつ、もしかして学園でも坊っちゃま呼びするつもりか?


「リリー、一応言うんだけど、学園では坊っちゃま呼びしないでね」


「わかりました!」


「そうだよね、リリーは変えn、、え?」


「?」


 今リリーが坊っちゃま呼び辞めるとか言わなかった?幻聴?


「リリー今なんて?」


「わかりましたって言いました」


「それは俺の発言に対して?」


「はい!」


「つまり、坊っちゃま呼びを辞めるってこと?」


「はい!」


 リリーが坊っちゃま呼びを辞めるなんて、、明日は空から槍が降るのかもしれない


「リリー、病気があるなら言ってね、リューベック家の医者を使わせてあげるから」


「?はい!」


 ———


 白と金色を基調としたゴシック調の城—王立学園は、王国内の全貴族が通うだけあって物凄いスケールを誇っていた


 首都ベルンの二割を有する学園の敷地はもはや独立した都市の様であった


「ここに明日から通うのか、立派な所だな」


 画面越しには何度も見た事があるが、やはり実際に見るのは違うな


「あんまりいい所じゃないですよ、ここは」


 王立学園を卒業したリリーに言わせて見ればここは「人間の醜い所を詰め合わせた場所」らしい


 ゲームでは派閥争いとかドロドロした恋愛事情はあまり出なかったから、俺の学園に対するイメージはリリーの物とは違うらしい


「レオン様は派閥を作る側の人ですから、気をつけてくださいね」


「そっか、そうだよね」


 よくよく考えてみたら、俺は侯爵だ


 侯爵はどちらかと言うと派閥に入るというより、派閥を作って好き勝手する側のイメージがある


「俺も派閥争いをしなきゃいけないのか」


「はい、レオン様にはリューベック家の次期当主に相応しい地位にいてもらわなきゃいけません」


 派閥争いとか考えただけで胃が痛いのに、、


「あ、レオン様着きましたよ」


 リリーに案内されて着いた寮は、貴族用のだだっ広い寮だった


「リューベック家の屋敷より小さいな」


「当然かと」


 リューベック家の屋敷はかなり力を入れて作ったと聞く

 それがただの学生寮に負けたら笑い物だ


「私はそろそろ失礼します」


「あぁ」


 リリーが近くに用意されている侍女用の寮に向かう


(リリーが真面目に仕事してるし、俺もきちんとしないとな)


 身嗜みを整え、自分の部屋へ向かう


 部屋には先客がいた


「こ、こんにちは」


 先客は礼儀正しく、貴族流の挨拶で俺を出迎えた


「ぼ、僕はレロック子爵家のレリックと言います、三年間よろしくお願いしますレオン様」


 どうやら俺の事を知っているらしい


「あぁ、こちらこそよろしくな」


 自己紹介は、、、、しなくていいか



「気になったんだけど、なんで俺の事知ってるんだ?」


「レオン様は、次期剣聖としてとても有名です」


 どうやら、レベル3になったことで俺の勇名な広がっているようだ


「寮の皆がレオン様の事を噂していました」


「そっか、」


(俺も有名になったもんだなぁ)


 その後も俺はレリックと色々話をした

 最初は言葉数が少なかったレリックとも打ち解け、いろんな事を話していくれた


 ———

 次の日、俺は入学式に参加していた


(今日は重要な日だぞ)


 なんたって、エーデの主人公が今日誰と出会うかでルートが決まるんだからな


 できれば、俺以外の誰かと出会って欲しいのだが


 いや、まず主人公は女なのか?


 エーデの主人公は性別を選べたはずだ


 主人公の性別によって攻略するキャラは変わってくる(百合とかBLはない)


 できれば女がいい、女主人公は可愛いんだ

 お淑やかって感じの美少女だ


「在校生代表、シュミール・フォン・アレキア」


 紫色の長い髪を後ろで結んだイケメンが登壇する


 出たな色欲魔


 シュミール・フォン・アレキア——攻略対象キャラにしてエーデ屈指の色欲魔


 色欲魔の癖に、女性に対してめっちゃ紳士だから憎めないんだよな


 シュミール以外にも攻略キャラがいないか探してみるか


(あっ、ミユちゃん達いる)


 短いブロンドの髪を後ろでサイドテールにした低身長の双子——ミユ・フォン・エステリアとミエ・フォン・エステリアは双子の攻略キャラでミユが姉だ


(可愛い!)


 ゲームで攻略している時は可愛い双子の妹が出来たみたいな感じがして癒しだったんだよなぁ

 二人とも小さくて、チョコが好きな所も可愛いし、常に一緒に居なきゃ自殺するようなシスコンな所も可愛い!


 他にも攻略キャラいるかな?


 他の攻略キャラを探している途中でナディアと目が合う


 ナディアに小さく手を振ると、恥ずかしそうに振り返してくれる


 ナディアは押しに弱い所が可愛いんだよなぁ

 ドが付くほどのサディストなのに


「続きまして、新入生貴族代表挨拶カール・フォン・アストレア」


 カール・フォン・アストレア—攻略キャラの一人


 正直言ってあまり印象がない、「強欲な王子様だったなぁ」程度である


 攻略も簡単、戦争パートも比較的簡単なキャラだった気がする


 金色の髪を靡かせ、よく聞く新入生代表の言葉読み上げるカールは絵になっていた


 次は主人公が新入生平民代表として登壇する予定だったけな


(女かな?男かな?)


 カールが読み上げ終わり、拍手が起こる


「新入生平民代表挨拶、ルクター」


 黒髪、お河童の少年が登壇する


 、、、、誰だ?


 おかしい、主人公は金髪のはずだ、それに俺の知ってる男性主人公じゃない


 どういうことだ、主人公が居ないなんておかしい


(主人公は首席で平民学校を卒業するはずだ)


 平民が座る座席の方を見る


(違う、違う)


 主人公がいない、まずそもそも金髪の平民がいない


 そんなハズない、だっておかしいじゃないか、ここはエーデの世界だぞ、それなのに


 主人公がいないなんて

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恋愛ゲームの世界に転生した俺は、原作知識で全員を救います @amaa

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