第3話 二人を繋ぐ物

「さすがレオン坊っちゃまです!もう私と互角に戦えるなんて!」


「もう10歳なんだから坊っちゃま呼びはやめてくれ」


 レベル2になってから3年がたった


 10歳になった俺の体は成長しリリーと互角に戦えるようになった


「嫌です!坊っちゃまはいつまでも私の坊っちゃまです!」


 意味不明な事を言っているリリーだが実はこの世界で強者の部類に入る事がヘレの教育によりわかった


 22歳にしてレベル3(普通レベル3になるのは25を超えてから)、王立学園を首席で卒業した事からその凄さが分かる


 リリーが俺の連撃を華麗に受け流し、懐に入ってくる


(まずい!)


 まずいと思ったのも束の間剣が俺の喉元に触れる


「さっきの、身のこなしは、、良かったですけど、攻めはまだまだ、ですね」


 リリーがちょっと息切れしている、3年前とは違う

 ここ3年の俺の努力の結果だろう


 一呼吸置いてリリーが話し出す


「まだやりますか?それとも休憩します?」


「もう一回頼む」


「わかりました!」


 リリーが俺と距離を取り、構える


 そして俺が構え取ると試合開始だ


 リリーが開始早々俺に袈裟斬りを食らわせてくる


 袈裟斬りを受け流されたら、刺突を食らわせてくる

 刺突を防げば、今度は返し刀で斬撃を食らわせてくる


 様々なバリエーションの攻撃を繰り出してくる


 リリーの連撃を受け流し、攻勢に出ようと思った

 その瞬間全能感が湧いた

 力が上がり、足が軽くなり視界は開いた


 レベルアップしたのだ


 俺の横一文字斬りに、完璧にガードを合わせていたリリーが剣と一緒に吹き飛ぶ


「!?」


 吹き飛ばされたリリーがすぐに体勢を立て直す


「あ、すまん!リリー大丈夫だったか?」


「えぇ大丈夫ですレオン坊っちゃま、それより今のはまさか、、、」


「そう」


 リリーの驚いた表情が喜びに変わる


「きゃー!!さすがレオン坊っちゃまです!その年でレベル3だなんて!はっ!レディア様に報告しなくては!」



 そう言うとリリーは屋敷の方に走り出した


 俺に吹き飛ばされたことによる怪我はないみたいだ


(よかった)


 リリーと入れ替わるようにして屋敷の中から ヘレが出てくる


「レオン様!レベル3になったのは本当ですか?」


「本当だよ」


 ヘレが自分のことかのように喜んでる


「素晴らしいです!その歳でレベル3だなんて見た事も聞いた事もありません!」


(はしゃいでるなぁ〜)


 凄いことなのだろうが俺にはいささか凄さがわからなかった


 もちろん嬉しいがこうも喜ぶレベルなのか?


「そんなに凄いの?」


「えぇ、もちろんですわ」


 屋敷から出てきた母様が代わりに答える


「10歳でレベル3だなんて、歴史的に見ても貴方以外いませんもの」


 母様はもっと喜ぶかと思ったのに案外落ち着いている、むしろ何かを憂いている様な顔だ


「母様は嬉しくないのですか?」


「!?いえ、もちろん嬉しいですわよ、自分の息子のレベルが上がって嬉しくない者などおりません」


「じゃあお母様は何を憂いているのですか?」


 今度はヘレが代わりに答える


「奥様はレオン様にこれからくる縁談にどう対処すべきか考えているのです」


 縁談、、、そういえば俺はお母様の意向で10歳になるまで婚約はしない事になっていた


「あぁ、そういう事ですか」


 つまりレベル3の天才児に山程来るであろう縁談にどうやって対処するべきか悩んでるわけだ


「はい、もう既に沢山の縁談がきています

 それなのにレベル3になったという情報が加わればどうなる事やら、、」


 お母様とヘレの苦労がわかる


「レベル3になったという事実は変わらないのですからグダグダ悩んでも変わりません、ここはもうパーティーで盛大に発表してしまいしよう」


「わーい」


 ———


 ということでパーティーです

 主役は俺


(帰りてぇ)


 遠くの方で、テーブルの上に置いてある豪華な食事をリリーが美味しそうに食べている


 それに比べて俺のやってる事と言えば

 貴族のおっさん共の娘と踊るだけっていうね


 なんでパーティなんてやってるんだ?


「こんばんは、レディア様とレオン様」


 また一人貴族が挨拶に来る、赤色の髪を腰の辺りまで延ばした美しい少女を連れている


 挨拶が軽い、どうやら今回の貴族は俺の家と親しいみたいだ


「こんばんは、レディウム伯とナディア嬢」


 ナディア!?

 それにレディウムって


 ナディア・フォン・レディウム——エーデの攻略キャラの一人でドがつく程のサディストだ


 ナディアが両手でスカートの裾を軽く持ち上げてカーテシーをする


「こんにちは、レディア様とレオン様、お目にかかれて光栄です」



「こ、こんにちは」


 ナディアが笑顔を作る、その笑顔は薔薇の様に美しかった


(美しい)


 は!待て、騙されるな俺!

 こいつはドS女だぞ!

 何度選択をミスって殺されたか忘れたのか!


 ゲームでも最初は可愛いのだ

 主人公を慕ってくれる可愛いキャラとして登場する

 だがその皮に騙されて付き合って見れば、行為を誘われ殺される、しかも拷問の末に苦痛の中で死ぬのだ


「今回は顔見せということで伺いました、どうですか?ナディアは」


「とてもしっかりしたいい子ね!こんな子が家に来てくれると将来安心出来るわ」


 俺は絶対来て欲しくないけどね

 こんなサディストがお嫁なんて命が何個あっても足りないよ


 レディウム伯が離れる


 お母様が耳打ちしてくる


「レオン、あの子が貴方の将来のお嫁さんよ」


 何を言っているんだ母様は?

 あのナディアの夫なんて生粋のドMにしか務まらない、いやドMでも務まるか分からないレベルだぞ


「冗談ですよね、お母様?」


「こんな冗談言うわけないじゃない、貴方の婚約者はナディアちゃんよ」


 足から力が抜け、膝から崩れ落ちる


「!?どうしたのリオン!」


「母様、、、どうやら俺、会場の雰囲気に酔ったみたいです」


「そうなの?それじゃ惜しいけどパーティを終わらせましょうか」


 お母様が、近くに来ていたリリーを呼ぶ


「悪いけど、レオンを部屋に運んでくれないかしら」


「はい!」


 リリーが肉を頬張りながら返事する


 ———


 俺の行動は速かった


 部屋に着いてから、すぐにリリーを退出させ


「家出」の準備を始めた


(俺は!死にたくない!)


 作戦名「家出」は俺が前世の記憶を思い出した時から練っていた作戦だ


作戦内容は簡単だ、家出をして、その後は放浪の旅を始める!


「レオン坊っちゃま、何をしているんですか?」


 リリーが剣を持ってドアに寄りかかっている


「いつからそこに!?」


「レオン様が何かの準備を始めた時からです」


 最初からじゃないか


「それで何をしているんですか?夜逃げみたいにコソコソして」


 リリーが疑いの目で俺を見る


 俺が夜逃げしようとしていることが、バレてるだと!?


「その通りだよリリー、俺は夜逃げしようとしたのさ、でもこれは仕方のないことなんだ!」


 リリーの目つきが鋭くなり、槍を構える


「逃がしません」


「待ってくれリリー話を聞いてくれ!」


 鋭い目つきはそのままに、リリーが槍を下げる


「俺はリリーが好きなんだ!」


 リリーが明らかに動揺している


「婚約を強要するこんな家から一緒に逃げ出そう!二人で駆け落ちをしようリリー!」


「え、あ、え」


 リリーが動揺しすぎて槍を落としてしまう


(今だ!)


 俺は素早くリリーの後ろを取ると、ドアから逃げ出す


「HAHAHAHAHA かかったなリリー!俺のタイプはもっとお淑やか系だ!」


 廊下を駆ける


「」


 リリーが無言で後を追ってくる

 完全に怒っている時の顔だ


「!?」


 前方に月光に照らされたヘレの姿が見える


「レオン様逃がしませんよ」


 前門にヘレ、後門にリリー


 俺の旅はここまで、、、、か、、


 ———

 捕まりました


 敗因は大声で駆け落ちとか話していたことです


 それでヘレが俺の家出に気づいたみたいです


「ヘレもっとレオン坊っちゃまに罰を与えるべきです、私を弄んだのですよ!」


 人聞きが悪い、騙しただけだ


「罰を決めたのは奥様です、私達で変えることはできません」


 リリーが、頬を膨らませて抗議している


「リリー、俺水バケツ持って三時間立ってるんだよ?これ以上は死んじゃうよ?」


 三時間立ってたせいで時計は9時を回ってる


「まだ足りません!せめて六時間は立ってないと!」


 俺を殺す気か?


「いけません、明日レオン様には面会の約束があります、速く寝ていただかないといけません」


「面会?」


「はい、ナディア・フォン・レディウムとの面会です」


「それ、先延ばしにすることはできる?」


 先延ばしにして、有耶無耶にするのだ


「できません」


「嫌だぁあああ」


「レオン坊っちゃま!お静かに!」


「そうです、もう夜も遅いです、お静かに」


 俺の味方はいないのか


「こうなったらもう覚悟を決めるしかないのか」


 ———

 パーティの翌日、俺はナディアと面会するため庭にいた


(これからナディアに会うのか、、緊張するな)


 あの後一晩中考えたのだが、もしかしたら俺はナディアと婚約してもいいのかもしれない


 昨日思い出したがゲームでナディアは平民や準貴族しか狙っていなかった、理由は貴族を狙うと問題になるから


 つまり侯爵の俺は、ナディアに拷問されないのでは?


「レオン坊っちゃま、ナディア様が到着しました」


「わかった」


 花が植えてある庭を、ナディアが進んでいるのが見える


 ナディアが両手でスカートの裾を軽く持ち上げてカーテシーをする


 俺も貴族流の挨拶をする


 こういうことはヘレに教わっている


「昨日ぶりですかね、レオン様」


「あぁ、昨日ぶりだな、ナディア嬢」



 とりあえずナディアを座らせる


「その、、早速で悪いのですがひとつお願いがありまして」


 ナディアからのお願いとか悪い予感しかしないけど、きっとそういう系ではないのだろう


「」


 ナディアが自分のメイドに手招きし、メイドが持っていた物を机の上に置く


 置かれた「物」には布が被せてあり、何かはわからなかった


(いや、めっちゃ首輪なんですけど!?)


 それは鎖が付いた円状の何かだった


(いや待て、落ち着け俺)


 もしかしたらコレは、首輪に似た何かなのかもしれない

 普通に考えてほぼ初対面の婚約者に首輪を差し出す奴がいるか?

 いやいない、そうつまりこれは首輪に似た何かだ、きっとそうだ


「これは?」


 ナディアがニコッと笑い、布を取る

 布の下から出てきたのは首輪だった


 リリーが絶句している


(首輪じゃねぇか!)


「これをレオン様につけて欲しいのです」

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