第2話 レベルアップ

 強者のペンダントを回収した翌日、俺を訓練場でリリーに稽古をつけて貰っていた


「レオン坊っちゃま、本当にいいのですか?

 怪我しちゃうかもしれないですよ?」


「問題ない、今日の俺は昨日までの俺と違う!」


「そうなんですか?そこまで言うなら行きますよ?」


「来い!」


 リリーとの打ち合い稽古は今回が初めてだ


 強者のペンダントを手に入れたから早速実践してみようってわけだ


「構えが甘いです!」


 リリーが俺に対し木剣を打ち込みながら問題点を上げていく


「もっと私の剣を見てください!」


 リリーの剣を振る速度がどんどん速くなる

 それに比例してリリーの一撃一撃が重くなる


(やばッ)


 リリーの剣を受け流すのが厳しくなり、手首にリリーの木剣があたる


「終わりですね」


「ハァ、ハァ」


「さすがはレオン坊っちゃまです!その年で私の剣をあんなに受け流すだなんて!」


 リリーの剣を受け流せたことには自分でも驚いている


 強者のペンダントに能力上昇系の効果はない

つまり、リリーの剣を受け流したのは俺の実力だ


(きっとレオンの才能のおかげだろうな)


 ゲーム内でレオンは一二を争うレベルで剣のスキルレベルアップが簡単なキャラだった、その影響だろう


「これからは私との打ち合いを鍛錬内容に追加しましょう!」


「あぁ、わかった」


 レベルアップに繋がるからこっちとしても万々歳だ


「よし、もう一回やるぞリリー!」


「はい!」


 ———リリー視点——


 レオン坊っちゃまが、いきなり打ち合い稽古がしたいと言ってきた


 最初はどう断ろうかと思っていたが、熱心な眼差しで訴えてくるのでつい了承してしまった


 どうせすぐ終わるだろうと思っていたが結果は、予想以上だった


 手加減していたとは言え私と攻防(?)を20秒も続けたのだ!


 前々から才能があるのではと思っていたが、今回確信に変わった!


 レオン坊っちゃまは必ず大成する!


 学園で天才と呼ばれて首席卒業した私が言うのだ、大成しなければそれは世界がおかしい!


「レオン坊っちゃま!そんな遠くに踏み込んでは力が入らないでしょう!もっと近く!膝の真下を踏んでください!」


 今も私の言葉を聞き、すぐにやり方を直した


「こうか!」


「そうです、素晴らしい!」


 前々からやっていた基礎訓練のおかげでレオン様は十分に基礎がある

 レオン様は自分でそれがわかって打ち合い稽古がしたいと言ってきたのだろうか?

そうなのだとしたら、とてもすごいことだ


 レオン坊っちゃまがもう一回剣を打ち込んでくる


「!?」


 さっきと比べて何倍も重い一撃だ


 どういうことだ

 この一瞬の間で一撃の重みがこんなに違う事なんてありえない


 さっきは手を抜いていた?


 いや違うさっきのあれは明らかに本気だった、踏み込みも何もかもが本気だった

 本気で打ち込むという思いを感じた


 なのに何故?


 もしかして—


 ———主人公視点——


 レベルアップした、それを本能で感じた


 さっきまで重かった剣が軽く感じる、足取りが軽やかになる

 明らかにさっきまでと違う動きでリリーも動揺しているみたいだ


「レオン坊っちゃま、何か体が変だなとは思いませんか?」


「ちょっと」


 どうしてそんなことを聞くのだろう?


「!?重かった剣が軽く感じますか?体が軽くて、頭が冴えた感じがしますか?さっきまで見えなかった物が見えたりしますか?」


「う、うん、何かが見えるようにはなってないけどそれ以外は感じる、なんか全能感?があるよ」


「!?ヘレー!レディア様!大変です!坊っちゃまが、坊っちゃまがー」


 ヘレとはうちのメイド長で、レディアのレオンの母だ


 リリーは急に叫び出してどうしたのだろうか?

 ただ単にレベルアップしただけでは無いのか?


 屋敷から、短い黒髪を後ろで丸めた髪型をしたメガネの女性が出てくる—ヘレだ


「どうしたの?リリー急に叫んで?」


「レオン坊っちゃまが、レオン坊っちゃまがレベルアップしたんです!」


 それぐらいみんなするだろ、何をそんなに騒いでるんだ?


「!?」


 ヘレが目を見開いて驚いている


「リリー、貴方は速く奥様の所へ報告に行きなさい」


 リリーが屋敷の方へ走り出す


 ヘレがキョトンとしている俺に近ずいてくる


「そういえば、レオン様はレベルについてご存知なかったですよね?」


 それからリリーが帰ってくるまでの間ヘレは俺にレベルとはなにかを教えてくれた


 結論から言うと、この世界のレベルと俺の知っている恋愛ゲームのレベルは似ているようで違っていた


 恋愛ゲームのレベルは普通のゲームと一緒でことある事に上がっていたのに対し、


 この世界のレベルはそんな滅多には上がらず、上がるのは十数年に一回レベルのものらしい

どちらかと言えばレベルではなくランクに近い


 普通俺の歳ではみんなレベル1でレベル2に上がるのは十歳ぐらいらしい


(だからリリーはあんなに騒いでいたのか)


「分かりましたか?レオン様は偉業を成し遂げたのです」


「偉業?そんなにすごいのか?」


「はい!七歳でレベル2に上がるなんて文献でしか見た事がありません!」



 そんなことを話している内にリリーが戻ってきた母様と一緒に


「レオン、レベルアップしたというのは本当なのですか?」


母様が真剣な顔で聞いてくる、ブロンドの髪に長身で凛とした目つきは鷹のようだ


「は、はい母様」


「さ、、、」


「さ?」


「さすが私のレオン!!私は前々から貴方は大成すると思っていたのよ!やはり私の子は天才だったわ!ね! ヘレ!」


「そうですね奥様」


 親バカのお母様が浮かれるのはわかっていたがこんなに喜ぶとは思っていなかった


 ヘレもちょっと浮かれているようだ


「明日はパーティーよ!!」


「わーい!」


 ———


 レベルアップから三日後、俺は訓練所にいた


「昨日のパーティーは最高でしたねレオン坊っちゃま!」


 俺は他の貴族達と会話しなくちゃいけないせいで、全く料理が食べられなかったが?


「リリーが楽しんでくれて良かったよ、リリーが望むなら俺から頼んでもう一回開いてもらおうか?」


 リリーはパーティーを楽しんでいたみたいだけど、俺はこの数日レベルアップ関連で全く楽しめなかった、リリーの為とかではなく普通にもう一回開いて俺も楽しみたい


「そんな甘い言葉をかけても、打ち合い稽古で手を抜きませんよ!」


「わかってるよ!」


 リリーとの打ち合い稽古が始まる


 やはり前回やった時とは違う


 前回やった時は剣が重かったり、体が思う様に動かなかったけど、

 今回は違う、剣は軽いし、体はスムーズに動く


「レオン坊っちゃまいい感じですよ!前回やった時とは動きが段違いにいいです!」


「レベルアップしたからね、これくらいできないと」


 ここ数日レベルアップ関連であまり体を動かせなかったけど、訛っていないみたいでよかった


 リリーの連撃を捌くことで精一杯なのは、前回と変わらないが、明らかに捌けている時間が伸びてる


「ずごいですよレオン坊っちゃま!前回の倍の時間私の攻撃を捌けています!」


 リリーはまだ余裕がある様で、俺に話しかけながら連撃を繰り出してくる

 俺はもうそろ限界なのだが


「あっ」


 リリーの刺突に対応出来ず、そのまま食らってしまう


「レオン坊っちゃま、剣は斬るだけでなく突もあるので気をつけてください」


「わ、わかった」


 リリーが懐中時計を見て言う


「そろそろ6時ですね」


 六時は家族みんなで夕食を食べる時間だ


 言われてみれば、辺りが暗い


「一回シャワーを浴びる、汗臭くてはいけない」


「分かりました、用意させます」


 ———


 シャワーを浴び終わり、食卓に着く

 両親は俺を待ってくれていた


「レオン、最近の鍛錬はどうだ?」


 席に着いて早々、父様に話を振られる


「順調です、最近はリリーとの打ち合い稽古を始めました」


「そうか、それはよいな精進せよ」


 父様は話を続ける


「お前には期待している、七歳にしてレベル二となり、家臣からも親しまれている、このまま進めばお前は将来必ず立派な領主になれるだろう」


「ありがとうございます」


 父様は優しい笑顔を浮かべる


「そんなに畏まるな、お前は私の息子だ」


 お母様が「あっ」と声を上げる


「そうだ、アレク!レベル二になった記念になにかプレゼントをあげようと思ったのだけど、何か欲しい物はある?」


「欲しい物ですか?」


「えぇなんでもいいわよ!」


 欲しい物か、大体の物は今貰っているお小遣いで買えるからな、 今買えないもので欲しい物は、、、、、


「家庭教師をつけて頂きたいです」


 家庭教師、レベルアップの一件で自分の認識とこの世界に若干の齟齬が生じていることがわかったので、改めて確認したいのだ


「いいわよ!」


「家庭教師か、少々早いがつけてもいい頃だろう」


 父様が近くにいたヘレを見る


「かしこまりました」


 ———

 そういう感じでヘレが家庭教師になった翌日、俺の部屋にヘレがきていた


空いてる部屋がなかったので、教室が俺の部屋になったのだ


「学園は首席で卒業しましたので知識には自信があります、ご安心ください」


 椅子に座りながら答える


「わかった、これからよろしくね」


「はい、では早速ですが授業をしていきたいと思います」


 ヘレが本を一冊出す、

 本には「教養としての歴史」と書かれてある


「最初の授業としてまず、レオン様には常識を知ってもらいます」


「常識?」


「‎この国の歴史や、王家、神聖魔法、その他もろもろについてです」


 この国—アストレアの歴史はゲームであんまり言及されてないから、よく知らないんだよな


「レベルは先日、私が教えたので省きます」


 ヘレが本を手渡してくる


「一ページを開いてください」


 言われた通り、一ページを開く


「これは?」


「この国の建国神話です」


 一ページ目に書かれている事をヘレが朗読してくれる

『聖アクロディア暦1年、世界は混沌としていた、天は歪み、大地は裂け、大地の裂け目すなわち深淵より這い出た魔物が跋扈し、天へと連なる塔は朽ち果てていた、人々は思った神は我らを見捨てたのではないかと、

 そんな時聖アクロディアは誕生した、

 彼は天の歪みを正し、大地を結んだ、

 彼は言った「過去をすてよ、今を生きよ、さすれば天は微笑むだろう」

そして新時代の象徴としてアルカディアを建国した』


 聖アクロディア、確かゲームでも出てきた名前だ

 主人公の祖先とか言われてたな


「そして、この建国した国が分裂してできたのが、アストレアです」


「凄いですね!」


「えぇ、聖アクロディア様は今でも多く信奉されているお方ですからね」


「でもなんで、聖アクロディア様が建国したのに、今この国を統治しているのは王家の人なんですか?聖アクロディア様の子孫なんですか?」


「いえ、今の王家は聖アクロディア様の子孫ではありません」


「では、何故統治しているのですか?」


「それにはアルカディアが分裂した理由が関係しているのですが、、そうですね簡単に言えば統治を聖アクロディア様の子孫から任されたのです」


「そうなんですね!」


 こういうゲームの裏設定とかが好きなタイプだったから、エーデの裏設定が聞けて案外楽しい


ヘレがバッグからもう一冊本を取り出す

題名は「魔術基礎」だ


「では、建国神話も終わりましたし次は神聖魔法について教えますね」


 神聖魔法、ゲームの中じゃ主人公以外が使えなかった魔法だ


「はい!」


「神聖魔法は、聖アクロディア様が世界の混沌を鎮める時に使った魔法だと言われています、適合者以外は使えず使える者はアクロディア様の子孫だと言います」


 ゲームでも確か、主人公が神聖魔法を使えるからって理由でアクロディアの子孫だって言われてたな



 その後もヘレによる授業は続いた

 その多くがゲームでは言及されていない内容だったが、ゲームで言及されている内容も少なからずあった


「今日はここまでとしましょう」


「はい!」


 ヘレの授業は聞いていて楽しかったから出来ればもっと聞いていたかった


「本はレオン様に差し上げますのでご自由にお使いください」


「ありがとうございます!」


 ヘレが部屋から出て行くのを確認し、ベッドに飛び込む


 今日は色んな事が知れて楽しかった、レベルは仕様が違ったがそれ以外の部分はゲームと同じだと言う事がわかったし、それに裏設定も聞けた


 ——

 戦争が始まるまであと11年


 学園入学まであと5年

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