第1話 エーデ

 エーデ、柊綾人が前世病院でやり込んだ恋愛シュミレーションゲームだ


 エーデは男女合わせて15人の多種多様な攻略キャラと他の恋愛ゲームには無い戦闘パートが特徴で、

あらすじとしては魔法と剣の世界で平民の主人公が貴族だらけの学園に入って、攻略キャラ達を攻略し後に起こる戦争で一緒に戦うって感じだ


 とまぁここだけ聞いたら楽しみそうなゲームではあるのだが、このゲームはいわゆるクソゲーだ


 多種多様な攻略キャラと言ったがそのほとんどが一癖も二癖もあるやべー奴ら、

戦闘パートに関してはクソ難易度の戦闘をこなさなければいけなく、その攻略難易度の高さと言ったらネットニュースになるレベルだ

そして俺、柊綾人はそんな鬼畜ゲーの攻略キャラに転生した訳だ


「最悪だあぁああああ」


「レオン坊っちゃま、うるさいです!」


 明るめの茶髪を後ろに束ねた長身の少女、

 メイドであり護衛のリリーが注意してくる


「坊っちゃま言うな!」


「私が鍛錬してあげてるのに、なんですかその態度は!しかも最悪だなんて!」


 なんか勘違いしてるがそっちじゃねぇ!

 、、、いや、鍛錬も嫌だけど!


「もう怒りました!今日の素振りは倍です!!」


「私は屋敷に戻ります!」とか言いながら、屋敷に帰っていくリリーを見ながら素振りをする


「あの野郎、絶対減給してやる」


 レオンと融合してから三日が経った、俺もこの世界に適応した


 レオンの記憶がそのまま残っているので、適応と言うよりいつも通り過ごしているだけなのだが


 屋敷にいるみんなの顔と名前が思い浮かぶし、親が誰かもわかる

 そして自分が誰なのかもわかる


 ちなみにあの日俺が鼻血出しながらぶっ倒れたのは、机に頭を勢いよくぶつけてしまったからという事になっている


「素振り400回って絶対七歳にやらせる事じゃねぇだろ」


 地球を生きた柊綾人の記憶からすれば、七歳に素振り400回を強制するのは虐待に入るレベルだ

レオンの記憶からすれば400回はちょっと多い程度だけど


 いや素振りは今どうでもいい、今問題なのはエーデの戦闘パートだ


 戦闘パートの舞台は俺が住んでいるこの国、アストレア王国と隣国アルカディア王国との間で起きる戦争


 この戦争には攻略キャラが全員参加し


 主人公に選ばれなかったキャラは死ぬ


 理由は様々だが主人公がハーレムルートを選ばない限り、一人以外全員死ぬ


 もちろん俺も攻略キャラの一人に転生してしまったため、この戦争に参加することになる


 俺は貴族だし

 貴族は戦争が起きた時参戦する義務があるってわけだ、ノブレス・オブリージュってやつだな


(問題はレオンが死ぬ理由が確か、、)


 侯爵である父が率いる軍について行き、そこで捕虜となり拷問を受けて死亡だったかな


 最悪だ

 拷問とか絶対にうけたくない


 だけどどうしようも無いのが現実だ、このままいけば俺は敵国の捕虜としてたっぷり情報を絞りとられた後殺される


(どうしようか、失踪するか?)


 いやもっと簡単な方法があるな


 俺が強くなればいいんだ

この世界は魔法と剣の世界だ、文字通りの一騎当千ができる世界


 恐らく一番簡単な方法ではないだろうだが、男に生まれたのだから一度は最強を目指して見たくなる物!


「リリー!」


 陰から俺が素振りしているのを見守っていたリリーが出てくる


「なんですか、レオン坊っちゃま?」


「俺は強くなるぞ!王国いや、世界一強くなってやる!」


 俺は最強になってやる!


「レオン坊っちゃま、、、、、、、流石です!その目標正しくリューベック家を継ぐに相応しいお方!」


「簡単じゃないことはわかってる!だが俺はリューベック家の次期当主として相応しい力を手に入れたいのだ!」


「さすがです!」


 リリーが俺の宣言に対して涙を流し喜んでいる


「では、坊っちゃままずは素振りの回数を800回に増やしランニングの距離も倍にしましょう!ついでに実戦稽古も導入しましょう相手は私です!それに最強を目指すなら魔法も勉強したいですよね!リューベック家は代々剣豪を排出していますが一代くらい魔法剣豪でも問題はないでしょう!剣も魔法も達人級なんてさすがレオン坊っちゃまです」


「やめます」


「え?」


「最強目指すの辞めます」


 鍛錬量倍にされるとか聞いてないし、魔法まで覚えさせようとしてたぞこいつ


「あと坊っちゃまって呼ぶのやめてください」


 ———

 リリーに最強を目指すと宣言した日の翌日、

 俺は邸宅の隣の森に居た


「やはりここだな」


 目の前には苔の生い茂った古い遺跡がある


「リリー中に入るよ」


「」


 最強を目指すのを辞めると言った時から拗ねて口を聞いてくれないリリーだが仕事はしっかりやってくれる


 実際に今も遺跡探索をしようとする俺の前に立って俺を守ってくれている


(俺の記憶じゃ確かここに魔物はでないはず)


 最強装備を回収するため、前世の記憶を頼りに森を探索していた


(リリーには辞めるって言ったけど、やっぱ強くなることは重要だからね)


 最強装備ー 強者のペンダントはエーデの戦闘パートがクソすぎて追加された救済処置的な装備だ

効果は、経験値拾得率の大幅upとレベルupに必要な経験値半減


 いわゆるぶっ壊れ装備だ、普通のゲームならまずナーフされる


 まぁエーデの戦闘パートはこいつがないとまず勝てないクソ仕様なんだけどな


遺跡の最奥にはあっさり着いた、あとは強者のペンダントを見つけるだけだ


「」


 リリーがこちらを見て何かを指差している


「おお!」


 赤く光る鉱石で彩られた銀色のペンダント—

 強者のペンダントだ


「でかしたぞリリー!やっぱりお前は最高の護衛だな!」


 リリーがない胸を張っている


(あともう少しで機嫌治るなこれ)


「帰りも任せたぞリリー!」


 リリーが俺の前に出る


「なんでこんなものがここにあるのかは聞きませんけど、ボーナスは貰いますよ」


 リリーが頼られて機嫌を治した!


「もちろんだよ」



 森の中は木々が生い茂っており、歩き難かった


 木の根に躓いたりする俺とは対照的にリリーは軽快と進んでいく


「リリーちょっと待ってくれ」


「レオン坊っちゃまは運動不足ですね」


 リリーが異常に山慣れしているだけだと思う

 あと坊っちゃま言うな


 そんなこと思っても、息切れしているので何も言えない


「よいしょ、レオン坊っちゃま来てください」


 リリーがしゃがんで背中をこちらに向けている


 リリーは俺を背負って行く気だ


「いい、リューベック家の者は他人に背負われるなどという恥は犯さない」


 俺の中のレオンの部分がそれを拒否した


「しゃがんでないで行くぞ」


「は、はい分かりました」


 そういえばレオンってこういう性格だったな


 ゲームでのレオンの性格は一言で表すなら傲慢だ、家柄に絶対の自信を持った誇り高いキャラだった


 人の忠告を聞かなかったり、平民を見下していたりと攻略が難しいキャラの1人だった


 傲慢で攻略するのが遅れるので鍛錬やらが間に合わず、戦闘パートでよく負けた

 女の子を中心に攻略していた俺でも記憶に残るレベルでの苦行だった


「ですが大丈夫なのですか?とても苦しそうですが」


「大丈夫だよ、このくらい」


 柊綾人の部分は拒否したことを後悔しているけどね、レオンの部分はむしろ燃えてるよ


 レオンはゲームでも憎めないキャラだった、

 実力と家柄で傲慢にはなっていたが、決して努力は欠かさなかったし、

 平民を見下していたが、

 誰よりもノブレス・オブリージュの精神を大事にしていた。


(もっと早く堕ちてくれたら、文句はないんだけどね)


 数十分後、俺たちは無事屋敷に着いた


(ペンダントの一つがレオンの屋敷の近くで良かったぁ〜)


「レオン坊っちゃま、床に座るのははしたないですよ」


「今は俺とお前しか居ないんだ、いいだろ」


「まぁいいかもですね」


「それにしても」とリリーは続ける


「レオン坊っちゃまは、最近変わりましたよねいきなり一人称が俺になったり、言動が大人っぽくなったり」


 いつも一緒にいるリリーには俺の変化がわかるようだ


「わかるか?」


「分かりますよ、そりゃ護衛なんですし」


「ふふ、実はなそっちの方が威厳が出ると思ったんだよ!」


 前世の記憶のことは黙っておこう、言っても信じてくれないだろうし、言ってリリーとの関係が崩れるのは嫌だ


「さすが!レオン坊っちゃま聡明ですね!」


 こいつ俺の事舐めてないか?


「まぁ、そういう事だから俺はこれから威厳のある当主を目指して精進するつもりだ!」


 立ち上がって言う


「向上心を欠かさないその姿勢!さすがレオン坊っちゃまです!」


 レオンがなぜ傲慢になったのかわかる気がする

 絶対にリリーのせいだ

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