第12話 検証
「おー! ヒュドラァ! 完全に俺等が知ってる蛇じゃん!」
「だぁな……でもゲームとはマップも違うんだよな。同じ世界ではない……と思うけど、似てる個所も多い。なぁんだろうな?」
「ねぇ言ってる場合!? これゆっくり話してる場合なのかな!? トトンもクウリも、落ち着きすぎじゃない!? イズも何か言ってよ!」
「クウリ、倒してしまっても良いか? スキルが試したい」
それぞれ言葉を紡いでみる訳だが、目の前にいるのはゲームに居たヒュドラと同じ個体。
デカい蛇であり、首が何本もある。
ヤマタノオロチかお前はと言いたくなるが、生憎と八本はない。
そんな奴の攻撃を、トトンがひたすら防御していた。
「トトン、どうだぁ? 圧されてる感じするかぁ?」
「うんにゃ、全然。足場が悪いから、普通にコケそうではあるけど。むしろゲームの時より遅いかなぁ」
今トトンが装備しているのは、メイン武装という訳ではない。
それでも余裕で対処出来るって事は……やはり身体の方も、ゲームの能力をそのまま引き継いでいると考えて良さそうだが。
こいつがヒュドラ一匹程度にやられる、という想像をする方が難しいと言うモノだ。
だがしかし、問題は相手の方。
「試しに、俺が攻撃してみても良い?」
「ちょいクウリ!? それは勘弁! 範囲魔法なんて使ったら俺も一緒に吹っ飛ぶって!」
「やらんやらん、安心しろトトン。普通の攻撃」
と言う事で、通常攻撃の“ファイアボール”を一つお見舞いしてみれば。
蛇の首の一つが焼けただれ、普通に怯んでいる。
レベルマックスだし、通常攻撃もかなり高水準ってのは理解しているが。
それでも、やっぱ変だ。
ヒュドラが、普通の攻撃でノックバックしているなんて有りえない。
「イズ、試しにまた“残影”を使ってみてくれるか? 勿論特殊効果なしの武器で」
「物理だけでって事か? 流石に火力不足じゃないか? あのスキル、攻撃力自体は殆ど無い牽制攻撃だぞ」
「ま、それでも普通の人にはあそこまで効果があった訳だし。お試しで」
そんな会話を交わしながらもイズは剣を構え、姿勢を落として突っ込んでいく。
うはぁ……トトンもそうだが、イズもどっか肝が据わってんな。
俺みたいな遠距離攻撃ならまだしも、あんなデカい蛇の化け物に平然と突っ込んで行ってしまうんだから。
「“残影”」
彼……いや今じゃ彼女か。
とりあえずスキルを使った結果、ヒュドラはバラバラと崩れ落ちてサイコロステーキみたいになっていく。
うん、やっぱり。
弱い、ゲームより。
「クウリ……コレって」
「だなぁ。まぁ普通に生物として存在してるのなら、これが当たり前なのかもしれないけど」
ダイラの言葉に、そのまま同意してしまった。
俺達がやっていたゲームには、対人戦だってあった。
そこで必要になって来るのは連撃であり、いかに相手に反撃の隙を与えないかという項目。
相手のHPが0になるまで、ひたすらハメてタコ殴りする。
それが必勝方だった訳だが……昨日のイズの試合を見て思った。
普通の人間、そんな斬撃を受けて普通に戦える?
いや、無理だよね。
これは人間に限らず、モンスターだって同じことだ。
つまり相手に攻撃が通るなら、それは後に響く負傷となり、HPがどうとか言う前に肉体が削られると言う事。
まぁ考えてみれば当たり前だ。
相手のHPが百だとしても、刃が通るなら十の攻撃で首を刎ねてしまえば。
体力が九十残っているからと言って、首の無い相手が生きている訳がない。
これまで以上に現実的に、更には周りに及ぼす影響も考えながら戦闘しなければいけないって事だ。
とはいえ俺達の身体がゲームキャラのままなので、どうしても感覚がバグってしまうが。
これはちょっと……いや、物凄く戦い辛いな。
俺が大火力を使えば、討伐証明部位なんぞ多分残らないぞコレ。
「まぁ、とりあえず今は良いか。ヒュドラの肉片回収して帰るか」
「あ、あの血の海の中に入るんだね……」
ダイラは物凄く嫌そうな顔をしているが、俺は案外平常心を保っていた。
こういう所も結構ゲームの、というかアバターの影響を受けているのだろうか?
リアルだったら、血だの内臓だのが散乱している場所に踏み込もうという発想自体が出てこなかった筈。
というか昨日イズが相手を斬ってしまった時点で、もっと大慌てしていた筈なのだ。
それこそイズやトトンも含めて、感覚がおかしくなっている可能性すらある。
ゲームキャラの記憶、というか経験? そう言ったモノも引き継いでいるのかもしれない。
良く分からないが、確かにコレだって異常な行動なのだろう。
「魔石とドロップアイテムを回収するだけなら、楽だったんだけどなぁ……」
はぁ、とため息を溢しながら前衛二人に近付いてみれば。
「クウリ、おかわりが来た!」
警戒した様な声を上げるトトンが、森の中を睨んでガンガンと盾を鳴らす。
無属性魔法は、とにかく身体に影響を及ぼす。
今のトトンは、リアルの頃よりもずっと目も耳も良くなっている事だろう。
だからこそ、誰よりも早く敵の接近に気が付いた。
そして、そちらに視線を向けてみると。
「ヒュドラ……大量発生してんの?」
「分からんが……囲まれたか。まさかこれ程数が居るとはな」
イズも剣を構え、警戒した様子で周囲に視線を配っている。
ダイラは完全に冷静さを失ったのか、悲鳴を上げながら俺にしがみ付いて来たが。
「いや、試すには良い機会か……ダイラ、イズとトトンと一緒に“魔力防壁”に籠ってくれ。一応、魔力反射も付けて。本気装備で、二重三重に掛けておいて」
「え、えぇ!? そこまでしないと不味いの!? 何やる気!?」
慌てながらも二人を近くに誘導し、俺を外に残した状態で“結界”とも呼べる防御魔法を作り上げるダイラ。
よし、んじゃやってみるか。
「装備は……流石にいつものは不味いか。特殊付与の付いてないのを選んでっと」
その場で杖だけを変更したが、この身に纏う装備は相変らず。
黒い鎧に、角も翼も生えている状態。
それでもメイン武器を変更したんだ、攻撃力はだいぶ下がっている筈だが。
「んじゃ、ちょっと検証に付き合ってくれよヒュドラ。いくぞーお前等、不味そうだったら追加で防壁張ってくれい。あ、フィールド設置型の蘇生魔法も使っておいて」
「クウリ! ホントに何やるつもり!?」
未だダイラだけは泣き叫んでいるが。
これから俺がやる検証、それは“フレンドリーファイア”の有無。
そしてそれが、どの程度なのかというモノ。
つまり、仲間達を巻き込みながら魔法を使う。
直接攻撃系なら、火を見るより明らかな結果になりそうだが。
例えば間接攻撃系のスキルなど。
それを検証しておかないと、怖くて範囲魔法がどれも使えたものではない。
かなり鬼畜な事をやっている様に見えるが、なるべく安全な内に試しておかないと不味い項目だ。
更に言えば……ゲームなら、こんな攻撃では間違いなく“仲間達は死なない”筈。
俺の攻撃だって、仲間達なら生き残れるはずなのだ。
最悪の場合は、蘇生アイテムを使うが。
と言う事で。
「“カオスフィールド”!」
「それ一番駄目なヤツ! クウリ自身が大丈夫か分からないじゃん!」
魔術を行使した瞬間、周囲には黒い空間が広がっていく。
まるで実体の無い“膜”に包まれたかのように、俺達含めヒュドラを呑み込んでいく訳だが。
果たして、どうなる。
この魔法は範囲内の敵に対し呪いを掛け、持続ダメージを与える。
コレを解除しなければ、徐々に持続ダメージは効果を増していき、死んだ場合は爆散して周囲のエネミーにも大ダメージを与えると言うスキル。
解除条件は呪いそのモノを解くか、行使した術者、つまり俺に一発でも攻撃を入れる事。
要するに、結構エグイ呪いスキルなのだが……何を試したかったかと言えば。
「ダイラ、どうだ!?」
「こっちは平気! 防壁にダメージを受けてる感じもしない!」
つまり、仲間には攻撃が入っていないと言う事。
直接的な攻撃ではないからなのか、それとも防壁に守られているからなのかは分からないが。
そんでもってもう一つ。
こういう“俺を中心とした”範囲スキルに、“俺自身”は含まれないのかという検証。
ダイラの防壁なら、最悪コレだって完全に防いでくれるとは予想していた。
しかしながら、行使した俺はどうなる?
もしも死んでしまった場合は即ダイラに蘇生してもらおうと思って、俺だけ外に出ていた訳だが。
「今の所問題無し……それどころか」
周囲に視線を向けてみると。
一匹、また一匹とヒュドラが力なく頭を下げてから爆散していく。
なるほど、この手のスキルなら俺は無事で居られる。
もっとエグイ検証をするのなら、次はもう一人魔術防壁の外に出てもらう必要があるのだが。
「それはちょっと、俺も嫌だなぁ」
はぁぁとため息を吐く頃には、周囲に集まって来たヒュドラは皆爆散した後だった。
内部から膨れ上がる様にして破裂、このスキル結構見た目がエグイな……。
とはいえ、分かった事が一つ。
間接的な魔術なら、多分仲間には影響しない。
防壁が削られていないとなると、そう考えて良いと思う。
逆に言うと、ダイラの使う範囲回復魔法なんかも敵には影響しない可能性が出て来た訳だ。
コレは、随分と良い検証結果だ。
とはいえ。
「全力が出せないのは、相変わらずなんだけどな……」
もはや溜息を溢すしか無かった。
俺のスキル、何処で役に立つの?
次の更新予定
2024年12月12日 18:00
自キャラ転生! 強アバターは生き辛い。 くろぬか @kuronuka
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