第11話 はじめてのおしごと


 色々あったが俺達の疑いは晴れ、実力テストも終わった。

 までは良かったのだが……。


「ねぇクウリ! コレ絶対新人が受けるクエストじゃないって! 明らかにおかしいって! ギルドの人達にいい様に使われてるだけだってば!」


 現場に向かっている途中、ダイラが滅茶苦茶泣き叫んでいた。

 が、しかしコレもテストというか……実力を見たいっていう事情らしく、支部長から御指名で頂いたお仕事。

 ある意味上司から直接依頼を受けた上に、この地に詳しくないって言ったら馬車まで出してくれたのだ。

 流石に断れない。


「まぁそうなんだけど……あんな事やらかした訳だし、受けない訳にもいかないだろ」


「クウリのビーム、周辺住民にも見られて大騒ぎになったみたいだしねぇ~」


 馬車の中でゴロゴロし始めたトトンが、半身を俺の膝の上に乗っけて来る。

 軽いなお前、ホント見た目通りだわ。

 あと尻が痛くなるのは俺も分かるけど、上半身乗っけて寝そべるんじゃねぇよ。

 男同士だぞ俺等。


「だがまぁ、魔物相手なら全力を出してみる事も可能だ。そういう意味では良かったんじゃないか? また人間相手にスキルを使ったらと思うと……正直ゾッとするよ」


 そう言って試合の時の事を思い出したのか、イズはグッと拳を握り締めた。

 マジで武人って感じだなぁ、コイツは。

 ダイラの治療が間に合ったから事なき終えたとはいえ、確かにトラウマもんだろうし。

 でも支部長が“仕方ない”みたいな態度だった所を見ると、やはり命の軽い世界って事で良いんだと思う。

 随分とまぁ、おっかない所に来てしまったものだ。


「でもまぁ、受付さんから度々授業が受けられるって約束が取れたのは良かったな。今回も色々教えてもらったし」


 とりあえず話題を変え、ギルドで頂いた地図を広げた。

 膝の上にはトトンが居るが、お構いなしにちびっ子の上に地図を乗っける。


「まだ未開の地が多いって事で、コレが現在の世界地図っと」


 なんかもう、オープンフィールドのゲームマップみたいだ。

 未開の地とか、完全にアプデ前の準備中って感じ。

 ちなみに俺達が辿り着いた街は、随分と地図の端っこに描かれている。

 そんでもって、俺達がやっていたゲームとは大陸の形がだいぶ違う。


「クウリも口が旨いよな。大物を相手した時に“忘却の魔法”を受けて、全員記憶が曖昧になってるとか言って、一般常識を聞き出す事に成功したんだから」


 イズが呆れた笑みを溢しつつ、地図を覗き込んで来る。

 うるせぇやい、ソレしか言い訳が思いつかなかったんだから仕方ないだろうに。

 まぁソレが通用して、色々と初歩的な事を教えて貰えたのは確か。

 この世界の事や、冒険者の仕事に関して。

 そして魔物やダンジョンの事などなど。


「あんまり考えたくなかったけど……やっぱり魔石や素材の回収は“解体”が必要だし、倒した魔獣や魔物は討伐証明部位が必要。うわぁぁ、俺自信無いよ。グロイの苦手だよぉ……」


 ダイラは既に青い顔しながらガクガクと震えていた。

 まぁ、そうよね。

 例え魔獣だったとしても、俺も自信無い。

 それが人型の魔物になってみろ、絶対吐く自信があるわ。

 その辺どうにかならない? と相談してみた結果、分かった事が一つ。

 死体ごと回収して来れば解体場へと持ち込み可能であり、解体は向こうでやってくれる。

 ただし有料。

 この場合は、そのままモンスターの素材も買い取ってくれるそうだ。

 他にもダンジョンでは、その場で死亡した生き物は全て“ダンジョン”で喰われるらしく。

 魔物や魔獣を殺せば魔石だけがドロップするらしい。

 当然コレにはデメリットもあり、まず貴重な素材になる相手だったとしても死体は全て無に帰る。

 更に言うなら。


「ダンジョンで死ねば、人間だって同様に喰われる……蘇生するなら、かなりタイミングがシビアになる。そうしないと復活は出来ない」


「俺等の場合、どっちかと言うと“ダンジョンも破壊可能”って方が問題じゃねぇ~? クウリが殲滅魔法使ったら、生き埋めになる可能性あるし。大技程使い所無くなってくねぇ~」


 地図の下のトトンが、のんびりとそんな声を上げるが。

 マジでソコなのだ。

 解体が嫌だ、ならダンジョン! という選択も、簡単に出来ない。

 ゲームじゃないんだから当たり前なのだが、壁抜きも出来れば普通に崩れる。

 もしも崩してしまって、その先に他の冒険者などが居れば最悪な事態になる訳だ。

 や、やりづれぇ……。


「ま、まぁとにかく! 今は依頼に集中しようぜ! 今回は沼地に現れたヒュドラだ!」


「だから普通新人が受ける相手じゃないんだってばぁぁ!」


 ダイラは再び悲鳴を上げるけども、大物であればある程俺達の実力を計るには都合が良い。

 とか格好良く言えれば良いけど、確かに怖い。

 未だゲーム感覚が抜けていない所もあるが、実際に相手が目の前に来れば当然恐怖を感じるのだ。

 しかしながら、どうしても確かめておきたい事もある訳で。


「そのヒュドラが、ゲームと同じなのかどうなのか。ソレを確かめる事、だな」


「イズ、正解。ソレが分かれば、売れる素材なんかも選別出来る。そうすれば、働かなくても素材を売って金に出来るかもしれない」


「とりあえず俺、給料入ったら服ほしー。ジャージだけだと、いつ駄目になるか分かんないし」


「それを言うなら俺が一番欲しいよ! いつまでも露出狂やってたら社会的に死ぬよ!」


 随分と騒がしい空間になってしまったが、何はともあれ金を稼がないと生きていけない。

 だからこそ、色々と調べたり確かめたりする必要があるのは確かだ。

 ついでに言うと、これくらいの大物を簡単に倒して来る程の魔術師だと証明しないと……もしかしたら俺、衛兵に取り調べ受けるかもしれないらしいので。

 流石に街中で大火力の殲滅魔法は不味かったか……反省。

 そんな訳で俺達のパーティは、この世界で初めてのお仕事へと向かうのであった。

 あぁぁ~自信ねぇ~……。


 ※※※


「大丈夫ですかね……彼女達、常識的な事も知らない雰囲気でしたけど。それなのに、ヒュドラって……」


「彼女達の実力は本物だった。なら、この程度は問題ない筈だ。それに……未だ彼女達が怪しい存在だと言う事には変わりない。ソレを確かめる為にも、色々とやって貰わないとな」


 受付嬢が淹れてくれた珈琲を啜りながら、ため息を吐いた。

 あの子達は、確かに強い。

 しかし、その強さに比べてあまりにも“慣れていない”というか。

 本人達は忘却の魔法を受けたなどと言っていたが、基礎的な事を全て忘れてしまうなど聞いた事がない。

 だったらそもそも、何故この地に辿り着けたのか。

 それですら疑問になってしまうのだ。

 更に言うなら攻撃術師の少女、クウリ。

 彼女は、特に危険だ。

 あれ程の攻撃魔法が、例えば街に向かえばどうなる?

 一撃で、数えきれない程の人々が犠牲になる事だろう。

 そんな力を持った者が、今の状態であるのは非常に不安定と言う他無い。

 もっと言うなら、あの四人全員が収納魔法の使用していたのだ。

 警戒しない方がおかしい。


「まずは彼女達が信用出来る人物なのかどうなのか、ソレを確かめる」


「長期戦になりそうですねぇ……」


「短時間で判断するのであれば、このまま兵に引き渡して取り調べさせるべきだな。恐らく、拷問という形になると思うが」


「そんな事になったら、間違いなくこの街は滅びますよ……」


 そうならない様に、こちらで調べているんだ。

 冒険者ギルドとは極端に言えば、“仕事が出来る”のならそれで良いという場所。

 雑用から魔物討伐まで、様々な仕事が飛び交うが。

 基本的に冒険者は言われた事が出来ればそれで良い。

 そして彼女達は、どれほど此方に従ってくれるのか。

 これは非常に重要で、今後に関わると言っても良い。

 更に言うと、あの四人の人間性も重要となって来るが……果たして。


「力を振りかざす暴君、という感じではありませんから、そこだけは安心ですけどねぇ……」


「それさえも、これからゆっくり判断していかないと不味い。彼女達が反旗を翻せば、こちらの戦力では話にならないだろうからな」


「“斬鬼”と呼ばれた支部長が、戦わずして負けを認めた程ですからねぇ」


「あんなものに勝てるか」


 ハッと乾いた笑い声を洩らしつつ、今一度ため息を溢してしまった。

 思い出しただけでも、震えあがりそうだ。

 この世界において恐れられている存在、“魔族”。

 アレは非常に強力な魔術を使い、身体能力も高いとされている。

 更には、他の種族に深い恨みを抱いていると言い伝えられていた。

 だがそんなモノより、ずっと恐ろしかったのだ。

 目の前に居た、クウリという少女が。


「世界には、こんなにも強く恐ろしい存在が居たのかと……正直、自らの矮小さが理解出来た気分だったよ。御伽噺に出て来る“魔王”というモノが存在するのなら、きっと彼女の事だろうな」


「かつての大物冒険者とは思えない発言ですねぇ、支部長。確かに凄かったですけど……そんなにですか?」


 アレは多分、目の前に立った者しか分からない。

 そして何より。


「アイツらは、多分アレですら相当手加減していた」


「……はい?」


 何とも、恐ろしい存在が現れたモノだ。

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