第2章「エリート崩れの叫び」早坂杏理5

 常に男が居ないと生きていけない。世の中にはそういう体質の女が少なからずいるらしいけど、マユリは、まさにそういう体質の女だ。中学時代は地味で目立たなかった彼女が激変したのは、チアリーディング部に入って、いわゆる目立つ女の子たちとつるむようになってからだ。

大きな試合があるたびに借り出されるチアリーディング部は、運動部の男子との接点が多かった。校内のカップルの大半は、運動部男子とチア部女子という組み合わせで、杏理たち特進科の女子は、男漁りに熱心なチア部の女たちを敵視し軽蔑していた。その中でも、三条マユリの男漁りぶりは有名で、バスケ部、陸上部、サッカー部、野球部、バレー部……それぞれの部のエースを狙っては堕とし、飽きては棄て……を繰り返していた。それだけでは飽き足らず、高2になると、マユリは、彼女がいる男を故意に狙うようになった。そのカップルの結束が固ければ固いほど執着を見せるというタチの悪さで、高2の秋くらいには、チア部の女たちからも呆れられハブられた。チア部で孤立したマユリは、チア部を辞めた。これで少しはおとなしくなるだろうと誰もが思った、が、彼女は留まることを知らなかった。次に彼女がターゲットにしたのは、特進科と進学科の男たちだった。難関といわれている大学に入れそうな将来有望な男たちを次々に堕としていったのだ。自分たちのテリトリーにまで侵入された、特進科、進学科の女たちは憤った。性悪女にまんまと引っ掛かるマヌケな男たちの情けない姿を目の当たりにして、特進科と進学科女子の怒りは頂点に達し、マユリをしめるというところにまで話はエスカレートしていた。そんな矢先、マユリに人生初めての屈辱を味わわせた男が現れた。特進科でも常にトップクラスの成績を維持し運動神経も抜群、佐藤健さとう たける似のイケメン、吉沢祐樹よしざわ ゆうき君だ。彼は、


「オマエみたいなブスとは付き合いたくない」


 と言って、マユリを見事に一刀両断したのだ。吉沢君が選んだ女は、同じクラスの岡田さんという、どこをどう贔屓目に見ても美人とは言えない地味で目立たない子だった。美人ではないけれど、みんなに優しくて、どこか気品が漂う性格美人の彼女を選んだ彼を、杏理たち、特進科の女たちは“英雄”として褒め称えた。


 吉沢君がマユリを“ブス”呼ばわりしたのは、外見ではなく内面のことだったのだが、そのことを理解できないマユリは、その頃から整形にハマリ、モデルやグラビアのオーディションを受けまくっていたらしい。

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