第2章「エリート崩れの叫び」早坂杏理6
「へえ、そうなんですか。それじゃあ、おふたりは、一体どこで友達になったんです?」
「うちのショップに
はっきり言って、杏理とマユリは“友達”と呼べる関係ではない。親睦会でマユリと再会した時、杏理は、関わり合いたくない女に会ってしまったといった思いでいっぱいだった。高校時代成績優秀だった女が落ちぶれてしまった様を知られることは屈辱的なことだった。
杏理は子供の頃から優秀だった。父は精神科医の権威であり大学教授、母は内科医。頭のデキが良くて当たり前のDNAに恵まれた。3つ年上の姉が都内の高校を卒業した年、父は、出身地の新設大学の名誉教授に迎え入れられた。東京女子大に進学が決まっていた姉を東京に残し、父と母と私は、この地に転居した。
当時まだ中学生だった杏理は、都内の進学校への入学を断念し、冥凰学園に入学した。冥鳳学園高校がいくら進学校と言われていたところで、都内の進学校とはレベルが違い過ぎる。ギリギリ逃げ切った姉に対し、自分はハズレくじを引いてしまったと杏理は嘆いた。
この頃から、真っ直ぐに敷かれていた筈の杏理の人生のレールは少しずつ少しずつ歪み始めていたのかもしれない。当然、入学当初、杏理は学年トップの成績だった。周りの人間すべてを心の中で見下した。努力なんて大してしなくとも1番が取れるものだから、だんだんと努力するのもバカバカしくなって、手を抜くようになっていった。何の目標も将来の夢も見出すことができずに、時だけが過ぎていき、高2の冬頃には、学年トップが維持できなくなっていた。焦りこそしたけれど、頑張ろうという気力が湧いてくることはなかった。高3の夏、模擬試験で第一志望大学の判定がAからBに落ちた。何とかなるだろうとは思ったけれど、何とかしよう、とは思わなかった。気付けば、入学当初、自分より劣っていると思って内心見下していた子たちに追い越されていた。結局、国立大学は全て不合格で、第三志望の都内の私立大学に進学した。
東大、それが駄目なら、早稲田か慶応か東京女子大にと考えていた両親は、あからさまに落胆した。1年浪人して再度受験することをしきりに勧めてきたが、杏理にその気はさらさらなかった。両親が望んでいた大学に合格することはできなかったけれど、杏理が合格した大学だって、世間一般的には難関と言われている大学だ。何も恥じることはない。あれだけ手を抜いても自分はこのレベルの大学に入ることができるのだ。やっぱりエリートなんだ。きっと、この大学でなら1番になれる! という妙な自信が杏理にはあった。
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