第10話 ばーさんの面倒を見る余裕なんてないと思う
「あっ、利生ちゃん」
「お風呂、上がったよ」
「えっ、早くない? 急いだんじゃないの?」
「いや気にしないで。私、早く済ませたかったし。でも……ちゃんと体も頭も顔も、きれいに洗ったよ。安心して?」
「そう……本当に、ごめんね。湯冷めしないようにね」
「うん、ありがとう」
ママは風呂上がりの娘を心配そうに見ている。私を急がせて、ばーさんへの気遣いをさせてしまって申し訳ないとでも思っているのだろう。いつだって私のママは、そういうことを気にするのだ。あの大迷惑ばーさんから生まれた三女とは思えない。いや反面教師にでもしたのか。
「ばあちゃんの前に、こうちゃんを入れなきゃ」
「あー、
好太は私の弟だ。好きで太っている、と書いて「こうた」と読む。名は体を表すのか、すごく太っている。好きで太っているかどうかは分からないが。
「あいつ今日、大人しいね。ばーさんたちが来てパニックになるかと思ったけど」
「うん、良かったよ。ただ、この先は……どうなるのか……」
「そうだよね……」
障がい者である好太の面倒も見なければならないのに、この先ばーさんの面倒も見なくてはならないのか……。はっきり言って怖い。
私はボケた大迷惑パワーアップばーさんと、デリケートな好太との相性が心配だ。ばーさんが余計なことをして、好太がパニックになってしまう展開が恐ろしい。太っていてデカくて、力が強い好太が大暴れしたら大変なことになる。昔、好太が家の中を荒らしまくったときがナンバーワンに大変だった。
逆に好太が、ばーさんを刺激してしまうのも怖い。あの2人が同時に騒ぎ出したら、間違いなく近所迷惑になってしまう。これまで我が家は、ご近所トラブルなど起こすことなく、何とか平和に生きてきた。でも、ばーさんが家に加わってしまえば……。
「それで、ばーさんは……まだあんな調子か」
今から風呂に入る好太の脱衣を手伝いながら、ママは指を差して「あっちで峰ちゃんたちを困らせているよ……」と言った。ばーさんは、まだ体をプンプン臭わせながら、グズグズ泣いている。その様子に峰子夫婦も、揃って疲れ顔。
「峰ちゃんたちも大変だよね……いつまでもメソメソされて、鬱陶しいだろうよ。ばーさん、同じこと何回も言ってんでしょ? いつも答えを出す気のない相談ばっかりして……やれやれ」
「そうね。ボケが始まってから、ますますひどくなったと思う……」
「ボケる前から厄介だったのに、それよりも今がすごいとか勘弁してよ……。あんなウザくて不潔な人間、一緒に住みたくないわ」
「もう少し大人しければねぇ……」
ママと私がタメ息を吐くと「オフロ、ハイル」と好太が言った。ママは「はいはい、こうちゃん」と止まっていた手を動かし、私は急かしてきた弟に「マジで容赦ねぇな、こいつ」とコメント。そんな私をママは「まあまあ、お姉ちゃん」と宥めた。
私は利口に生きられない 卯野ましろ @unm46
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