第2話 緩やかな転落
各々の得手不得手や元々の魔力量、才能なんかはあるにしても
どうしてこんなに差が広がるんだ・・・。
魔法実技試験の結果
”E判定”
教師「リックくん。・・・こういったのは何かのきっかけで急に伸びたりするものです。魔力を練って魔法を発現させることは水属性もほかの3属性も基本は変わらないんですよ。ひとつひとつの工程を丁寧に行えばできるはずです。」
―何度聞いただろう。
「・・・はい。」
実技試験以降、僕の魔法は全く成長していない。
筆記試験はいつも通り学年一位だったが、実技試験は最下位。
今までの成績や筆記試験の結果が良かったからか
授業でも試験でも強く叱責する先生はいない。
僕は魔力量がほかの人よりも多く、立派な魔術師になることを期待されて魔法学校へ入学した。が、ここまで魔法が使えない生徒が今までいなかったのか、先生方も教え方に悩んでいるようだ。
最近の授業ではクラスメイトは魔法の練度を高め、次の段階へ上がっていく中、僕だけ魔法基礎初期段階から変わらない。
カインや実技試験でA+判定だったアーサーに相談して、訓練に付き合ってくれていたが一向に成長できずに申し訳なくなり今は一人で訓練している。
魔法とは
魔力量は人によって違う。
どんな人も体内で魔力を生み出し、生み出された魔力を留めている。
その魔力を練ることで純度を上げ、使用することによって魔法を生み出す。
この純度によって生み出される魔法の大きさや精度が変わる。
生み出した魔法に含まれる自分の魔力を操作することで魔法は形を変えたり、移動させたりすることができる。
魔法使いの適正として、魔力を生み出す量や留めれる量が多い者が一般的に魔法使いの適才があるとされている。
僕は5歳の時には水を操り遊んでいたところを見た両親が町の魔術師のところへ連れられ、魔力量を見てもらったところ魔法使いの適正があるから魔法学校に通わせるべきだと強く両親に進言したことで裕福ではない家庭なのに両親が無理をして稼ぎ、魔法学校に通わせてくれているのだ。
せっかく両親が無理をして学費を出してくれているのだ。
必死に授業を受け、寮に帰ってからも復習し、次の授業の理解度を深めるために事前に範囲を予習していた。
おかげで筆記試験はトップで先生にたくさんほめてもらった。
それなのに、、、
水属性魔法しか使えない。
唯一使える水魔法も、ほかの3属性が初期段階で躓いているせいで予習・復習できずにいる。
むしろ水属性魔法の授業でも先生に「あなたは他の属性魔法の基礎を反復して行い、これ以上遅れないようにしましょう。」と言われ、最近はまともに受けれていない。
授業がおわり、今日も学校の訓練場近くの人が来ないところ一人で訓練を始める。
僕の魔法は試験を受けたあの日からあまり進歩していない
火魔法は相変わらず火を生成できないでいた。変わったと言えば以前よりも杖から出る湯気の量が増えたくらいだ。なぜ火を出そうとしているのに湯気が出るのかわからない。
土魔法は以前よりもドロっとした泥が生成されるようになった。例えるなら以前までは下痢くらいのドロっと具合だったが今は牛の糞くらいドロっとしている。固形なのかと聞かれると・・・いくらか液体に近い。
風魔法は他の属性に比べて成長したんではないだろうか?葉っぱを浮かせることができるようになった。他の人は小さな竜巻の中にある葉がぐるぐると周り運ばれていくが僕の風魔法の場合、葉はフワフワと運ばれている。
少々違いはあるにしても葉を運べるようになった。
「これなら・・・。一度先生に見てもらおうかな。」
久しく感じなかったわずかな気持ちの高揚感。
少しづつ進歩している。
風魔法の成長を見てもらおうと先生を探しに校舎へと向かう。
校舎の窓に先生を見つける。あれは、担任のマール先生。
先生同士で何か話しているようだ。
声をかける機会をうかがいながら先生に近づくと会話が聞こえてきた。
―やはり別の道を示すのも我々教職者の務めでしょう。」
「しかし彼は真面目で勤勉です。うまく魔法の発現できないのは我々の指導力が至らないからではないでしょうか?我々の指導方法を見直し、研鑽していくことで―
「マール先生。彼一人のために他の生徒の授業にも遅れが生じているのです。彼が勤勉なのはわかります。私も彼のレポートを見ました。教科書の知識だけでは書けない見解でした。一体どれだけの文献を読んだのか・・・。しかし、知識と技術は別です。」
「リン先生。その技術を教えるのが我々の仕事では―
「マール先生!・・・彼だけじゃない。彼らは大事な時期なのです。あの齢の子供は知識や技術を学び、吸収して、どんどん伸びていく大事な時期なのですよ。彼のことを思うからこそ、早い段階で魔術師の道をあきらめて別な道を示してあげるべきです。それに魔法学校の学費は高額です。彼の家は裕福ではない。」
「・・・確かに、ご実家は決して裕福ではないですね。」
「貴族などの富裕層であれば大した金額ではないのでしょうが、毎年一般家庭の年収ほどの学費ですよ?そんな学費をはらったのに魔術師にはなれず、このまま在学しても進級は難しいでしょう。彼のことを思うからこそ退学をすすめるべきです。」
「・・・次の、・・・次の試験結果をみてから彼に話してみます。」
―僕は手に持った魔術書を見つめながら寮へ向かっていた。
入学してから毎日何度も読んだ魔導書。ボロボロでページの角は破れかけ、雨に濡らしながら読んだこともありふやけてヨレヨレになっている。
学校での生活を思い出しながら歩いていたらすでに自室の前まで来ていた。
ドアを開けるとカインがこちらを見て声をかけてきた
「リック!おかえり!」
顔を上げてカインの声がするほうに目を向けると僕の机だった。
少し不思議に思ったのかもしれないが、その違和感が気ならないほど思考できなくなっていた。
声をかけてきたカインに僕は何か返事をした気がする。
無意識にカインの座る僕の机に向かうとカインが椅子に座っているから座れないことに気が付き、どうすることもできずにただ立ち尽くしているとカインがにやりとして僕の顔を覗き込んできた。
カインが椅子から立ち上がると机の上に置かれた箱が目に入る。
しばらく箱を見つめているとカインにせかされて箱を手に取る。
箱を開けると中には杖が入っていた。
カインの顔に目を向けるとカインはニヤニヤしながら話し出した。
「リックはさ。いつも一生懸命で。放課後の訓練も俺とアーサーに気を使って一人で特訓するようになったからさ。気になっていたけど、無理に一緒に訓練しようって言うとリックは余計焦るだろうからって。最近ずっと一人で特訓していただろ?」
カインの話を聞いているうちに徐々に思考を止めた頭が機能しだす。
「今年から魔法実技を習いだしたのにリックの杖だけボロボロだから、アーサーと小遣い出し合って新しい杖をプレゼントしようって話てたんだよ。」
魔術師の杖は高価だ。
学費が高い理由の一つがこの杖だ。
杖は学費の一部で学校が購入して支給されている。きっとまとめて購入した方が安くなるのだろう。それでも富裕層の生徒は個人で購入したものを使用している。
教材の杖とは違い高価な素材で作られている杖は魔力操作性能が高かい。まぁ豪華な装飾をされているために高額になっているものもあるが・・・。
アーサーの家は貴族でカインの家は商会を経営しているんだと言っていた。
裕福な家庭とはいえ、小遣いだけで買えるほど安価なものには決して見えない。
「こんな!杖なんてもらえないよ!こんな高価な!いくらしたんだ!杖だなんて。」
慌てる僕に対してカインが「まぁまぁ」という素振りをしているとドアが開いた。
アーサーだった。
―カインとアーサーの話を聞く
実はアーサーははじめこそ学年一位だった僕をおもしろく思っていなかったそうだが、いつだったか僕が落としたノートをのぞいた時に授業のまとめ方や独自解釈・ポイントの抑え方を見て驚いたらしい。そこから一緒に予習する機会が増え、アーサーが寮の部屋に来るようになり、カインも含め3人で談笑することもあり仲良くなっていった。
そんな博学で勤勉だった僕を最近では見ているのも辛い。
カインの両親の紹介もあり、卸値で譲ってもらった杖だから気にするな。
また前みたいに一緒に魔法を学び、談笑しよう。ということだった。
涙で二人の表情は見えなかった。嗚咽交じりでお礼を言う。
感情的になる反面、僕の心の底の不安はさらに黒く染まっていくのを感じた。
銀の操術士 タカティン @takahito0216
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