銀の操術士

タカティン

第1話 劣等生の日常



―それでは本日の授業はここまで。

ここまでが来週の試験範囲になるので各自復習しておくように。それと、今回の試験から筆記試験に合わせて実技試験も行われるので杖も持参するように。」


今日の授業が終わり、教室の同級生たちは様々な感情をいだき談笑している中、僕は席から立ち上がれずに一点を見つめて呆然としていた。


”実技試験”


言葉が出で来ない反面、頭の中では騒がしく思考が巡っていた。


―大丈夫、みんな今年から実技を習いだしたばかりだ。アーサーは4属性使えるとしても他のみんなは多くて3属性・・・。いや!2属性がいいところだろう!僕だって水魔法なら結構使えるし?平均点は越えられるだろう。問題は火属性か、だいたい魔力を集中させて火を生み出すなんて何の意味があるんだよ!火打石を使えば十分じゃないか!時間はかかるけどこっちのほうが安全に火をつけれる。みんなどうやって火を生み出しているんだよ!実技の授業は今年から始まったばかりだからまだ3カ月しかたっていないだろ!土魔法にしてもそうだ、今のみんなのレベルならその辺の石ころ投げたほうが幾分か強い。これから時間をかけてレベルアップしていけばいい。風魔法は調子が良ければ使えるし魔力もうまく巡らせれてる。5割・・・いや、8割は使えているんじゃなかろうか!実質1.8属性。いや!2属性使えると言えるんj―

―リック!どうした?早く帰ろうぜ!」


肩をたたかれ、驚いて顔を上げると教室には僕と同室のカインしかいなかった。

「お、おお。・・・帰るか。」


「それにしてもリックはいいよなー、筆記試験いっつも学年一位だもんなー」

寮へ帰る途中、いろいろと隣で話しかけてきたがこの言葉だけは聞き流せなかった。

「・・・筆記試験だけならな。」

ボソリとつぶやくとカインは「やっぱりなー」という顔をしてため息をついた。

「お前なぁ、俺なんて筆記はいっつも平々凡々。学年で20番以内に入れればいいほうだぜ?実技なんて10歳になる今年から授業が始まったんだ、焦ることはないって。俺だって水魔法はうまく使えないし火魔法なんて火球が全く的に当たらねーもん。」


「・・・っ。」


「それよりも今日の授業で先生が言ってた―

「あ、あのさ!」


カインの言葉をさえぎってしまった。


「・・・魔術書を持ってくるの忘れたから取りに戻るよ。先に帰っててくれ。」


走って引き返す。




人けのない川原につくと鞄から魔術書取り出した。


ため息をつくと魔術書を読み魔力を練った。

魔力の高まりを感じ杖をかまえる!が、期待した魔法は発動しなかった。

額に汗を感じながらもう一度魔術書を読み直し魔力を練る。

日が落ちて魔術書の文字が読めなくなるまで繰り返したが望んだ魔術が発動することはなかった。


「水魔法なら・・・。こんなに簡単なのに。」

ため息をつきながら杖を振った。

途端に川の水が浮き上がる。リックと同じくらいの大きさの水の塊が簡単に浮き上がり空中に留まっていた。


再びため息をつきながら杖を振ると水の塊は落ちた。

「・・・帰るか。」


今日は10年の僕の人生で一番多くため息をついた日だったなー。なんて思いながらとぼとぼと寮へと帰った。






翌週の午後


筆記試験を終え、これから始まる実技試験に向けぞろぞろと訓練場へと向かう。


生徒A,B「試験どうだった? ―学年が上がると一気に難しくなるねー」

生徒C,D「全然とけなかった、、、 ―お前算術得意なのに!?」

生徒E,F「やっと試験おわったー! ―ばーか、これから実技試験だろ。 ―実技は頭使わないから余裕余裕! ―はははは。」


実技試験を不安に思っている生徒はほとんどいないように見えた。


「よし、それでは実技試験をはじめる。」



火属性魔法の試験内容

火の生成。生成した火の大きさにより採点。そこから離れた場所にある的に当てる。

火の生成は大小まばらだったがみんなそつなく行う。しかし的に当てれた生徒は5割といったところ。


土属性魔法の試験内容

土の生成。生成した土を球体に変える。次に球体に変えた土を四角い形に変える。

土を四角く変形させるときにボロボロと土塊を壊してしまって綺麗に四角く生成できた生徒はほとんどいなかった。


風属性魔法の試験内容

風を発生させ台に置かれた葉っぱを浮かせる。そこから少し離れた場所に置かれたカゴの中に葉っぱを移動させる。

カゴは割と大きなカゴだったが、カゴの中に葉を入れた生徒は3割程度しかいなかった。


水属性魔法の試験内容

水を生成しコップの中を水で満たす。コップの水を操作して離れた場所に置かれたろうそくの火を消す。

何人かがろうそくの火に水を当てれずに消せなかったが、ほとんどの生徒が火を消すことができていた。




―リックの場合


火属性魔法試験

「んぬうぅうぅうぅぅぅううぅぅ」

リックの杖の先から煙が出ていた

生徒A,B「なんか温泉のにおいしない? ―ちょっとジメジメするねー」


土属性魔法試験

「ぬぐっぐっぐっぐぐぐっぐ、うおっ!」

ブベッ!ビチャビチャ ブビビッ

教師「リック!泥ではなく土!土を生成しなさい!」

生徒C,D「うわっ!きっっ ―ちょ、あれ本当に泥?うんこじゃね?」


風属性魔法試験

「ふぅぉぉぉぉぉぉぉおぅぉぉおぉぉ」

葉っぱ「・・・・・・・・。」

生徒「「・・・・・・・・・・。」」


水属性魔法試験

「・・・はぁー。」

ため息をつくとコップは水で満たされた。

満たされた水はまるで透明な細い管の中進むようにろうそくの火上まで移動し、すべての水が移動しきるとリックは死んだ目のまま杖を下し呟いた。

「・・・おわった。」

水球は落下してろうそくの火が消える。


そして試験が終わる。







「リック・・・。あまり気にすんなよ。それより試験も終わったことだし遊びにいこうぜ!川にパイクが来てるんだ!ロットとミースが釣り竿貸してくれるって!」


気が付くと教室には僕とカインしか残っていなかった。


「・・・そうだな。帰ろうか。」


「まあまあ、気分転換に付き合えって。それに釣れたら食堂のおばちゃんに頼んでうまいメシつくってもらおうぜ!」


「・・・そうだな。・・・帰ろう。」



カインに連れられ、気づいたら川原に座り込み釣り糸を垂らしていた。


「ミースの釣ったパイクが一番でかいな」

「俺の釣ったのもでかいぜ!」

「いや、おまえの釣った魚・・・それ食べれるの?」

「おっリック!ひいてる!上げろ上げろ!」

―ベス!」


・・・ベス?


川上のほうを見ると中州に濡れた子犬が残されていた。


「なんであんなところに子犬が!」

「あのあたり、結構深いそうだな・・・。」

「大人を呼んでこようよ!」



「おにいちゃん!ベスを助けて!」

子犬の飼い主であろう少女と目があった。


カイン達は大人を呼びにどこかへ行ったようだったが

僕は無意識に少女のほうへ走っていた。


少女の元につくと息を整え子犬のほうを見る

―たぶん行けるな。


杖がないのがいささか不安ではあるが、

「よ、っしょっと」


川が持ち上がった。


「ここにいて、ベスは僕がつかまえてくるよ。」


ぬかるんだ水のない川底を歩き中州へ向かいベスをつかまえる

―はい、でもなんであんなところに行っちゃったの?」


少女は元に戻った川をしばらく見つめていたがベスの鳴き声に少し驚き、我に返りこちらを向いた。

「えっとね。向こうでベスと遊んでいたらベスが急にリスを追いかけて。そしたら落ちちゃって、流されるベスを追いかけてたらあそこにベスがいたの。」


なるほど、橋から落ちて流されたのか。



―こっちです!あそこに子犬が。」

カイン達が大人を呼んできた。


偶然にも少女の父親だった

「おとうさん!」


少女はベスを抱えて父親のほうへ駆け寄り、何か話しているようだ


「リック!濡れてない?川に入って助けたんじゃないのか?」

カイン達が駆け寄ってきた

「馬鹿か、服が濡れるだろう。それに足がつかないくらい深いし。」


「ん・・・まぁ、そうだな。でも、どうやって・・・」

―あ!!!魚が!!!」


僕たちが釣りをしていたほう見ると野良犬だろう

釣った魚を食べているようだ。


「「「こらー!!!待てー!!」」」

僕たちは釣った魚を取り返そうと野良犬のほうへ走り出した。


走っていく途中、少女が大きな声で「ありがとー」を叫んでいたので

僕は振り返り手を振った。

少女も手を大きく振り返すのを見ると僕はカイン達を追いかけた。




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