第2話 弱虫の少年

 横にそれる道もあったけど、僕は真っすぐにドンドン行進していく、おともは〈狼王子コロボ〉だ。


 恐竜の骨を食べたから体が十倍に大きくなって、もうライオンみたいになっているぞ、たてがみが無いのがさびしいな、家にある画用紙でカッコ良いのを作ってあげよう。


 女の子だったら、ゴメンなさい。


 せまい道は急になくなり、小さな広場に出た、あっ、人がいるよ、子供のようだぞ。


 「あっ、だれ」

 「ごめんなさい」

 「いじめないで」


 広場の子供は、みんなすみっこに固まって、僕を恐る恐るおそるおそる見ている。

 こんな弱虫の僕が怖いなんて、どうしたんだろう、前によっぽど怖くて嫌なことがあったんじゃないかな。


 僕を怖がることなんて、しなくても良いと教えてあげよう。


 「僕は〈豪太ごうた〉だよ。 強そうな名前だけど、すっごく弱いんだ」


 「ほんと」

 「ぶったりしない」

 「いじめないの」


 まだ僕のことをうたがっているみたいだ、あっ、〈コロボ〉が怖いんだな、大きくなったからな。


 「心配いらないよ。 〈コロボ〉は良い子なんだ」


 「わん」


 「小犬は怖くないわ」

 「可愛いよ」

 「さわっても良い」


 大きくなった〈コロボ〉が子犬に見えるのが、不思議だけど、簡単かんたんなことだし願いをかなえてあげたいな。


 「さわらせてあげてよ、〈コロボ〉」


 「わん」


 〈コロボ〉はブンブンとヘリコプターのように、尻尾しっぽを振って子供達の方に駆けていった、僕といるよりも嬉しそうなのは、ちょっぴり淋しいぞ。


 〈コロボ〉は子供達とはしゃいでいる、僕と同い年くらいの子供達だけど、エッヘン、見守っている僕は少しお兄ちゃんの気分だ、あははっ、仲良く遊ぶんだぞ。


 「〈ごうた〉ちゃんも、遊ぼうよ。 〈はないいちもんめ〉が良いな」


 「えっ、〈はないいちもんめ〉ってどういう、遊びなの」


 「こうするのよ」


 僕はこの遊びが分からないから、ボーっと立っていたら、子供達が僕の両方の手をつないでいた、ヒャッとするほど冷たい手だった。


 僕の前に少し離れて、同じように手を繋いだ子供達が横一列よこいちれつになっている、左右を見ると僕は列の真ん中にいるみたいだ。


 だけど不思議なのは、その列がどこまでも繋がっているように見えるんだ。

 あれ、おかしいな。子供達は数人しかいなかったはずなのに。


 「かって嬉しい、花一、もんめ」

 「まけてくやしい、花一、もんめ」


 僕の頭がハテナになっている間に、もう〈はないいちもんめ〉が始まったらしい。

 僕もとなりの子の真似まねをして、わらべ歌を歌ってみよう。


 「鬼が怖くて行かれん、米がないから行かれない、あの子がほしい、あの子じゃわからん、相談しましょう、そうしましょう」


 前の列の子供の一人が、僕の目の前に進み出てきた、ジャンケンをするらしい。

 僕がパーを出したら、勝ってしまった、どうも前の列の子供の名前を言うみたいだ、でも誰の名前も知っていないぞ。


 二列につらななる子供達がずっと待っていることに、僕は耐えられなくなって、ヤケクソで「みっちゃん」と言ってみた、こんなに多いんだ、一人くらいいるだろう。


 僕の予想がズバリ当たったようで、僕の列のはしの方へ「みっちゃん」がわったようだ、ようなのは遠くて良く見えないんだ。


 それからも、〈はないいちもんめ〉の遊びは続いて、とうとう前の列には、二人の子供が残るだけになった。


 ジャンケンは僕が勝ったけど、二人のうち一人を選べばこの遊びは終わってしまう、残酷ざんこくな遊びだよ、最後まで「ほしい」とばれなかった子供は、すっごく悲しいだろうな。


 僕は〈ちずる〉ちゃんと〈はな〉ちゃんの、どちらを選んだら良いんだ、二人の名前は遊ぶ前から、どういうわけか分かっていた。


 二人が僕をじっと見てくる、うわぁ、ど真剣に見ないでよ。


 「〈ちずる〉ちゃんと〈はな〉ちゃんが、ほしい」


 「あー、二人もほしいって、〈ごうた〉ちゃんは、いけない男だ。 うふふ、そう言うのを女たらしって言うんだよ」


 「ほんとに困った、〈ごうた〉ちゃんだよね。 すごい女たらしだわ。 あははっ」


 「むっ、笑うなよ。 僕は女たらしじゃない、たらしたことがあるのは鼻水だけだ」


 「あははっ、〈ごうた〉ちゃんは、女たらしの鼻たらし、だ」


 「いやだ。 〈はな〉は〈ごうた〉ちゃんに、たらされてしまうの。 うふふ」


 他の子供達も調子ちょうしに乗って、僕を「女たらしの鼻たらし」と言うものだから、僕は〈クソッ〉と思った。


 そして良く考えた結果、金平糖をみんなに食べさせることにしたんだ、ナイスアイデアだろう。

 金平糖を口に入れれば、僕を「女たらしの鼻たらし」と言えなくなるぞ。


 「あっ、弾ける。 美味しい」

 「うわぁ、甘くて、刺激的だ」

 「うそ、飛んじゃう」

 「うっ、パチパチするんだ」

 「うふふ、またね」


 金平糖を食べた子供達は、びっくり仰天ぎょうてんな顔になった後、次々と飛んで消えてしまった。

 笑顔になったまま、けるようにみんな消えてしまった、僕はあっけにとられて口をあんぐりと開けるしかないよ。


 「わん」


 「ふぅー、〈コロボ〉、すっごく驚いたね。 先に進もうか」


 今度は大きな広場が見えてきた、周りは階段のようになっている、漫画に出てきたローマみたいだ。


 「おぉっと、今日の挑戦者は、か弱い少年だ。 たして強大な鬼を倒せるのか、どう考えても無理だろう。 わははっ、虐殺ぎゃくさつシーンが見られますよ、今日のお客様は大興奮だいこうふんですね」


 「うおぉー、良いぞ」

 「やっほー、引きかれてしまえ」

 「うひゃひゃ、血がドバっと出るんでしょうね」


 えっ、誰が話しているのか分からないけど、大きな声が聞こえてくる。


 僕は急に声が聞こえたから、パニックになりそうだ、それに嫌な感じの事を言われているのがヒシヒシと伝わってくる。

 誰もいなかった階段が、今はびっしりと何かが座っている、巨大な観客席だったんだ。


 そこに形が人間と違う者がうじゃうじゃといるぞ、でもユラユラと陽炎かげろうのようで、見ようとしても見ることが出来ない。


 「さぁ、始まりますよ。 赤コーナー、チャンピオンの大赤鬼の登場です」


 「ぐわぁー」


 いつの間にか、僕の目の前に大きな赤い鬼が現れていた、身長が僕の五倍はあるんじゃないか、こんなのと戦うなんて絶対に無理だ。

 信じられないくらい怖い顔もしているぞ、もう泣きそうだ、足がガクガクふるえて立っていられそうにないよ。


 「良いぞ、大赤鬼」

 「やっちまえ、食っちまえ」

 「血をドバドバだ」


 「青コーナー、挑戦者の〈ごうた〉少年だ。 名前だけは強そうです。 何秒持つかですね。 フォイト」


 大赤鬼が僕の方へ、重い音を出しながらのしのしと歩いてくるけど、僕は少しも動けない、〈挑戦者がどうして僕なんだ〉と、考えることしか出来ないんだ。


 恐怖で体が粘土ねんどのようになっている、かわいてカチカチだけど、逃げなくてはやられてしまうよ。


 でもそれ以上に〈なぜ僕なんだ〉とグルグル頭が回ってしまうんだ、その事がおかしいとどうしても思ってしまう。


 僕をつかもうと大赤鬼がばした手に、〈コロボ〉がかみついた、大赤鬼はかみつかれたまま〈コロボ〉を振り回している。


 「〈コロボ〉、危ない」と、僕は思わずさけんだけど、間に合わなかった。


 〈コロボ〉は強くかべたたきつけられて、「クゥン」と弱弱よわよわしく泣いて、その場で動かなくなってしまった。


 「あぁ、〈コロボ〉」


 僕はたおれて動かない〈コロボ〉に駆け寄かけよって、その体を抱きしめた、心臓の鼓動こどうは消えていない、体もあったかい。


 本当に良かったよ、〈コロボ〉。


 でも無茶むちゃし過ぎだ、けれど君はなんて勇気があるんだ、今度は僕の番だな。


 「くっそ、よくも〈コロボ〉を」


 僕はカッと頭に血が昇ったせいなのか、動けるようになったけど、ライオンみの〈コロボ〉でもまるでかなわないんだ、どうしたら良いんだよ。


 大赤鬼が近づくと、走って逃げているけど、こんな〈鬼ごっこ〉は続かないよ、僕は息が「はぁ、はぁ」言ってもうぐ走れなくなる。


 大赤鬼は遊んでいるんだ、だけど僕にとっては遊びじゃない、命がかかっている〈鬼ごっこ〉なんだ、足が痛いよ、胸が苦しいよ、涙が出てしまうよ。

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