第6話 恐怖と勇気

<三人称視点>


「アンタ、とう魔師ましなのよね?」

「……!」


 ベッドからなぎの顔を覗いた天音あまねは、ふいにたずねた。


「どうなのよ」

「いや、えと、それは……」

「別に深い意味はないわよ。昔からそう名乗る奴らが家を出入りしてたから、名前を知ってるだけ。朝の転校生が言ってたのも討魔師それでしょ?」


 凪夜が答えないならと、天音は上を向きながら続ける。


「父の仕事は知らないけど、怪異的なことをしてるのは知ってる。わたしに何かあるってことも。全部、盗み聞きから得た憶測だけど」

「……」


 天音に、彼女が“あかつき御子みこ”であることは伝えられない。

 口下手な凪夜は、口をつぐむことしかできない。


「まあ言えないわよね」

「す、すみません」

「じゃあ答えて」


 ならばと、天音は質問を変えた。 


「さっきいたのは、怪異?」

「……! やっぱり見えてたんですね」

「ええ。って、やっぱ討魔師なのね」

「……あ」


 凪夜はいいように聞き出される。

 もっとも、討魔師であることは隠していない。

 怪異が見えない一般人には、胡散うさんくさくて言えないだけだ。


「別に深く追及はしないわよ。話せないこともあるでしょうし」

「た、助かります……」


 聞きたい事は聞いたのか、凪夜に背を向けるよう寝返りを打つ。


「じゃあ、普段はああいうのと戦ってんの?」

「そ、そうですね」

「ふーん……そ」


 すると、ボソっと口にした。


「……やっぱアンタじゃない。助けてくれたの」

「え?」

「な、なんでもないわよっ!」

「すみません!」


 少し動揺気味に声を上げながら、天音は最後にたずねる。


「……わたしは、大丈夫なの?」

「だ、大丈夫のはずです。ひとまずペンダントをかけていれば」

「ふーん……」

「!」


 だが、後ろから眺める凪夜にはよく見えた。

 天音がまだ不安そうに震えているのが。

 

 いつも周囲を威圧している天音には珍しい。

 それでも、凪夜は改めて思う。


(そうだよ、御神楽みかぐらさんはあんな怖い目にったんだ)


 誰でも初めて怪異が見えたら怖い。

 大きな鬼におそわれたのなら、なおさらだ。

 自分の過去・・とも重ね、それを再認識した。


 ならばと、凪夜は勇気を振り絞って口にする。


「あ、あと!」

「?」


 陰キャらしからぬ言葉を。


「ぼ、僕が守ってみせます、から!」

「……! ふふっ……そ」

 

 天音が少し微笑んだのが聞こえる。

 それから、彼女は布団から手を出した。


「もう行っていいわよ」

「あ、はい! 失礼します!」


 その時に見えた手は、震えが止まっている様だった。


「……ったく」


 凪夜が保健室から去ると、天音がむくりと起き上がる。

 その手に取るのは、紫色のペンダントだ。


ペンダントこれもアンタが直したのね)


 天音はペンダントをぎゅっと握った。






『御神楽天音は怪異を見えてる?』

「そうなんです」


 昼休みの屋上。

 凪夜は、カシラに先程の一件を話していた。

 すると、明確な回答が返ってくる。


『それは“しょう”だな』

「魔障?」

『一般人が怪異に触発されて、怪異が見えるようになることだ』


 先日の天音は、死に際で感覚が鋭くなり、鬼が見えた。

 その時に魔障を受け、怪異が見えるようになったのだろう。


『私たち討魔師が怪異を見えるのも、先祖か親族がどこかで魔障を受け、その血を引き継いでいるからだ』

「なるほど」

『ちなみに、霊感が強いなどと言う者も魔障を受けてる場合が多い』

「……なるほど」


 世の中のオカルトにも、意外とトリックがあるようだ。

 聞いちゃいけない気分になりながらも、凪夜は続けた。


「御神楽さんが魔障を受けて、何か問題はないんですか」

『怪異が見える以外には、特にない。ペンダントで魂も隠蔽いんぺいしているからな。しかし……』


 だが、カシラはふと言葉にした。


『心配なのはむしろ精神面だろう』

「……!」

『世の中、討魔師私たちのように強い者だけじゃない。それはお前も良く分かってるはずだ』


 保健室での会話もあり、凪夜は強くうなずく。


「はい……!」

『お、珍しく良い返事だな。何か報告してないことでもあるのか?』

「い、いえ、そんなのないです!」


 だが、「守ってみせる」と伝えたことは恥ずかしくて報告できず。

 誤魔化ごますす凪夜だが、付き合いの長いカシラはなんとなく分かっている。 

 彼がやる時はやる男だと。


 そんな中、凪夜は一つ気がかりをたずねる。


「あと、行き帰りの護衛はSPに任せても良いんでしょうか」

『なに?』

「御神楽さん、前回は帰宅途中におそわれてましたし」

『……ふむ』


 凪夜の護衛任務は、校内のみ。

 行き帰りの護衛はSPに引き継いでいる。

 だが、そこで天音が襲われれば意味がない。


 対して、カシラは言葉をにごす。


『あまり言いたくはないが、あちらの家は少々厄介でな』

「え?」

『特に父がアレ・・なんだ。そのせいで討魔連盟うちとは仲が悪い。私も手を打ってはいるが、下手な口出しもできなければ、干渉も難しい』


 カシラなりの苦労があるようだ。


『だが、“暁の御子”を守ることは、古来より討魔師の使命の一つだ。こちらも出来ることをやるしかない』

「は、はい」

『御神楽家については、こちらでなんとかする。お前は指示を待て』

「わかりました」


 すると、今度はカシラが話題を変えた。


『そういえば、疾風はやてと顔を合わせたそうだな』

「あ! それ事前に言ってくださいよ!」

『なに、お前なら大丈夫だろう。師匠にもなったそうじゃないか』

「できれば友達になりたかった……」


 カシラの言葉には、所々凪夜への信頼が見られる。

 嫌がらせでこの任務につかせたわけではないようだ。


「疾風さんって、どういう人なんですか?」

『討魔の実力ではお前に劣るが、あいつはとにかく上手い・・・

「上手い?」

『ああ。社会に溶け込むのも、人の深いところに入り込むのも』

「!」


 カシラも、人見知りの凪夜だけに校内護衛を命令したわけではない。

 凪夜は、あくまで切り札。

 脅威が迫った時の“対怪異”としての役割を持つ。


『予想外によくやっているが、本来はお前と御神楽天音では会話すら成り立たないとと考えていた』

「……」

『コミュニケーション役は疾風に一任していたんだ』

「それって……」

『ああ』


 凪夜が対怪異役ならば、疾風は──


『お前も学ぶことがあるはずだ』


 対の役割を持つ。





 放課後、離れ校舎。

 

「そっちしっかり持て!」

「うるせえ、お前こそ!」

「おい、喧嘩するな!」


 二人の男子と、臨時講師の男がコソコソと動いている。

 小声で話しながら、段ボールを運んでいるようだ。


 そこに──


「何してんすか?」

「「「……!」」」


 後方から声が聞こえる。


 姿を見せたのは、疾風だった。





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