第5話 転校生と

<凪夜視点>


「転校生です。自己紹介をお願いします」

「うす!」


 先生が手を向けると、隣に立つ人は元気に口にした。


「名前は朝霧あさぎり疾風はやてっす! 九州から来ました!」


 入学からまだ一週間。

 転校してくるには明らかに変なタイミングだ。

 でも、クラスメイトにはそんなの関係なかった。


「「「きゃあーーー!!」」」


 黄色い声援が飛び交ったからである。

 改めて見れば、確かにかっこいいわな。


 高い身長に、程よい筋肉質。

 茶髪のセンター分けが似合うのは、あの美形の顔だからだろう。

 昨日みたいににらんでもないし、ただの爽やかイケメンだ。


 ……だから、だから頼むからやめてくれ。

 ニッコニコの顔でこっちを見るのだけは!


「へっへ」

「……っ」


 すると、先生は続けた。


「朝霧君、他に何かありますか?」

「あるっす!」

「……!」


 一瞬で浮かんだ嫌な予感は、すぐに的中した。


「俺は討魔師! あっちにいる月燈つきとうなぎさんの弟子っす!」

「……っ!!」


──おいいいいいいいい!


 心の中で盛大に叫ぶ中、周りはすぐにざわついた。


「月……え、だれ?」

「ていうか、“とうまし”?」

「嘘でしょ、アイツ?」

「朝霧君を変なのに巻き込まないでよね」

「サイッテー」


 ほーら、言わんこっちゃない!


 討魔師と言っても分かるはずがない。

 女子はひそひそ、男子はバカにした笑いを浮かべている。

 そんな中、とある男子が大きめに声に出す。


「はっ! あの陰キャの弟子とか、ダッセー!」


 ちょっとヤンチャな矢武智やむち君だ。

 両手は頭の後ろに、足は机に上げている。

 大方、黄色い声援が気に入らないんだろう。


「てことは、疾風アイツも高校デビューのカス──」

「おい」

「……!?」


 すると、疾風さんは矢武智君の襟元えりもとを掴んだ。

 

「今、師匠の悪口言ったか?」

「……ッ! じょ、冗談ですぅ!」

「フン、ならいい」

「ぐえっ」


 矢武智君がビビッて引くと、乱暴に席に戻した。

 その瞬間、教室は静まり返る。

 おそらく同じ事を思っているはず。


(((こっわ……)))


 みんな息を呑みながら、チラチラと俺を見てくる。

 まるで関わっちゃいけないたたりみたいな目で。


 ……だからやめてね。

 疾風さんあなたも「やってやったっす!」みたいな顔するの!


「コ、コホン。では今日から朝霧君も授業を受けますので」

「よろしくっす!」

「「「きゃあ~!」」」


 とは言っても、やはり女子からは人気があるようで。

 女子には手を出さないみたいだしな。


「師匠もね!」

「……はあ」


 まあ、悪い奴ではないのは確かだけど。







「ふ、ふぅ……」


 休憩時間になり、一人で廊下にすずみにくる。

 というより、退避しにくる。

 

 朝の一件以来、やけに視線を感じるからだ。

 原因は疾風さんの振る舞い分かっているけど。

 三限終わりでも、疾風さんの席周りには人が集まっている。


「疾風君は何が好きなの~?」

「師匠の好きなものっすね!」

「もう、月燈ソイツの話はいいから~」


 疾風さんは、口を開けば僕の話を出す。

 その度に嫌な目で見られるんだよ。

 そろそろやめてほしい。


「……はあ」


 とは言っても、しばらくは近寄れないかな。

 自ら女子に近づくなんて、心臓がはち切れそうになる。

 休憩時間はなるべく廊下でやり過ごそう。


 すると、他クラスの女子達が後ろを通って行く。


「見てこれ、幽霊だってさ」

「えー、どうせ嘘情報釣りでしょ?」

「オカルト好きっているよねー」


 まあ、そう言いたくなるのも分かる。

 普通の人は怪異が見えないからな。

 逆に見えてたら、今頃大騒ぎだと思う──あれとか。


『グゥゥ……』


 チラリと見えたのは、靴サイズの小さな怪異。

 たった今、女子たちの足元を抜けていった。

 危害を加える奴ではないので、放っておくけど。


「……」


 実際、ああいうのはそこら中にいる。

 感知できなければ声も聞けないので、みんな気づかないだけだ。


 もし気づいたら、それはそれでパニックに──


「きゃあああ!」

「……!」


 なんて思っていると、遠くで声が聞こえる。


 これは御神楽みかぐらさんの声か!?

 

「師匠!」

「うん!」


 バッと教室から出てきた疾風さんと共に、声の方へ向かう。

 討魔師の疾風さんにも“あかつき御子みこ”の話は伝わっている。

 カシラから「一緒に護衛しろ」とも言われていた。


「だ、大丈夫ですか!」


 階段近くに着くと、やはり御神楽さんがおびえていた。

 すぐさま疾風さんが声をかける。


「どうしたんすか?」

「な、何か黒くてちっちゃいものが通っていったような……」

「「……!」」


 その言葉には、疾風さんと視線を交わす。


 もしかして、怪異が見えているのか?

 でも、どうして普段から?


 ふと考える内に、周りがざわざわとし始める。


「なによ急に」

「奇声とか上げちゃって」

「注目浴びようとしたんじゃない?」

「うわーやっば」


 でも、御神楽さんだからか、向けられるのは白い目だ。

 どちらにしろ放置することはできない。


(疾風さん)

(うす)

 

 俺のアイコンタクトに疾風さんも合わせてくれた。


「はい皆さん、教室帰りましょうね~」


「えーなんだったのー?」

「朝霧君が言うなら従うけどー」

「ていうか朝霧君てさ~」


 さすがの人気だ。

 疾風が注目を集める内に、御神楽さんに声をかけた。


「い、一度保健室へ行きましょう」

「……ええ」

 




 

「あの、落ちちゅ、落ち着きましたかっ!」


 保健室のベッドで横になる御神楽さんに、再度たずねる。

 御神楽さんは、向こうに寝返りながら答えた。


「……アンタが落ち着きなさいよ」

「す、すみません」

「私は大丈夫よ」


 でも、体調は問題ないらしい。

 それならよかった。

 部屋の外にはSPさんもいるので、そろそろ交代しよう。


「じゃあ僕はこれで──」

「待って」

「え?」


 だけど、御神楽さんの顔がチラリに振り返る。

 そのジッとした目から、真剣にたずねられた。


「アンタ、討魔師なのよね?」

「……!」

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