ギャルゲー転生 〜兄妹タッグで恋の成就!〜

春風悠里

ギャルゲー転生

「なぁ……俺、紗夜ちゃんと上手くいくと思うか?」

「いかないと思う、だって兄貴だし」


 前世と同じ年齢の兄貴が、情けない顔で私を見る。

 

「おまっ、そんな姿になっても辛辣だな!?」

「多少の協力はしてあげるから、せいぜい頑張れば?」

「そうだな……頼んだぞ」

「こっちも忙しいんだから、できるかは分かんないって」

「だよな。お前も大変だな」

「ほんとよ」


 私たち兄妹は、気付いたらギャルゲーの世界に転生していた。「キュン☆ラブ」とかいうそのゲーム、実は私も兄貴も何人かと前世でエンディングを迎えている。


 前世でどうやって死んだかは分からないけど、兄貴と話し合った結果、どう考えても死んだのだろうという結論にいたった。もしかしたら木造一軒家だったし地震か何かで倒壊して下敷きになったのかもしれない。両親が生きていたらさすがに辛いだろうし、一家全員一瞬であの世行きだったのを祈るのみだ。


 なんにせよ、記憶がないことだけはありがたい。痛い記憶なんて覚えていたくはない。


 この「キュン☆ラブ」の世界で、私たちは前世と同じく兄妹だ。とはいえ前世では二歳差、ここでは十二歳差ときたもんだ。両親、どうしてそんなに期間をあけて頑張っちゃったの……だよね。ゲームの世界だけど。


 私たちはそれぞれで人知れず動揺し、生活しながら受け入れ、互いにゲームとキャラが違いすぎじゃないかと薄々勘付き、なんやかんやあって前世での兄妹だと判明した。そして互いに幸せになるためにはどうしたらいいかを話し合ったというわけだ。


「はぁ……もうすぐ来るぞ、紗夜ちゃんが。俺は大丈夫なのか」

「まずはボロが出ないように紗夜ちゃん呼びをやめたら?」

「そうだな。紗夜だな、紗夜。あー、緊張する。紗夜ちゃ……いや、紗夜に振られたらもう俺の人生はおしまいだ」


 既に挙動不審だ。こんな男、私なら選ばない。情けなさすぎる。

 

「前世でも終わってたんだから、元に戻るだけでしょ」

「終わってねーよ!? ちゃんと志望校に受かって高校生活を満喫してたぜ!?」

「ギャルゲーマーとしてね」

「お前もやってただろーが!」

「気になった子しかクリアしてないし」

「俺だってまだ途中だったんだよ! お前に奪われて!」

「気になったんだから仕方ないじゃん」


 ――ピンポーン。


 やいのやいの言っていたら、チャイムが鳴った。


 兄貴の幼馴染の高槻紗夜だ。兄貴が付き合える可能性がある子は、彼女だけだろうという結論にいたった。


 攻略相手は五人いる。


 たとえば、学年一の才女。兄貴にはおそらく彼女と渡り合える知的な会話はできない。バカなのねで終わりそうだ。


 他にはバスケ部のスポーツ少女。友人のノートを間違えて鞄に入れたと気づいてバスケ部の更衣室まで届けに行くも女子と男子間違えて……というハプニングが出会いだ。これは正直、ハードルが高い。兄貴がやった場合、ただの変態で終わる可能性もある。最悪、退学処分になるかもしれない。


 と、無理筋相手を消去していくと、お菓子づくりが趣味の平凡な幼馴染を狙っていくしかないと私は思った。兄貴にとっては、最初から彼女しか考えられなかったようだけど。なにせ前世での兄貴の最推し。等身大の抱き枕まで彼女をクリアして即買っていた。おそらく毎晩「紗夜たん紗夜たん紗夜たん紗夜たん」とか言いながら抱きしめていたんだろう。気持ち悪い。


 ま、紗夜ちゃんの等身大枕を買ったのを見て、そんなに面白いなら私もやろうと思ったんだけどね。


 私たちは玄関まで行き、引き戸をガラガラと開けた。


「健人君、瑞希ちゃん、こんにちはぁ〜!」


 明るい茶色の肩までのボブで、ポヤンとした雰囲気の彼女はその持ち前の可愛らしい声で一気に場を和ませてくれる。さすがギャルゲーの癒しキャラだ。


「おう、紗夜。今日もありがとな」

「紗夜おねーちゃん! 待ってたんだよ。ねぇ、持ってきてくれた?」


 私も四歳らしく頑張る。

 実は結構大変だ。


「もちろんだよぉ、瑞希ちゃんのために頑張ったんだから!」

「やったぁ。今日はなになに?」

「えへへ〜、チョコチップマフィンだよ」

「うわぁ、美味しそう! はるくん、一緒に食べようね」

「うん、食べよ」


 そう……紗夜ちゃんはいつも弟の春樹くんを連れてくる。やや人見知りで、私と同じ保育園に通っている。


 ほんと、かったるい。

 しかしだ。ゲームのラストでは突然結婚式まで時が飛んでいて、ちらっと参列する彼もスチルに描かれていた。


 ぶっちゃけ、かっこよかった。なので、幼児の相手は大変だけど可愛いくはあるし、どうにかかっこよくなるまで待ちたいと思っている。


 つまり兄貴とは協力関係だ。兄貴は「妹がはるくんに会いたがっているみたいでさ」と簡単にダブルデートに持ち込めるし、私も未来のために兄貴には上手くいってほしい。外野での繋がりも大事だ。


「じゃ、上がってよ」

「ありがと、健人くん」

「早く早く〜、マフィン食べた〜い!」

「大丈夫だよ、瑞希ちゃん。マフィンは逃げないよ」

「早く食べたいの〜!」

「可愛いなぁ、瑞希ちゃんは」


 紗夜ちゃんが私の頭をなで、春樹くんは言葉少なに私の手をそっと握った。


「大丈夫だよ、みーちゃん。逃げないよ」

「うん。そうだね」


 幼児って気軽に手をつなぐよね。ま、公園まで保育園で行くこともよくあるし隣の子と手をつないで二列で歩くのが基本だから、手つなぎは日常的だ。


 ……自分の手もだけど、どうしてこんなに小さい子供の手はあったかいのだろう。


 ◆


「それで、どうしたのかな。瑞希ちゃん」


 マフィンも食べ、ついでに料理好きな男はポイント高いからと兄貴につくらせたチーズケーキもふるまった。幼児の手先は不器用だ。私はお菓子本を見ながら指南だけしていた。土台のクッキー生地を砕くのを手伝ったくらいだ。


 今は女の子だけの話がしたいのと言って、紗夜ちゃんだけを別室に連れてきたところだ。


「あのね、えっと……にぃにのこと、どう思ってるのかなって」

「え、ええ!?」


 あわあわしている。本当に可愛いなぁ、紗夜ちゃん。


「にぃにね、紗夜おねーちゃんのために頑張ってケーキ作ってたの」

「うん。すごく美味しかったよ。瑞希ちゃんも手伝ったんだよね、えらかったね」

「最近、にぃに、少しおかしいでしょう?」

「え、えっと……」


 私が兄貴を兄貴だと気づいたんだ。紗夜ちゃんが違和感に気づかないわけがない。


「人ってね、読んでる本とかいろんなことに影響されて変わっていくと思うの。にぃにはなんだか反省したみたいで、ちょっと大人しくなったと思うの」

「あー……、うん。そうだね。難しい言葉、知ってるね」


 ゲームの中のイベントでは、気安いこの幼馴染に対してそっと背後から忍び寄りメジャーでバストの大きさを測ろうとするなんてアホアホなイベントもあった。兄貴がそんな大それたこと、できるわけがない。


「つまんない人になったなぁって、にぃにのこと思わないか心配で」

「あはは、大丈夫だよ。少し変わったのかなと思ったけど、大好きな健人くんの……あ。えへへ、内緒ね。そのままだよ」


 大好きって言った!

 じわっと涙が滲む。


 もう! 兄貴のことなんてそんなに心配してるわけじゃないのに!


 よかった、まだ大丈夫だ。望みはある。このまま恋人になるまでもっていける望みが!


「分かった。ありがと、紗夜おねーちゃん」

「うん」


 よしよしと、穏やかな笑顔で頭をなでられる。甘えたくなる優しさだ。私も紗夜ちゃんの等身大枕がほし……危ない危ない。変な世界に入るところだった。


「それじゃ、次ははるくんと二階で隠れんぼする!」


 兄貴と紗夜ちゃんを二人きりにさせてあげないと。


「うん。瑞希ちゃん、はるとずっと仲よくしてくれると嬉しいな」

「もちろん! はるくん好きだもん」


 幼児の好きなんてどうせ本気にしないでしょと思いながら、リビングへと戻って春樹くんを連れて二階へと向かった。

  

 ◆


 あいつも大変だよな。俺と違って幼児だからな。正直、幼児の群れの中に入って上手くやる自信は俺にはない。


「瑞希ちゃん、可愛かったなぁ。健人くんのこと、大好きだね」


 紗夜ちゃんが二階へ向かう二人を見ながら椅子に座った。


 二階か……大丈夫かな。あいつは、あまり周りを見ないからな。しかも今は幼児だ。バランスがとりにくいと言っていた。


「階段落ちないか、ちょっと後ろつけてくる」

「健人くんも、瑞希ちゃんが大好きだね」


 どうかな。

 ま、嫌いではない。

 

 心配の対象ではある。あいつは前世でもぴったりと後ろをつけている男にまったく気づかない奴だからな。当然見つけてすぐに追い払ったが……隙がありすぎる。ここでは歳が離れすぎていて学校はノータッチになるし、はるくんがあいつを好きで見守ってくれるなら心強い。今のままでは頼りないが、きっといい男になるはずだ。……あのスチルを見る限り。


 今も気が合うようではある。こっちでの母親が言っていた。「保育園の先生がね、瑞希とはるくん、よく園庭に張り出したテラスに二人で腰掛けて、まるで老後のように穏やかに周りを眺めていると言ってたわ」と。


 ま、はるくんは大人しいタイプなんだろうな。園でもほっとできる時間があるなら、少しは安心だ。


「よし、無事に二階に上がったな」

「ふふっ、いいお兄ちゃん」

「茶化すなよ」

「本当のことだよ〜」


 リビングへとまた戻る。


 互いに両親は土曜も仕事だ。保育園にあいつだけは任せるという手もあるが、俺がいるし大丈夫だと世話を請け負った。……世話なんてする必要ないしな。あの精神年齢で保育園生活はきっと辛い。


「瑞希ちゃんね、心配していたの。最近の健人くん、少し変わっちゃったけどガッカリしてないかって」

「あー……」


 あいつ、そんなことを聞いてくれていたのか。そうだな、確かに不信に感じているかもしれない。


 やっぱり、いい妹だな!

 これからも守ってやらねーと。


 それで……。


 紗夜ちゃんの表情をうかがう。ガッカリされている可能性は……。


「だから、大丈夫だよって答えたの」

「だ、大丈夫……」


 大丈夫ってなんだ?

 大丈夫ってことか!?

 いや、何が大丈夫なんだ!


「少し変わったのかなと思ってはいたんだけど、瑞希ちゃんを見る目、何も変わってないもん」


 あー……主人公、結構なシスコンだったな……って、俺はシスコンじゃねーぞ!?


「見守ってあげてる」

「あ、ああ」


 なんだ、そういうことか。


「そんな目をする健人くんが好きなんだ」


 ぬぁ!?

 俺のことを!?

 いや、目か! 俺の目だけが!?


「だから、今度そこの小学校でやる盆踊りに四人で一緒に行かない? もちろんご両親がいいって言ったらだけど」

「い、行く!」


 は、即答しちまった。

 胸がバクバクしてきた。もしかしてこれはかなりの脈あり……!


「ありがと! はるもね、瑞希ちゃんがいると『もう帰る』とか言わないし迷惑かけないかなって」

「いや、子供は迷惑をかけるもんだからな。ちゃんとそれ用に準備しないとな」


 小さい子供は結構好きだ。小学生の頃は子供会で低学年の世話を焼くのも可愛くて好きだったし、中学の頃は授業の職場体験に必ず近所の保育園を選んでいた。


 あいつは幼児なのに幼児じゃねーが……。


 まずは出かける前にトイレの確認だな。あいつが言っていた。「幼児の体、やばい。もよおしたらすぐ出る」と。あの精神年齢でおもらしは絶対に精神的打撃が大きいはずだ。あいつが気がつきにくい部分は俺がフォローしないと。


 ――盆踊りか。


 屋台もある。土曜開催だから両親は仕事だ。俺たちの転生前は、間に合えば夜のお楽しみ抽選会だけ参加していたようだ。記憶だけは引き継いでいる。その時間には屋台はもうやっていない。


 あいつ、たません好きだったな!


「あいつら喜ぶぞ! ちょっと声かけてくるよ」

「え、ご両親の許可は……」

「どうにかする!」


 廊下へ向かう俺に、背後からぼそっと小さな声が聞こえた。


「やっぱり、好きだなぁ」


 つい、振り返る。

 驚いたように目を丸くして少し顔を赤くしてはにかんだように笑う紗夜ちゃん。


 手をひらひらさせているけど、そんな言葉を聞いて踵を返せるわけがないだろう?


「俺は、大好きだ!」


 気づいたら、そう叫んでいた。


 ◆


 そうしてお祭りの日になった。


 あの日は「私も大好きだよ」と言って笑ってくれた紗夜ちゃんに「俺も大好きです」「私も大好きです」となぜか丁寧語で同じ言葉を繰り返して、気もそぞろに「お祭りに今度四人で行くからなー」と二人にお知らせに行った。そのあとはドギマギしながらお祭りの話をして終えてしまった。


 あとから、様子がおかしかった俺たちに気づいていた瑞希に何があったのかと聞かれ――、話したら「どうしてそこで付き合ってほしいって言わないの! バカなんじゃないの」と呆れられた。お祭りで何がなんでも恋人になりなさいと言われ、今四人で近所の小学校にいる。まだ夕方だ。盆踊りは始まっていない。あと一時間くらいは屋台などのお店だけだ。


「晴れてよかったね、健人くん」

「そ、そうだな」


 すぐ近所なので、小学校に現地集合になった。そしてなんと、紗夜ちゃんは浴衣だ。赤や桃色、紫の花が可愛らしい。


「ゆ……浴衣、可愛いな」


 よし、言ったぞ。女の子に可愛いなんて言葉を使ったのは初めてだけど、頑張った。


「ありがと。えへへ、そう言ってほしくて悩んだんだけど、着ちゃった」


 着ちゃった?


 ああ……そうか。はるくんは正真正銘の幼児だ。突然走り出す可能性だってある。そんな活動的なタイプではないけど、何かあったら俺が動こう。瑞希の世話を焼いている兄貴のようで実は焼かずに済んでいるからな。日頃、瑞希に楽させてもらっている分、カバーしないとな。


「似合ってるよ」

「あ、ありがと」


 ああ……なんて可愛い笑顔なんだ。って、見惚れている場合じゃないな。瑞希とはるくんに目を配らないと。


「ね、スーパーボールすくいに行こ、はるくん」

「いいよ。何色にしよっか」

「んー。どうしようかな。少し大きいのもあるよね、キラキラしてるのも」

「うん。家にね、六個あるよ」


 おお、幼児同士の会話のようだ……!

 瑞希、頑張れ!


「にぃに、スーパーボールすくいに行ってくるね」


 ちょ、走ろうとするな! 行ってくるじゃねーだろ!


「勝手に行くな! 一緒に行くぞ」

「別にいい。はるくんと行く」


 そんな、ジト目で見られても。幼児だけで行ったら店の人だって困るだろ。お金は持っていないと落ち着かないらしく一応小銭入れに500円入れて渡してあるが、自分だけで使えという意味ではない。


 幼児になって少しバカになったよな。子供の脳になってまだ世の中からの刺激が足りないのだろう。回転も遅い。やっぱり俺がちゃんと見てやらないと。


「駄目だ。保護者は必要だ」

「もー」

「もーじゃない」


 くすくすと笑う紗夜ちゃんと、並んで前を歩く二人を追う。


「ふふっ。瑞希ちゃんのこと、本当に好きだよね」

「え。別にそんなんじゃねーよ」

「好きだよ、絶対」

「……ほっとけないだけだ」

「そっか」


 そんなあったかい眼差しで見られると、そわそわするな。紗夜ちゃんとどうにか進展したい。さっき瑞希が来なくていいと言ったのも俺たちを二人きりにさせるためだろう。


 しかしな……瑞希が側にいるのに「恋人になってください」なんて言いにくいしな。


 瑞希とはるくんは幼児なのでスーパーボールはお玉ですくう。仲よくこれにしようかあれにしようかと話し合ってカップに入れるのを見守る。


「よし、次はたませんを食べるか」

「食べない。梨にする」


 ああ……なぜか梨も売られてるな。メジャーなのか?


「お前、たません好きだろ」

「……上手く食べられる自信ない」


 手先が不器用だし口も小さいから、苦労してるんだよな。


「ウェットティッシュもゴミ袋も持ってきた。落としても大丈夫だ」

「んー。じゃ、食べようかな」


 瑞希だと分かっていても四歳独特のぷくぷくほっぺのまんまるおめめでちょうだい要求されると庇護欲が湧くな。我が妹ながら可愛い。

 

 スーパーボールと違って受け取る位置が高い。はるくんも食べると言うので、紗夜ちゃんと一緒に列に並んだ。彼女は食べないらしい。はるくんが食べる補助をしたいのかと思って、俺が見てるぞと言ったものの首を振るので、あとで梨を四人分買おうと思う。


 ……梨は汚れないからな。


「やっぱり、健人くんと一緒に来てよかったなぁ」

「ん?」

「なんだか安心する」


 それは男として駄目なんじゃないか? 安心しないって言われるよりかはいいのかもしれないけど。


「ね、にぃにと紗夜おねーちゃんって恋人なの?」

「!?」


 ちょ! 妹よ! 突然ぶっこんでくるな! 空気を読め!


「え、えっと、あのな」


 ただでさえ暑いのに、変な汗がだらだらと突然吹き出してきた。紗夜ちゃんに視線を向けると彼女もあわあわしている。ここは俺が何か言わないと。


「こ、恋人だといいなと思うけど」

「そ、そうだね。恋人だといいなって」


 あー、もうどうすんだよ。前の列に並んでる大人が、あらあらまぁまぁって顔でこっちを見てるじゃねーか! おい、妹よ! 幼児にも程があるぞ!


「そっか、じゃぁ恋人なんだね」

「あ……ああ。そうだ……な?」

「う、うん。そうかな」


 顔を見合わせて、つい視線をさまよわせてしまう。


 あー、もう。後ろの列の中学生くらいの女まで「やっば」とか「めちゃ初々しくない?」とか言ってるじゃねーか!


「よ、よかっ……」

「瑞希!?」


 なんで泣くんだ!

 どうした、妹!


「どうしたんだ、瑞希」

「にぃに。この体、すぐ涙でるっ……」


 この体って、おーい!


「みーちゃん。悲しいの?」

「違うの!」


 あー、はるくんまで泣きそうになってる。瑞希もそれに気づいたな。


「あ、あのね。嬉しくて泣いたの。紗夜おねーちゃんがいつか私のおねーちゃんになるかもしれないから」

「……ねぇねは、はるのねぇねだよ」

「にぃにと紗夜おねーちゃんが結婚したら、私のねぇねにもなるよ。にぃには、はるくんのにぃににもなるよ」


 ……分かりにくいな。

 しかも話が飛んだな。


「そうなの? はるのにぃにになるの?」


 はるくんがっ……!

 俺を期待に満ちた目でっ……!


「おう! なるぞ。はるくんのお兄さんだ。皆でいつか家族になろうな」

「やった、嬉しい」


 はるくん!

 俺を慕ってくれていたのか……!


 胸があったかくなってきた。もうポカポカだ。夏だから凄まじくポカポカだ。


「たません、いくつだい?」


 あ、もう俺たちの番だ。


「えっと、二つで」

「あいよ。坂口さんとこの子だね」

「あ、はい」


 よく見たら、近所の人だ……。親と歩いていた時に挨拶したことが何回かある。この盆踊り大会での屋台は、近くの子供会や学童の親やそのまとめをする幹事も参加してるんだよな。俺の親も売る側だったことがある。


「いい兄ちゃんだ。頑張んな!」

「は、はい。ありがとうございます」


 これ、近所で噂になるだろう。


 たませんを紗夜ちゃんとそれぞれ受け取って列から離脱し、隅の方へと向かう。


「ねぇ、健人くん」

「お、おう。なんだ?」


 俺の受け答えのせいで、近所公認カップルになりそうだ。申し訳ない……!


 紗夜ちゃんが潤んだ瞳でじっと俺を見る。


「いつか、私と家族になってください」


 プロポーズされた!?

 そこは俺からするところだろう!


「おう。いつか、俺と結婚してください」


 紗夜ちゃんが極上の笑顔をくれる。


「はいっ」


 ――俺たちの結婚式で、瑞希がこの時の話を披露するのは、まだ先のことだ。


【完】

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