第4話 私は先輩の妹になんてなりたくない
西澤先輩から裏庭の場所を聞くと、彼女の静止も聞かずに私は食堂から飛び出した。
先輩の姿を見つけて、私の足が止まる。
掃除をしているはずの先輩は、ベンチに座って本を読んでいた。
実に優雅な姿。
少し強めの風が吹き、髪を揺らした。
相変わらず、極端に短い前髪。そして綺麗な黒い髪がベンチの上に垂れている。
久々に見る先輩は、特に何も変わらない。
変わらないはずなのに、あんなに綺麗だったっけ?
知っている人のはずなのに、知らない人のようにも感じた。
もしかして、高校の制服を着ているから?
何故か、ドキドキしてくる。
これは――なんだ?
もしかして、風邪なのかもしれない。
先輩が――顔を上げた。
こちらを見て、視線が重なる。
驚いた、顔。
「もしかして、澪?」
ベンチから立ち上がり、そんな馬鹿なことを尋ねてきた。
そんなの、私に決まっている。
だから、私は何も答えない。
先輩が近づいてくる。
今頃になって、私は少し焦ってきた。
だって、私はなんで先輩へ会いに来た?
それが、全くもって分からない。
分からないまま、私は食堂から飛び出し――ここまでやって来てしまった。
自分のことなのに、私には分からない。
今すぐ――逃げ出したくなってくる。
「へー、本当に何も変わらないわね。澪は」
と、先輩は言った。
それは、とても嬉しそうに。
だけど私はそれを聞いて、凄くショックだった。
だって、私は変わったと思う。
確かに、身長はそれほど伸びなかったけれど。
だけど私――先輩がいなくなってから、短かった髪を伸ばしたんだよ? そう、あなたのように伸ばして――少しぐらいは、大人っぽくなったと思う。
あなたが好きだと言った、紺色のカチャーシュまでつけて私は――――。
「中学の頃に戻った気分」
と、先輩は言った。
私は、過去を繰り返したいわけじゃない。
私は、変わりたい。
ん?
……変わりたい?
私は、変な方向に思考が飛んでいくのを感じ、必死にふりだしへと戻そうとした。
「澪は、相変わらずちっちゃくて可愛いわね」
そう言って、先輩は私の頬に触れる。
心臓の音が大きくなった。
身体の震えを気づかれないか――私はひやひやした。
なのに、相変わらず先輩は余裕そうだ。
私に触れても、私と目を合わせても――先輩にとってはなんでもないこと。
だから、ドキドキさせてやりたかった。
長い髪が好きだと言った。
カチューシャが好きだと言った。
だから、ドキドキさせたかった。
それが、無理だと分かりながらも。
「あらら、やばいわね――先生くるから、澪は早く戻りなさい」
先輩の手が離れると、私の身体は自由となる。
そして私は、逃げるように先輩から離れた。
先輩に会っても、無視すると決めていた。
でも、話したい。
今すぐ、尋ねたい。
何故――会いに来なかったのかと。
色んなモヤモヤを振り払うかのように、私は走った。
必死に走り続けた。
私は、先輩が嫌い。
大嫌いだ。
だから、私は先輩の妹になんてなりたくない。
私は先輩と――もっと、別の何かとなりたいのだから。
深い森の奥にあるこの女学園には昔からスール制度があるけれど、私は絶対に先輩の妹になんてならないから! tataku @nogika
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