第34話 冬樺の決意

 宗一郎さまは青灰色の羽をもつ鳥に姿を変え、空へと飛んで行く。

 霞がかった煙が後を追うように、鳥についていった。


「あの鳥はホトトギスだよ」

「なんでホトトギスなん?」

 夏樹の問いに、所長が答えてくれる。冬樺もなぜなのかと思っていた。


「ホトトギスはね、黄泉の国の使い鳥で、黄泉の国へ導く鳥だといわれているんだよ。彼らは、幽世で酒を酌み交わせるといいけど」


 四人で星空の浮かぶ夜空を見上げる。

「向こうで楽しい思い出話できるで、絶対」

「あたしもそう思う」

 戦いの直後だと思えないぐらい、優しい空気が漂う。


「人の子らよ、ご苦労であった」

 ふいに背後から、例の威厳ある声がかかった。

 振り返ると、鹿の姿の案内人が佇んでいた。


「麓まで案内しよう」

 背を向ける鹿について山を下りると、鹿は「報酬は近いうちに届けられるであろう」と言い残し、山に消えた。


「よし、帰るか。腹減ってたら、何か食べるか」

 所長の提案に、

「賛成!」

 夏樹がしゅっと手を上げる。


「真夜中に食べると太るんよねえ。でもなんか食べたい気持ちはあるなあ。う、でも」

「食ったら走ったらええねん。なんなら今から走る?」

 佐和の葛藤を見た夏樹が、その場で足を持ち上げて走る素振りを見せる。登山をした上、戦ってきたばかりなのにまだ体力が余っているらしい。


「十代のあんたと違って、こっちは代謝落ちてるんよ。腹ただしいわ」

「オレに怒られても知らんわ。所長、ラーメン食べよう。背油とにんにくたっぷりのやつ」


「ラーメン!? 夜中のラーメンなんてあかんに決まってるやん。コンビニで好きなもの買おうよ」

「ハイカロリーなやつがいい」


「カップ麺にしとき」

「物足らんわ。がっつりこってり食べたいねん」


「レジ横のホットスナックで充分カロリー摂取できるやん」

「佐和さんは何食べるねん」


「春雨スープ」

「カロリーなさ過ぎ。エネルギーにならへんやん」


「エネルギーに変換する代謝が落ちてるって言ってるやろう。話聞いてるん?」

「脂肪を霊力に変換する方法ないん?」


「あったらやってるわ」

 二人の話し声が、人の少ない駐車場に響き渡る。


「元気だな」

「元気ですね」

 数メートルほど後ろから、冬樺と所長はゆっくりとついていく。


「冬樺、今夜は悪かったな。気分悪くないかい?」

「はい。大丈夫でした。岩倉さんの怪我をした姿を見せられた時は、血の気が引きましたけど」


「妖は人の弱い所や隙をついてくるからね。騙されているとわかっていても、動揺してしまうよ」

「あの所長」


「なんだい」

「僕は、今日無力を痛感しました。知識で助けられればと思っていましたけど、川獺かわうそにあっさりと騙されて、あのまま近寄っていれば、僕は喰われていたかもしれません」


「知識はもちろん大事だよ。知らないよりは、知っておいたほうが生き延びる可能性は高くなる。ただ、実践も必要だと、学んでくれたと思うんだけど」


「はい。その通りです。だから、僕にできる戦い方を身につけたいと思っています」

「うん」


「所長の弓の技術を僕に教えてください」

「そう言ってくれるといいなと、俺は思っていたんだよ。知り合いの弓道の教室を紹介しよう。弓の基本を習いながら、霊力の使い方を教えよう」


「ありがとうございます」

「簡単じゃないけど、頑張ろうな」

「はい。よろしくお願いします」


 冬樺たちが車に到着すると、岩倉親子の夜食問題は、

「所長、ラーメン行くで」

「おう」

 佐和が譲ったのかどうかはわからないけれど、夏樹の主張が通っていた。

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