第26話 座敷童子の奈良観光6 鹿と柿の葉寿司

「他にも神社いっぱいあるんやな」

 夏樹は春日大社でもらったパンフレットを見る。


 春日大社周辺には水谷九社めぐり、若宮十五社めぐりという、パワースポットめぐりができる神社がたくさんあるらしい。


「全部参拝するのは、ちょっと大変そうね。午後からは大仏殿にも行くんでしょう」

「うん。大仏さんは見てもらわんとな」

 というわけで、パワースポットめぐりは見送ることになった。


「昼飯食べてから、大仏さん観に行こうか。花子ちゃん、小太郎、足痛ない?」

「平気やで」

「大丈夫だよ」

 二人とも元気そうな笑顔で頷く。まだまだ体力があるらしい。


「マリーちゃんも、大丈夫?」

「うん。大丈夫」

 マリーがにっこりと微笑む。


「ほんなら、参道を歩いて大仏殿まで行こうか。鹿もおるしな」

「わーい。鹿さん」

 花子がぴょんぴょんと飛び跳ねて、喜んだ。


 階段は危ないからね、とマリーと花子は手を繋く。


 なだらかな長い階段を下りて、二之鳥居まで戻り、真っ直ぐ続いている参道を歩く。森の中を切り開いた、自然が残る道を歩いていると気持ちが良かった。


 鹿がのんびりと闊歩したり、座りこんでいたり、葉っぱを食んだり。ハート型の白いお尻や自由きままな姿に癒される。


 バス通りを北上すると、交差点に出た。このまま真っ直ぐ進むと東大寺に出るが、

「昼飯、柿の葉寿司が食べられるお店にしようか」

 奈良の名産品グルメのひとつ、柿の葉寿司。鯖寿司を柿の葉で包んだもので、食べる時に柿の葉の香りも楽しめる一品。


 大仏殿に行く道から少しだけ外れたお店に入る。

 夏樹は揚げたてさくさくの天ぷらと柿の葉寿司のセットを、三人は柿の葉寿司と小うどん・胡麻豆腐のセットを注文した。


 一つひとつのお寿司が柿の葉に包まれていて、ほのかな香りがとてもいい。剥いてから食べる楽しみもあった。


 お腹を見たして、いざ東大寺大仏殿へ。


 左側に土産屋が並ぶ通りは、行き交う観光客であふれていた。春日大社は日本人が多かったけれど、ここは海外からの旅行者の方が多いようだ。


「土産は帰りに見ような」と声をかけて、止まりがちな足を進めようと促す。


 右手には公園と池があり、ここにも鹿がたくさんいた。木製のベンチでおやつを食べている人に鹿が近寄り、困っているような人。せんべいを持っていなくても、鹿が寄ってくるので、慌てて逃げている人もいた。東大寺周辺の鹿は、積極的な個体が多い気がした。


 巨大な門、南大門に足を踏み入れると、筋骨隆々の金剛力士像が左右で睨みを利かせていた。

 向かって右側には口を開けた阿形像あぎょうぞう、左側には口を閉じた吽形像うんぎょうぞう


 その大きさと形相ぎょうそうに迫力があるからか、小太郎はびくびくしながら急ぎ足で通って行った。花子は平気なようだ。マリーと手を繋いで、ゆっくり鑑賞していた。


 道なりに真っ直ぐ進むと、右側の池の中央辺りに小さな池があり、朱塗りの鳥居が見えた。池には大きな鯉が泳いでいて、花子が鯉にも夢中になっていた。

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