第24話 座敷童子の奈良観光4 洋装

「花子ちゃん、ワンピースや」

 おはようございますと、案内人に連れられてやってきた花子。今日は真っ赤なワンピース姿で、麦わら帽子をかぶり、サンダルを履いていた。


「似合ってるな」

 夏樹が褒めると、花子は嬉しそうに頬を緩ませた。


「それに小太郎、久しぶりやな。元気やったか」

「うん。元気やったで。友だちいっぱいできてん」


「すごいやん。もう迷子ならへんやろ」

「それ言わんといてーや」


 夏樹が子どもたちと話をしている間に、小太郎母が所長と話をしていた。

 昨日、所長は小太郎母の依頼を受けた。もちろんマリーからも承諾を得ている。

 大人だけと行くより、同じくらいの歳の子どももいた方が、より楽しいだろうという判断をだった。


 昨日、花子を連れてきた妖は、所長と連絡を取っていた幽世の案内人だった。今日は小太郎のことがあったので、小太郎母が案内人に代わって連れてきた。


「小太郎。迷惑をおかけしないようにね。花子さまはあなたよりずっと上の妖なんやから、言動には気をつけなさい」

 帰り際、小太郎に注意をし、夏樹たちに頭を下げて小太郎母は事務所を出た。


「花子ちゃんって、すごい妖やったん?」

 誰にともなく尋ねる。

 本人は無垢な瞳で、夏樹を見返してくる。とても高位の妖には見えない。


「ボクよりすごく長く生きてるって、お母さん言ってた」

 と小太郎が言う。


「年長者っていう意味かな?」

「花子さまは座敷童子だから、これ以上体の成長はない。だから弱い妖だと勘違いしてしまいがちだけど、ずっと長く生きていらっしゃるんだよ。幽世側が花子さまの存在を認識したのは、約300年ほど前だそうだ」

 所長が情報を教えてくれた。


「300歳。そんな前から生きてるんや。小太郎と同じくらいの歳にしか見えへんのにな」

 くるりと回転すると広がるスカートが楽しいのか、花子は何度も回転していた。


「花子ちゃん、目え回るで。もしかして、ちゃん呼びはまずい?」

 後半は所長に向けたもの。


 所長は「外でさま付けも変だから、花子さまが気にされていないなら、いいんじゃないか」

 と寛容な返事だったので、夏樹はちゃん付けで呼ぶことに決めた。


「おはようございます」

 扉がノックされ、マリーが顔を出した。


「おまたせしました」

 マリーの仕事着は着物だけど、今日は洋装だった。


 白のTシャツの上に、パステルイエローの七分袖カーディガンを羽織り、ボトムはミントグリーンのプリーツスカート。靴は緑のスニーカー。


「マリーちゃんのスカート姿、初めて見たかも」

「これスカートじゃないのよ。スカンツっていって、スカートに見えるパンツなの」

 右足を横にぱっと広げる。スカートではなく、ワイドタイプのズボンだった


「今日はたくさん歩くから、動きやすいようにね。あら? 花子さん、今日はワンピースなの? かわいい」

「お姉ちゃまもかわいい」

「うふふ、ありがとう」

 マリーと微笑み合っている花子を見ていると、付喪神のマリーよりも年上だとは、まったく思えなかった。


「あなたが河童の小太郎君ね。付喪神のマリーです。今日はよろしくね」

「え! あ……うん。よろしく」

 マリーに声をかけられた小太郎は、びっくりしたのか声を上擦らせた。


「それじゃあ、出発しましょうか?」

「そうやな。ほな、行ってきます」

「冬樺さん、お店、お願いしますね」

「はい。三人をよろしくお願いします」

 所長と冬樺に見送られて、夏樹たちは奈良観光に出発した。



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