幼馴染への初恋

星 月乃

第1話

行かないでっ……。

心の中でそう叫ぶ。目の前にいる彼の背中に向かって。

このままどこかに行ってしまったら、二度と会えない気がしたから。


私、桐崎紗奈は彼、月島暁登とは幼馴染で、家族ぐるみでの付き合いもあった。


初めて会ったのは私がまだ幼稚園児の頃だった。近くに引っ越して来たと暁登が両親に連れられ挨拶に来たのが始まりだった。両親の後ろに隠れるようにくっつきながら挨拶する姿がとても印象的だった。私は彼を一目見て、心臓がバクバクと音を立て、ドキドキが収まらなくなった。今思うとあれが初恋だったのだろう。


それからというもの、よく2人で遊んでいた。今後もその予定でいる。そのはずなのに、なぜか嫌な胸騒ぎがして収まらない。どうしてだろうか。


行ってしまう。なのに止めることすら出来ない。声が、出て来ない。


慌てた私は彼に後ろから抱き着いた。

「なっ、何をっ……」

彼は驚いた顔をして、私の方を振り返った。


そのとき、1台のトラックが突っ込んで来て、私たちが立っていた近くの柱に激突したのだ。近くにいた人々が駆け寄って行く様子が横目に見えた。


あと一歩遅かったら、もしかすると……。

そう考えると怖くなった。

「大丈夫? 泣いてるの?」

「え?」

気が付くと涙が溢れていた。

途端に力が抜けていくのを感じた。

「わわっ」

彼に支えられる。

「大丈夫?? 紗奈ちゃん」

何も言えずにいると

「……家まで送るよ」

と言われ、心配そうに抱きかかえられた。


家に着き、ベッドに寝かせられるが、今なお怖くて彼から手を離すことが出来なかった。

「お願い。もう少し一緒にいて」

「いいよ」

彼は優しく頭を撫でてくれる。

彼の手のぬくもりを感じ、安らいだ気持ちになる。

このままこの時間が続けばいいのに。

ついそう願ってしまった。


「少しは落ち着いた?」

「うん……ありがとう」

「……何かあったの?」

「えっ?」

「その、さっきから様子が変だったから」

「……いなくなっちゃう気がしたから」

「いなくなる?」

「うん。あっくんがいなくなっちゃう気がしたの」

「僕が? 僕はどこにも行かないよ」

「本当?」

「ああ、本当だよ」

「なら約束して。絶対に勝手にいなくならないって」

「うん、約束するよ。だから安心して」

私はその言葉を聞いてほっと胸を撫で下ろした。だが、私はまだ暁登から手を離したくはなかった。ずっとこのまま触れていたかった。


しかし、無情にもその時間に終わりはきた。暁登のスマートフォンからピロロンという音がした。 


「お母さんから?」

「うん。ごめん。もう帰らないと」

「そっか……」

「また会いに来るよ」

「……」

私は帰ろうとする暁登の服の袖を無言で引っ張った。


「紗奈ちゃん?」

「……好きだよ」

「……え? いっ、今、なななんてっ」

いきなりの紗奈の告白に暁登は狼狽えている。


「……動揺しすぎでしょ。余計に恥ずかしくなってくるじゃない」

そう言いつつ、紗奈は顔が熱くなっていることを感じた。


暁登は真っ赤になっている紗奈を見ながら、動揺しすぎて頭が真っ白になり何も言葉に出来ずにいた。

あの紗奈ちゃんが本当に僕のことを???

何か言わなきゃ。でもこういうときってなんて言えばいいの!?


紗奈ちゃんはいつも皆に優しくて、だからクラスの皆にも人気があって。彼女のおかげで今の僕があるんだ。僕は小さい頃から何度も紗奈ちゃんに助けてもらった。なかなか人に話しかけられなかった僕の手を引いてくれて。そんな紗奈ちゃんのおかげで友達も出来たんだ。


正直なところ突然の告白に暁登は嬉しかった。


歳を重ねるに連れ、高嶺の花と呼ばれるようになった美人で人柄も良い紗奈とでは釣り合わないと考えていたから。


「あっ、ありがとう……」

ようやく一言声を振り絞った。紗奈の方を見ると涙ぐんでいた。


「えっ!? 紗奈ちゃん!?」

「私じゃ、ダメ?」

「えっ、いや、そのっ」


どうやら間がありすぎて振られるのではと不安にさせてしまったらしい。


紗奈ちゃんが勇気を出してくれたんだから、僕もちゃんと応えないと。


「好きだよ」

「え??」

「僕もずっと前から紗奈ちゃんのことが好きだったんだ」

「嘘……」

「本当だよ。……あのっ、僕と付き合ってくれますか?」

「うんっ、喜んでっ」

そう言うと紗奈は思いっきりジャンプして暁登に抱き着いた。

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